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第一章
前途多難な3人暮らし
しおりを挟むぐつぐつぐつ……。
ジュー……ジュー……。
平たく大きな岩の上でジュージューと炎の魔石によって焼かれる目玉焼き。
その隣に私が新たに作った穴に、水と、二つに割った炎の魔石の片割れを入れ、グツグツと大きな一つの卵を茹でる。
そしてそれらの焼き具合、茹で具合をしっかりと監視しながら魔石を調整していく歩さん。
サイズが大きい“ヨミ”コカトリスの卵は、時々ひっくり返して面を変えながらじっくりコトコト茹でる手際の良さは、さすがオカンと言うべきか。
「歩君、やっぱりすごーい」
「いや、魔石の力だから」
「そんなことないよぉ。ここの人じゃないのに魔力があって、しかも使いこなせるだなんて、さすが勇者様っ」
「いや、とりあえず少し離れようか。お湯が散ったら危ないし」
「わぁー優しいーっ。歩君って料理もできて優しくて、本当、理想の旦那さんだね」
「……」
……うん、よそでやってくれ。
レイナさんが加わって二日。
彼女は基本アユムさんにべったりだ。
慣れない異世界ダンジョン生活で不安もあるのだろうけれど、多分、いや、確実にアユムさんに好意を寄せている。
まぁ無理もないわよね。
こんな閉鎖された空間に、顔も良いし性格も良い、料理もできるし腕っ節も強い同年代の子がいるんだもの。
彼の戦い方を見ていると、その基本の型は剣道のように思える。
あちらの世界でやっていたのだろう。
背筋がピンと延びて立居振る舞いが綺麗なところもモテポイントの一つな気がする。
何だろう、少しだけ、モヤモヤする。
きっと、アユムさんを守り甘やかすという私の野望が達成されないからだと思いたい。
寂しいとかじゃない。絶対に。
「ティアラさんご飯できましたよ」
「あ、はーい」
うん、安定のお母さんだ。
今日の夕食は巨大ゆで卵に魔物のベーコンと巨大目玉焼き。
それに桃によく似た果物だ。
卵は大きいから、アユムさんが一つを切り分けて皿に盛っていく。
「タンパク質多っ」
「仕方ないです。野菜はこのダンジョンにはなってないんですから」
今私たちが採って食べることができるのは、肉、魚、それにこの間の卵に、木型の魔物の死骸から採れる果物のみ。
テント周りの木からミント味の葉っぱを取ることもできるけれど、流石にミントをたくさん食べる趣味はなく、口をさっぱりさせたい時に口に含ませる程度だ。
正直、こんなダンジョンで食事に合う野菜を食べることなんて期待はできない。
少し前まで魔物肉の焼き肉しか食べてなかった私たちからすれば、卵や果物があること自体贅沢だけれど、ここに来たばかりのレイナさんに採っては不満しかないというのは仕方がないのかもしれない。
せめて果物類はしっかりと摂らしてあげないと。
「確か四層にまだ果物があったので、私、採ってきますね」
そう言って私が立ち上がると、「俺も行きます」とアユムさんも同じように立ち上がった。
「え? 良いんですよ。私、一人でも大丈夫ですし」
「ダメです。四層は討伐したばかりでしっかりと探索したわけではないですし、何があるかまだわかってないんですから。れいなちゃんはここで待ってて。すぐ帰ってくるから」
そう言うとアユムさんは、後ろからレイナさんが何か言っているのを聞くことなく、私の手を引いて四層へと向かった。
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