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第一章
守のは私だからね!?
しおりを挟む「お父様!!」
「ティアラ……!? 本当にティアラなのかい!? あぁよかった……!! 無事だったんだね!!」
心底安心したようなお父様に、私はしっかりと笑顔を向けた。
「えぇ、私は無事です。お父様は……無事、家にいらっしゃいますね、よかった……」
私の追放を聞いて城に殴り込みでも行っていたら、今頃牢の中だものね。
うちのお父様、意外と血の気が多いから。
「あぁ。リリィに止められてね」
お母様グッジョブ!!
「ティアラちゃん!!」
「お姉様!!」
「お母様!! ミモラ!!」
お父様を押しのけるようにして両サイドから映り込んできたのは、私のお母様と妹のミモラ。
「お母様、お父様を止めてくださってありがとうございました」
母がいなければプレスセント伯爵家もおしまいだったろう。
何せお父様は力の強い宮廷魔術師だ。
キレたら一人で城を半壊ぐらいはさせかねない。
「いいえ、あなたなら“ヨミ”でも大丈夫だろうと思っていたけれど……あぁでも、顔を見ることができてほっとしたわ……」
家族想いの優しい両親だ。
きっとすぐにでも殴り込んで、私を助けに来たかっただろう。
ティアラ・プレスセントは家族に恵まれている。
だからこそ、あまり心配や迷惑をかけてはいけない。
「ご心配をおかけしました。私は怪我もなく、今“ヨミ”の第三層におります。彼が色々助けてくださっているので、心細くもありませんわ」
と隣のアユムさんを見ると、家族の視線が一斉にアユムさんへと向けられた。
「この方は?」
「まさか新しい婚約者候補!?」
「違うわよ!!」
何言ってんのミモラ!?
流石に五歳下はもう無理よ!?
彼らからしたら私は年増。
もう……あんな風に罵られ続けるのはごめんだわ。
「勇者のアユムさんよ」
「初めまして、歩です」
私がアユムさんを紹介すると、画面の中の家族たちは皆目を丸くして言葉をなくしてしまった。
それもそうだ。
王都で話題の英雄と、別の意味で話題の中心になってしまった娘が一緒にいるんだもの。
「王女殿下の求婚を断ったら、ここに落とされたらしくて……。元は向こうの世界の人ですし、何とかして元の世界に戻してあげるつもりです」
私がかいつまんで説明すると、父も母もミモラも呆れたようにため息をついた。
「どうせ、『魔王を倒した褒美に美しい私と結婚させてあげるわ!!』とか、頼んでもないのに上から目線で言い出だしたんだろう?」
「え、あ、はい。まさに……」
「それで断ったら、『んまぁっ!! 若くて美しいこの私との婚約を断るなんてっ!! あなたなんていらないわ!! “ヨミ”へ送っておしまい!!』──って、“ヨミ”に落とされた。……ではないでしょうか?」
「え、あ、まさにその通りです」
お父様とミモラが裏声で王女のモノマネをして、アユムさんが頬を引き攣らせながら肯定した。
「あのわがまま王女らしいわね。さすが、あの兄にしてあの妹……」
それ私も思ったわ。
「学校ではメイリアが調子に乗ってるわ。王太子殿下からドレスをもらったんだとか、卒業パーティでパートナーにしてくれたんだ、とか。お姉様のことも……」
「脳筋聖女もどきとか、年増嫁ぎ遅れ聖女もどき、とか?」
私が自虐めかして言うと、なんとも言えない顔をしてミモラが「あぁ、うん、まぁ、そんな感じ」と答えた。
やっぱり。
全く、同じことばかりで芸がないわね。
「ミモラ。あなたが気にすることないわ。……事実だもの」
聖女判定されたのに魔法が使えないのも私。
女なのに腕っ節ばかり強くなっちゃったのも私。
嫁ぎ遅れて嫁の貰い手がない余り物なのも私。
それらは全て、事実なのだ。
「お姉様……」
「でもねミモラ。腹が立ってないわけじゃないから、私は意地でも生きてやるつもりよ」
やられっぱなしで死んでたまるもんですか。
彼らが私を葬りたいのなら私は意地でも生き残ってみせる。
「そのためにも、今一層ずつ魔物を全滅させて行っているところなの。通信石は過去にここで無くなった白骨君からお借りしたわ」
後できちんと埋葬して弔ってあげよう。
「そうか……。だが、元気そうでよかった。こちらは聖ミレニア国王の国葬の参列を終えて知らせを受けた陛下が急ぎ帰路についたところで、まだ混乱が続いている。陛下がどのような采配をなさるかもわからぬ以上、今はまだそこから出ない方がいいだろう。時々情報を報告する。状況を見て、出られそうになったら魔法ロープを持ってくるから、それまで待っていてくれ」
「わかりました、お父様」
お父様の魔法ロープがあれば切れる心配もなく上まで登ることができる。
それまでに全層制覇して、アユムさんを元の世界に戻してあげないと。
やることは山のようにある。
でも王妃教育も公務補助もない分、時間はたくさんある。
むしろ暇人だ。
一個ずつ、クリアしていけばいい。
「アユム殿。ティアラをよろしくお願いします」
「はい。もちろんです。ティアラさんは、俺が守ります」
お父様はアユムさんのその力強い応えに満足げに深く頷くと、「じゃぁ、またね」と言って通信は切れた。
……いや、だから、私が、アユムさんを守るんだからね!?
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