脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~

景華

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第一章

やっぱり過保護なオカンです

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「ということで、一緒させてもらうことになった木月守、二十五歳です。よろしくね」

 爽やかな笑顔で挨拶する青年を、皆ぽかんとした表情で見上げる。
 無理もない。
 突然飛び出して、帰ってきたと思えば見知らぬ男を連れているのだから。
 しかも何の説明もなく帰ってすぐに通信石を発動するように言って、父親との会議に入ってしまったのだ。
 取り残されたようになってしまったのも仕方のないことだ。

「えーっと……。と、いうことなんで、皆仲良くしてください、ね?」
 無理矢理笑顔を向けると、しらっとした空気感が私を突いた。
 くっ……視線が痛い。

「はぁ……。まぁ、拾ってきたものは仕方がないとして、もういきなり飛び出していかないでください。……心配、しますから」
「アユムさん……。はい、ごめんなさい」

 アユムさんを前にするとやっぱりなんだか変だ。
 さっきの真剣な瞳が脳裏にチラつくと、顔がボンっと熱くなる。

“俺は、貴女といるこの世界は……悪くないと思ってる”

 アユムさんが……本当にこの世界にいてくれたなら……。
 そんなことまで考えてしまうのだから、もう末期だ。

 今まで一人で踏ん張ってきた反動なのだろうか。
 オカン気質で世話焼きの彼に惹かれてしまうのは。

「で、何で突然一人で出て行ったんですか? 俺、何もしていませんけど」
「へ!? あ、え、えっと……」

 言えない……!!
 疎外感感じて出ていきました、だなんて──!!
 冷静に考えたら、何だか子どもの家出みたいじゃない!?

「……次からは理由と、どこに行くのかをきちんと言ってからにしてください。俺が一緒でも大丈夫なら、一緒に行きますから」
「は、はい……」
 まるでお母さんに叱られる娘のような図になってしまった。

「ちょっとー、何二人の世界に入ってんの?」
「そうだよ。歩君が行くなら、私も行くー」
「いや二人の世界ってか……母と子じゃないか?」

 はっ……!!
 三人のことをすっかり忘れてた!!
 今までのやりとりを見られていたことへの羞恥が突然私を襲う。

 こんな子どもっぽいところを見られるなんて……!!

「ねぇティアラさん。私、歩君と元の世界に帰れるの?」
 不安そうに私を見るレイナさん。
“歩君と”。
 そうか。元の世界に戻ったら、二人は同じ日本人同士、繋がっていられるのよね。
 少しだけ、胸がツキンと痛む。

「えぇ。ボスを倒したら扉は開かれる──。きっと三人とも元の世界に戻ることができます。三人を見送って、私はこの扉を破壊します。これがあるから“贄”なんて制度が生まれたんですもの。それからカナンさんを町まで送り届けますね」

 あの“扉”に物理攻撃が効くのかはわからないけれど、何とかして無くさなければ……。

「アユムはここに残っても良いんだよ? うちに居候してもいいし」
「えぇ!? だめだよ!! 歩君は私と帰るんだから!!」
「こっちでの未来もあったって良いでしょ? 決めるのはアユムじゃん」
「だーめ!! 歩君だって、住み慣れた場所の方がいいに決まってる!!」

 またもレイナさんとカナンさんが言い合いを始めて、頭を抱えるアユムさん──と思いきや、ふと視線を向けた先のアユムさんは視線を私の方へと向けたまま、じっと私を見つめていた。
 な、何?
 私何かした!?

「あの……何か?」
 平成を装って尋ねるも、アユムさんは「……いえ、何でも……」と何か言いたげなのに決してそれを口にはしない。

 気まずい雰囲気の中、グゥ~~~~と場にそぐわぬ音が響いた。

「ごめん。何か皆いいとこなのに。俺、お腹すいちゃった」
 そう言ってははっと笑ったのはさっきパーティに加わったばかりのマモルさん。

「ふふ。そろそろ夕食にしましょうか。私はたくさん戦って汚れちゃったので、血を落としてきますね」
 まずはお風呂に入ってさっぱりしたい。
 返り血、キモチワルイ。臭い。

「見張りは俺がするので、少しだけ待っていてください。先にぱぱっと食事を作っちゃいますから」
 そう申し出たアユムさんに、私は首を横に振る。

「い、いいですよ!? 一人で大丈夫ですから!!」
 レイナさん達がお風呂の際には私が付き添い、その間アユムさんがご飯を作っていてくれるのだけれど、私がお風呂の際には変わらずアユムさんが見張りとして付き添ってくれている。
 そんなに頼りなく見えるんだろうか?

「だめです。何かあったらどうするんですか」
「エェッ!? だ、大丈夫ですって。私、強いですし」
「強くてもダメです。大人しく待っていてください」

 結局私は、心配性のオカンアユムさんの料理が終わってから、彼に付き添われてお風呂に向かうのだった。
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