2 / 63
第一章
死のダンジョン”ヨミ”
しおりを挟む──暗い。
でも所々の岩についている光苔《ヒカリゴケ》のおかげで、うっすらと周りは見えるから、歩けないこともない。
ゴツゴツとした岩壁。
ひんやりとした冷たい空気。
魔法のロープによって吊るされながらここまで落とされてしまえば、私がどんなに上を見上げても出入り口は遥か遠く、もう外界の光は見えない。
ここが絶望のダンジョン。
あちらとこちらを繋ぐ“扉”が存在する場所──“ヨミ”。
今から十年ほど前、この“ヨミ”の第五層目で鍵のついた“扉”が発見された。
あちら──私がかつて暮らしていた世界へと続く“扉”。
私には前世の記憶がある。
魔法などと言うものが物語の中にしかない世界──日本という国で前世の私は生まれた。
花の女子高生最後の年。
大学も決まって、これから彼氏を作ってエンジョイするぞ!! ……と友人達と意気込んでいた──そんな時だった。
前日の大雨の影響で増水した川沿いを歩いて登校していると、私のすぐ目の前で、増水した川を覗き込んでいたランドセルを背負った男の子が川へ落ちたのだ。
増水しているとはいえ、高校生である私ならば大丈夫だと、私はすぐに飛び込み、傍に生えた草に捕まる男の子を抱え、土手上へと押し上げた。
そしてすぐに自分も上がろうとしたけれど、滑《ぬめ》りに足を取られ、さらには増水し流れの速くなった川に流されてしまい……、気づけばこの世界で、キラキラした美人なお母様とお父様に囲まれていた──というわけだ。
──異世界転生。
しかも記憶付きって、なんて素晴らしいチート!? ──と喜んだけど……。
身体はごく普通に赤ん坊だし、「あむあむ」「まむー」ぐらいしか発語できないし、動けないしで、最初はものすごく苦労したのを覚えている。
何よりおむつ替えの時の羞恥心よ……。
あぁ、思い出したくもない。
と、話は逸れてしまったが、この“ヨミ”にある扉は、なんと私の前世の世界と繋がっているのだ。
私が前世住んでいた日本という国に。
しかも私が転生した時間軸は日本のある世界とは別の時間軸で、なんと扉が発見された時の西暦は私が死んで一年後だったのだから驚きだ。
“扉”とその鍵が発見された最初の頃は、あちらの世界はこちらを、こちらの世界はあちらを攻めようと、危うく世界戦争になりかけたらしい。
だけど当時のあちらの総理大臣、厚木総一郎含む各国首脳と、この聖マドレーナ王国の王ジル国王との間で協定が結ばれて、事なきを得た。
それから法整備が進み、今では聖マドレーナ王国の国宝である“ヨミ”の魔物除けの魔道具を持つ限られた役職の者だけが時々行き来しているくらいだ。
決められた者だけが“扉”とともに発見された鍵を持ち、通ることを許され、それ以外の者は通ることができない不思議な“扉”。
とりあえず“扉”は放置で、このダンジョンで生き延びることを考えよう。
幸い私には、魔法は使えないが腕力がある。
武器だって隠し持っているし、私の武術ならば生き延びることは可能だ。
よし、早速寝床でも──……。
「ギギィィイイイイ!!」
「いやー!! 何この音!!」
黒板を爪で引っ掻いたような深い音が響き渡り、私は顔を上げあたりを見回した。
「っ!!」
うそ……囲まれてる──!!
くすんだ黄土色の肌。
緑色のぎょろりとした目。
端の尖った大きな耳と口。
王立学園の授業で習ったわ。
これは──ゴブリン……!!
いくつもの緑玉がこちらを見て、そして一斉に飛びかかった──!!
「ギギギギギイイイイイ!!」
「っ!! この──っ!!」
私が隠し持っている武器を繰り出そうとドレスの裾に手をかけたその時──。
ザンッ──シュッ……!!
「へ?」
「大丈夫ですか?」
バタバタと次々に倒れるゴブリン達。
と同時に、落ち着いた深く低い声が響く。
そしてその屍の間を通り、黒髪の若い騎士が、白く光り輝く剣を片手に私を見下ろした。
1
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる