20 / 63
第一章
”扉”の鍵
しおりを挟む「──と言うわけです、お父様」
私はテントに戻るなり、アユムさん達へのマモルさんの紹介もそっちのけで、アユムさんに通信石を発動させてもらい、お父様に報告をした。
「ふむ……」
難しい表情で腕を組んだまま唸るお父様。
「……私は……。私は、“扉”をぶっ壊すべきだと考えています」
「!!」
その場の全員が、私の発言に息をのんだ。
当然だろう。今まで誰もそんな馬鹿げたことを言い始めた者など存在しなかったのだから。
“扉”との共存。
それこそが、今まで誰もが考えていた“扉”の絶対原理。
私の今の発言は、それを覆すものであり、簡単にできるという確信すらもない曖昧なものに聞こえたはずだ。
「私は、レイナさんも、マモルさんも、そしてアユムさんも、元の世界に返してあげたい。皆、親御さんやご兄弟が心配しているでしょう。だから、“扉”を開けるために鍵を手に入れたいのです。お父様ならば手に入るのでは?」
お父様は宮廷魔術師として、管理役員と同じ魔術部に所属している。
いくら管理役員がどこからも圧力を加えられることのない独立した人達でも、影響力はあるのでは、という淡い期待を抱いたが──「それは無理だ」──すぐ様その期待は打ち砕かれた。
「っ、なぜ……!!」
「管理役員は王族の命しか聞くことがない。“贄”の話ですらティアラから聞いて初めて知ったほどに、我々には何も権限がないのだよ。奴らは王の僕《しもべ》。奴ら以外が“魔王の眼”を持つことも、鍵を持つことも許されない。それに、お前はそれならば管理役員を襲えばいいとか考えているかもしれないが、彼らが次にここに来るのはいつになるかもわからん。定期的な交流はしているが、先日交流があったばかりだ。下手をしたら一年後のその“贄”の時期とやらになるかもしれんのだよ」
鍵を持つのは彼らのみ……。
しかもいつ来るかわからない。
「そんな……」
消沈する私の肩に、そっと温かい手が落とされる。
「ティアラさん、ありがとうございます。でも、あなたのせいでも、お父さんのせいでもない。仕方のないことだから、あなたが気に病むことはありません」
黒曜石の瞳が優しく私を見下ろす。
「でも──っ」
「俺は、貴女といるこの世界は……悪くないと思ってる」
穏やかな瞳は瞬時に真剣なものへと変わり、私の鼓動が大きく跳ねた。
そんな真剣な眼差しで、そんなこと言われたら……勘違いしそうになるじゃないか。
私が彼の瞳に吸い込まれそうになっていると「ゴッホンッ」と一つ、お父様の咳払いが間を割って入ってきた。
「方法がないわけではないからな?」
「「え!?」」
何て!?
「本当ですかお父様!!」
私が映像に詰め寄ると、お父様は「うむ」と頷いた。
「“ヨミ”のボスだ。奴を倒すことで、“扉”は鍵がなくとも開かれるだろう」
「ボス……」
“扉”のある五層の次の層。
最後の層と言われる第六層にいるこのダンジョン“ヨミ”のボス。
どの程度の強さなのか、どんな魔物なのか、全てが謎。
冒険者が運よくボスまでたどりついても、そのままやられてしまうか、生きて帰ったとしてもそのものは口の利ける状態ではなくなっているし、管理役員が“魔王の眼”を使って確認したけれど、戦ったわけではないから何もかもがわからないのだ。
その際には管理役員ですら犠牲になっているし。
わかっているのは、“魔王の眼”が効かずに襲いかかってくること。
そして、大きい犬のような魔物だということ。
ただそれだけ。
……や……役に立たねぇ……!!
「どれだけ強いかはわからん。お前でも倒せるかどうか……」
「やります」
即答だった。
やれるかどうかじゃない。
やるんだ。
「ティアラ!!」
「ティアラさん!!」
お父様とアユムさんが声をあげるけれど、迷いはない。
私は、アユムさん達を元の世界に……あの世界に戻してあげられるなら、その可能性に賭けたい
前世、私はあの世界で生きて行くことができなかった。
きっと父と母をとても悲しませてしまったはずだ。
彼らには同じ思いをして欲しくはない。
「大丈夫です、お父様。私、脳筋聖女ですもの」
そう言ってへにゃりと笑えば、なんとも言えない表情でお父様が唸った。
「だがなぁ……」
「さっすがお姉様!!」
不安げなお父様の声をかき消して、明るい声が響いた。
1
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?

【完結】百年に一人の落ちこぼれなのに学院一の秀才をうっかり消去しちゃいました
平田加津実
ファンタジー
国立魔術学院の選抜試験ですばらしい成績をおさめ、百年に一人の逸材だと賞賛されていたティルアは、落第を繰り返す永遠の1年生。今では百年に一人の落ちこぼれと呼ばれていた。
ティルアは消去呪文の練習中に起きた誤作動に、学院一の秀才であるユーリウスを巻き込んでしまい、彼自身を消去してしまう。ティルア以外の人の目には見えず、すぐそばにいるのに触れることもできない彼を、元の世界に戻せるのはティルアの出現呪文だけなのに、彼女は相変わらずポンコツで……。

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる