脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~

景華

文字の大きさ
上 下
22 / 63
第一章

やっぱり過保護なオカンです

しおりを挟む
「ということで、一緒させてもらうことになった木月守、二十五歳です。よろしくね」

 爽やかな笑顔で挨拶する青年を、皆ぽかんとした表情で見上げる。
 無理もない。
 突然飛び出して、帰ってきたと思えば見知らぬ男を連れているのだから。
 しかも何の説明もなく帰ってすぐに通信石を発動するように言って、父親との会議に入ってしまったのだ。
 取り残されたようになってしまったのも仕方のないことだ。

「えーっと……。と、いうことなんで、皆仲良くしてください、ね?」
 無理矢理笑顔を向けると、しらっとした空気感が私を突いた。
 くっ……視線が痛い。

「はぁ……。まぁ、拾ってきたものは仕方がないとして、もういきなり飛び出していかないでください。……心配、しますから」
「アユムさん……。はい、ごめんなさい」

 アユムさんを前にするとやっぱりなんだか変だ。
 さっきの真剣な瞳が脳裏にチラつくと、顔がボンっと熱くなる。

“俺は、貴女といるこの世界は……悪くないと思ってる”

 アユムさんが……本当にこの世界にいてくれたなら……。
 そんなことまで考えてしまうのだから、もう末期だ。

 今まで一人で踏ん張ってきた反動なのだろうか。
 オカン気質で世話焼きの彼に惹かれてしまうのは。

「で、何で突然一人で出て行ったんですか? 俺、何もしていませんけど」
「へ!? あ、え、えっと……」

 言えない……!!
 疎外感感じて出ていきました、だなんて──!!
 冷静に考えたら、何だか子どもの家出みたいじゃない!?

「……次からは理由と、どこに行くのかをきちんと言ってからにしてください。俺が一緒でも大丈夫なら、一緒に行きますから」
「は、はい……」
 まるでお母さんに叱られる娘のような図になってしまった。

「ちょっとー、何二人の世界に入ってんの?」
「そうだよ。歩君が行くなら、私も行くー」
「いや二人の世界ってか……母と子じゃないか?」

 はっ……!!
 三人のことをすっかり忘れてた!!
 今までのやりとりを見られていたことへの羞恥が突然私を襲う。

 こんな子どもっぽいところを見られるなんて……!!

「ねぇティアラさん。私、歩君と元の世界に帰れるの?」
 不安そうに私を見るレイナさん。
“歩君と”。
 そうか。元の世界に戻ったら、二人は同じ日本人同士、繋がっていられるのよね。
 少しだけ、胸がツキンと痛む。

「えぇ。ボスを倒したら扉は開かれる──。きっと三人とも元の世界に戻ることができます。三人を見送って、私はこの扉を破壊します。これがあるから“贄”なんて制度が生まれたんですもの。それからカナンさんを町まで送り届けますね」

 あの“扉”に物理攻撃が効くのかはわからないけれど、何とかして無くさなければ……。

「アユムはここに残っても良いんだよ? うちに居候してもいいし」
「えぇ!? だめだよ!! 歩君は私と帰るんだから!!」
「こっちでの未来もあったって良いでしょ? 決めるのはアユムじゃん」
「だーめ!! 歩君だって、住み慣れた場所の方がいいに決まってる!!」

 またもレイナさんとカナンさんが言い合いを始めて、頭を抱えるアユムさん──と思いきや、ふと視線を向けた先のアユムさんは視線を私の方へと向けたまま、じっと私を見つめていた。
 な、何?
 私何かした!?

「あの……何か?」
 平成を装って尋ねるも、アユムさんは「……いえ、何でも……」と何か言いたげなのに決してそれを口にはしない。

 気まずい雰囲気の中、グゥ~~~~と場にそぐわぬ音が響いた。

「ごめん。何か皆いいとこなのに。俺、お腹すいちゃった」
 そう言ってははっと笑ったのはさっきパーティに加わったばかりのマモルさん。

「ふふ。そろそろ夕食にしましょうか。私はたくさん戦って汚れちゃったので、血を落としてきますね」
 まずはお風呂に入ってさっぱりしたい。
 返り血、キモチワルイ。臭い。

「見張りは俺がするので、少しだけ待っていてください。先にぱぱっと食事を作っちゃいますから」
 そう申し出たアユムさんに、私は首を横に振る。

「い、いいですよ!? 一人で大丈夫ですから!!」
 レイナさん達がお風呂の際には私が付き添い、その間アユムさんがご飯を作っていてくれるのだけれど、私がお風呂の際には変わらずアユムさんが見張りとして付き添ってくれている。
 そんなに頼りなく見えるんだろうか?

「だめです。何かあったらどうするんですか」
「エェッ!? だ、大丈夫ですって。私、強いですし」
「強くてもダメです。大人しく待っていてください」

 結局私は、心配性のオカンアユムさんの料理が終わってから、彼に付き添われてお風呂に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】百年に一人の落ちこぼれなのに学院一の秀才をうっかり消去しちゃいました

平田加津実
ファンタジー
国立魔術学院の選抜試験ですばらしい成績をおさめ、百年に一人の逸材だと賞賛されていたティルアは、落第を繰り返す永遠の1年生。今では百年に一人の落ちこぼれと呼ばれていた。 ティルアは消去呪文の練習中に起きた誤作動に、学院一の秀才であるユーリウスを巻き込んでしまい、彼自身を消去してしまう。ティルア以外の人の目には見えず、すぐそばにいるのに触れることもできない彼を、元の世界に戻せるのはティルアの出現呪文だけなのに、彼女は相変わらずポンコツで……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

処理中です...