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うちの旦那様馬鹿にすんなよ?
しおりを挟む「タクトー!!」
「タクトどこー!?」
空を飛んで町の上まで行くと、町からたくさんの声が響いていた。
タクト。
おそらくそれがこの男の子の名前なのだろう。
皆がこの子を探してるんだ。
「父さん!! 母さん!!」
男の子がそう叫ぶと、ゼノンはその先にいる男女の元へと下降し始めた。
ゆっくりと地面が近くなってきて、男女が私たちに気づき顔を青くさせる。
「タクト!!」
「父さん、母さん!!」
地上に降り立つと同時に男女の元へと駆けだす男の子──タクト君。
「あぁ……!! タクト……!! 無事でよかった……!!」
目に涙をにじませながら女性が言う。
男性も、涙を流しながらそれに何度も頷いて、強くタクト君を抱きしめた。
お父さんとお母さん、心配してたのよね。
その光景が、少しだけうらやましくなる。
私にはもうありえない光景だから。
「タクト―大丈夫か!!」
「魔族だ!! 魔族がいるぞ!!」
騒ぎを聞きつけた町の人たちが次々と集まってきて、持っていた鎌や鍬などの農具やや長棒をこちらに向ける。
わぁ……やっぱり誤解されてる……。
「あ、あの、私は人間で、この人は魔王だけど悪い人じゃ──」
「魔王だって!?」
私の良い分も虚しく途中で遮られ、魔王の部分だけが彼らの中に浸透してしまったようだ。
不安げにこちらを見ながらも、戦闘態勢を変えない町の人達。
「おいあの子は人間だと!!」
「お嬢さん、危ないから早くこっちへ!!」
「そんな魔族なんかのそばにいたら、食われちまう!!」
「汚らわしい悪魔が……!!」
ブチッ……。
何かが自分の中でちぎれる。
そんな音がした。
「どいつもこいつも勝手に……。外見と種族だけで判断して……汚らわしいのはどっちよ!? 魔王は人間界から支給される保証金もほとんど手を付けることなく自給自足で生活してるし、魔物たちに何かあればすぐに駆け付けるわ!! 必要なところでお金を使って、魔物たちの生活を助けてる!!」
言葉が滝のように零れ落ち、止めることができない。
止める必要もないけれど。
「大して人間界の国王はどう? 国費を使って恋人に貢いで、毎日イチャイチャするだけの日々よ!? 国の運営は宰相にほぼ丸投げして!! 魔王の方がよっぽど立派じゃない!! ──うちの旦那様を虐げる奴は、私が許さないから!!」
「千奈……」
私の演説にも似た言葉の滝に、唖然とした表情で町の人々が私を見ていた。
言ってやったわ。
どうだ人間ども。
ざまぁ国王。
お前の悪行バラしてやったぞ。
我ながら性格が悪いとは思うけれど仕方がない。
それだけのことを奴らがしているのだから。
「そ、そうだよ!! その人たちは悪くないよ!!」
戸惑う町の人々にとどめを刺すように、タクト君が声を上げた。
「僕、かくれんぼをしてて、ロープの外ならだれも来ないだろうって出ちゃったんだ……。それで崖から落ちて……。怪我をしてるのを、魔族の人が助けてくれたんだ!! ゼノンとお姉ちゃんは、僕をここまで送り届けてくれただけだよ!! 魔界の人は皆良い人ばっかりだよ!!」
「タクト……お前……」
そこで初めて、彼らはタクト君の姿に気が付いたようだった。
あちこち血の跡がついているが、塞がったたくさんの傷跡に。
「勝手に決めつけて悪者にする皆の方が悪い人みたいだよ!!」
そんなとどめの言葉が効いたのか、町の人々が構えていた武器がゆっくりと降ろされていった。
「そうか……。そう、だな。……申し訳なかった。子どもを助けてくださって、ありがとうございました」
そう頭を下げる父母に、ゼノンは「大したことはしていない」と首を横に振った。
「あの、よろしければわが家へ」
「結構だ。王家に見つかるとまずいだろう」
魔族が門の外に出て町の人と一緒にいるというのは外聞がよろしくない。
そう彼らを慮っての言葉に、彼らは首を横に振った。
「ここには領主からの偵察すら来ません。だから大丈夫です。それよりも、子どもを助けてくれたあなた方に、ぜひお礼がしたいのです。それに、先程のお嬢さんの話についてもお聞きしたいことが……」
私の話?
何か、訳あり、っていうことだろうか?
私とゼノンは顔を見合わせると、ゼノンはうなずき、「わかった。邪魔をする」と短く了承した。
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