脳筋聖女と《贄》の勇者~聖女の力は使えずとも、そんな世界、私が壊してみせましょう~

景華

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第一章

あちらの世界の秘密計画

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「はぁっはぁっ……だ、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……なんとか……」

 無事に一つ上の四層まで逃げ切ることができた私たちは、必死で息を整える。
 落ち着いてきたところであらためて男性を見上げた。

 すらりとした長身に、黒髪黒目。
 右の頬には大きな傷跡。
 アユムさんよりも若干大人びた風貌。

「君は……天使か……?」

 ──はい?
 なんて?

「あ、あの、お怪我は……」
「はっ……!! あ、あぁ、大丈夫だよ。ありがとう。にしても君、すごく強いね。俺はもう死ぬのかと思ったよ」
 ははっ、と笑う青年に、私も安心して笑顔を向ける。
「よかったです。私はティアラと申します。あなたはあちらの世界の方、ですよね?」
「あぁ。俺は木月守。助けてくれてありがとうね、ティアラちゃん」

 ティアラちゃん!?
 慣れない呼称に思考が一時停止する。
 もちろん前世ではそのような呼称で呼ばれたことはあったけれど、今世では生まれながらに貴族だった私は親以外には呼ばれたことなどない。
 ただ、私の場合前世の記憶があるせいか、今のティアラという名前ですらどこか他人のように感じている節があるのだけれど。

「え、えっと……」
 妙な恥ずかしさに言葉がうまく出てこない。

「あ、ごめん。馴れ馴れしいかな。俺より歳下みたいだったから“ティアラちゃん”って呼んじゃったけど、ドレス姿ってことはこっちの貴族、だよね。“ティアラ様”とかにしといた方が──」
「い、いいえ!! 大丈夫です!! 呼ばれたことがあまりなくて驚いただけですし、お好きに呼んでいただけたら大丈夫ですから!!」
 私が言うとマモルさんは安心したように「そっか、よかった」と息をついた。

「あの、マモルさんが扉から出てきたと言うことは、“贄”……なのでしょうか?」
 レイナさんが言っていたイレギュラーな“贄”。
 それが当てはまった。
 だけど返ってきた答えは、私の想像していたものとはまるで違うものだった。

「ん? あぁいや、俺は違うよ」
「へ?」
 違う?
 “贄”以外でここに来ることってあるの?
「違うって……じゃぁなぜ……」
「俺が、見てはいけないものを見ちゃったから──かな」
 翳りを帯びた横顔にごくりと息をのむ。
「見てはいけないもの?」

「……あぁ。“扉”の先──この“ヨミ”を通って、こちらの世界を侵略するっていう、大規模侵略計画」

「っ!?」
 侵略!?
 そんなことて……第一日本にそんなことができるの?
 こちらは魔物もいるし、魔法も使える人間だって限られてはいるけれど存在する。
 圧倒的不利だと思うんだけど……。

「なんて無茶な……」
「無茶とは考えてないんだよ、あっちの人間は。俺、“異界省”に勤めてたんだけどさ、苦手な上司から隠れるのにたまたま鍵が開いていた“禁断の部屋”に入っちゃって……。見ちゃったんだ。外国と合同で異世界を攻める計画書と、武器調達の書類、議事録──。その部屋に保管されてた……」
「っ……!!」

 “異界省”──。
 こちらに関する情報を扱う、総理大臣直轄の部署だ。
 こちらの管理役員との連携やあちら側の“扉”の管理などを担っている部署で、あちら側からの“扉”の鍵はあちらの管理役員が所持し、必要に応じて使うことができる。
 まぁ、あちらの要人をこちらに招く際の案内人としての役割を担っているのはこちらの管理役員らしいから、あまり使うことはないのだと思っていたけれど……こう言う時に使っていたのね。

「日本以外の国とも一緒になって攻め入ろうと……?」
「あぁ。あまりに夢中になって資料を読んでたから、見つかったことに気づかなくて……。背後から殴られて意識を失った俺は、気がつけば“ヨミ”の“扉”の前にいた。そして……魔界省の役人によって、ここに突き落とされた──ってわけだ」
「証拠隠滅……」

 なんてこと……。
 管理委員が所属する魔術部勤務である父が何も言っていなかったと言うことは、管理委員の目も欺いて進められている計画なのだろう。

 どんな武器を持ち出そうとしているかはわからないけれど、まず“ヨミ”の“扉”を潜らねばこちらに来ることはできないのだから、大型の武器は無理だ。
 戦車や戦闘機だって。
 まさに無謀な作戦。
 だけどそれだけ未知の世界への恐れが蔓延《はびこ》っていと言うことなのだろう。

 あの“扉”は──壊したほうがいいのかもしれない。

「急いでお父様に知らせないと……。マモルさん、私たちのテントに一緒にきていただけますか?」
 私がマモルさんを見上げると、彼は一瞬キョトンとした表情で私を見てから、すぐに笑顔を向け冗談めかして言った。
「あぁ。俺は天使ちゃんについて行くよ」

 アユムさんとはタイプが違いすぎて反応に困るけれど、悪い人ではなさそうね。
 私は苦笑いを返すと、マモルさんを連れてテントへと戻っていった。


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