1 / 63
第一章
脳筋聖女、追放されました
しおりを挟む聖マドレーナ王国。
異世界から来た勇者によって隻眼の魔王が倒され、国中が湧いたのはつい最近のことで、ここ最近のこの国の大きな話題は二つ。
闇の勢力を伸ばそうとした魔王を倒した若き勇者様について。
そしてこの国の王太子と婚約者の結婚について、だ。
聖女信仰の熱いこの国で私、ティアラ・プレスセントは伯爵家の長女として生まれた。
生まれてすぐに神殿に所属する大司教によって聖女認定を受けた私の中には、聖なる力が宿っている──らしい。
そんな私は五歳の時、この聖マドレーナ王国の王太子である生まれたばかりのウェルシュナ王太子殿下と婚約した。
聖女を王族に引き入れたいという大人の事情なのだろう。
とてつもなく厳しい王妃教育に明け暮れ、五歳下の殿下が王立学園を卒業するのを待って結婚──の、はずだった。
「ウェルシュナ殿下。そちらの方は……」
私の視線の先には、婚約者であるウェルシュナ王太子殿下。そしてその腕にヘビの如く絡みつくピンク……、ゴホン、大変可愛らしい御令嬢。
「彼女は私の妃になる。私の最愛の女性──メイリアだ」
「こんばんは、ティアラ様」
メイリアと呼ばれた少女はにっこりと笑って優越感に浸っているかのように無邪気に挨拶をする。
メイリア・ボナローティ子爵令嬢。
んなこた知っている。
確かウェルシュナ殿下の二つ下。
一年生の女子だ。
私の最愛の妹であるミモラと同級生だから、あの子から話はよく聞いている。
ウェルシュナ殿下に必要以上に親しくしている女性がいる──と。
私が聞きたいのはそういうことじゃない。
なぜ婚約者でもない彼女が、ウェルシュナ様の腕に絡みつき、パートナーとして卒業パーティに出席しているのかということだ。
確か三年生以外は家族と婚約者しか出席できないことになっていたはず。
ウェルシュナ王太子殿下の婚約者として正式に招待されている私を差し置いて、なぜ、“部外者”である彼女がここに?
──ん?
待って。
今この人、私の妃になる、って言った?
「あの、殿下。妃、とは?」
「文字通り、私の妻だ」
さも当たり前かのようにのたまう目の前の男に、私は驚き目を見開いた。
「どういうことです!? 私は──!?」
「お前はもう私の婚約者などではない」
「っ!? 何……ですって……?」
そんな話、初めて聞いたわ。
お父様やお母様も、婚約者ではなくなっただなんておっしゃっていなかったもの。
じゃぁ一体、いつから?
「聖女だというだけで生まれてすぐに五つも年上のお前なんぞと婚約させられ、これまで王太子として耐えてきたが……。いつまで経ってもお前は魔法を使うことができないではないか!!」
「!!」
あぁ、痛いところを……。
そうだ。私は聖女でありながら、魔法を使うことができない。
使おうとしても魔力は流れることなく不発に終わってしまうのだ。
「魔法は使えんくせに剣の腕だけは上げていきおって……。この脳筋聖女が!!」
「のう……きん……」
確かに私は強くなった。
いざというとき、聖女の力がなくとも王太子を守れるようにと叩き込まれた剣術と体術、各種武器の扱いだって心得がある。
腕力だって毎日鍛錬を重ねて鍛え上げたから、そんじょそこらの騎士にだって簡単に負けることのない力を持ってしまった。
どうせ聖女の力が使えないのなら、力だけでも、と。
ただひたすら鍛錬し続けた結果だ。
「でもそれは──」
「言い訳は無用だ!! 聖なる力を使えない女など、聖女として意味はない。婚約は破棄し、二十三年間、聖女であると欺き続けてきた罪として、お前を“ヨミ”送りとする!!」
「!?」
“ヨミ”送り──!!
ウェルシュナ殿下の宣言に、成り行きを見守っていた人々のざわめきで溢れるダンスホール。
“ヨミ”送り。
それは罪人に下される最大の罰。
“ヨミ”と呼ばれる特殊なダンジョンには、とても強い魔物が多く生息し、今まで生きて帰った者はいない。
事実上の死刑──。
国王陛下も王妃様も、急遽同盟国である聖ミレニア国の国王の葬儀に参加することになって昨日から不在。
おそらくそれをチャンスとして暴挙に出たのだろう。
そう……。
わかったわ。
婚約して十八年。
そう、十八年間も耐えてきたというのに、この男はそんな婚約者の死を望むというのね。
ていうか、私は一度も自分が聖女だなんて言った覚えはないし、聖女だとも思ったことはない。むしろ私にそんな力あるわけないとも思っているのに、勝手にお告げだなんだと大騒ぎして婚約者に仕立て上げたのは国王や神官たちじゃない。
とんだとばっちりだわ。
私の中で、何かが弾けた。そんな気がした。
そっちがその気なら私──“ヨミ” に行って、“生き延びて”やろうじゃない……!!
「ご命令、謹んでお受けさせていただきます」
ざわめきが先ほどよりも大きくなって、誰もが国王夫妻も伯爵夫妻も不在の中での王太子独断による断罪に、戸惑い顔を見合わせる。
この場にお父様がいなくてよかった。
いたらきっと──……。
……まぁ、あとはお母様がなんとかしてくれるでしょう。
そして私は、真っ直ぐに目の前の十八年間婚約者であった男を見てから、にっこりと笑った。
「それでは皆様。──ごきげんよう」
2
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
囚われの姉弟
折原さゆみ
恋愛
中道楓子(なかみちふうこ)には親友がいた。大学の卒業旅行で、親友から思わぬ告白を受ける。
「私は楓子(ふうこ)が好き」
「いや、私、女だよ」
楓子は今まで親友を恋愛対象として見たことがなかった。今後もきっとそうだろう。親友もまた、楓子の気持ちを理解していて、楓子が告白を受け入れなくても仕方ないとあきらめていた。
そのまま、気まずい雰囲気のまま卒業式を迎えたが、事態は一変する。
「姉ちゃん、俺ついに彼女出来た!」
弟の紅葉(もみじ)に彼女が出来た。相手は楓子の親友だった。
楓子たち姉弟は親友の乗附美耶(のつけみや)に翻弄されていく。
★【完結】棘のない薔薇(作品230327)
菊池昭仁
恋愛
聡と辛い別れをした遥はその傷が癒えぬまま、学生時代のサークル仲間、光一郎と寂しさから結婚してしまい、娘の紅葉が生まれてしあわせな日々を過ごしていた。そんな時、遙の会社の取引先の商社マン、冴島と出会い、遙は恋に落ちてしまう。花を売るイタリアンレストラン『ナポリの黄昏』のスタッフたちはそんな遥をやさしく見守る。都会を漂う男と女。傷つけ傷つけられて愛が加速してゆく。遙の愛の行方はどこに進んで行くのだろうか?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
薔薇の姫は夕闇色に染まりて
黒幸
恋愛
あらすじで難解そうに見えますが本編はコメディです、多分メイビー。
その世界は我々が住む世界に似ているが似ていない。
我々がよく知っているつもりになっているだけで、あまり知らない。
この物語の舞台は、そんなとある異世界……。
我々がイタリアと呼ぶ国に似たような国がその世界にはある。
その名もセレス王国。
重厚な歴史を持ち、「永遠の街」王都パラティーノを擁する千年王国。
そして、その歴史に幕が下りようとしている存亡の危機を抱えていることをまだ、誰も知らない。
この世界の歴史は常に動いており、最大の力を持つ国家は常に流転する。
今この時、最も力を持った二大国とセレス王国は国境を接していた。
一つは、我々が住む世界のドイツやフランスを思わせる西の自由都市同盟。
そして、もう1つがロシアを思わせる東の自由共和国である。
皮肉にも同じ自由を冠する両国は自らの自由こそ、絶対の物であり、大義としていた。
本当の自由を隣国に与えん。
そんな大義名分のもとに武力という名の布教が幾度も行われていた。
かつての大戦で両国は疲弊し、時代は大きく動き始めようとしている。
そして、その布教の対象には中立を主張するセレス王国も含まれていた。
舞台を決して表に出ない裏へと変えた二大国の争い。
永遠の街を巻き込んだ西と東の暗闘劇は日夜行われている。
そんな絶体絶命の危機にも関わらず、王国の民衆は悲嘆に明け暮れているかというとそうでもない。
そう、セレス王国には、最後の希望『黎明の聖女』がいたからだ。
これは歴史の影で誰にもその素顔を知られること無く、戦い続けた聖女の物語である。
そして、愛に飢えた一人の哀しき女の物語でもある。
旧題『黎明の聖女は今日も紅に染まる~暗殺聖女と剣聖の恋のシーソーゲーム~』
Special Thanks
あらすじ原案:『だって、お金が好きだから』の作者様であるまぁじんこぉる様
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる