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第二章
合鍵②
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***
デパートを出て電車に乗り、アパートの最寄り駅で降りる。改札をくぐった俺は、真っ直ぐにバイト先のコンビニへ向かった。
十九時から二十四時の夜間シフトの通勤は、この季節だと結構つらい。ダウンジャケットに身を包み、ときおり吹き抜ける寒風に身を縮こまらせながら、俺は夜道を急いだ。
バイト先のコンビニに入ると、来客を知らせる軽快なメロディが店内に鳴り響いた。先の時間帯のアルバイトに頭を下げて、従業員以外立ち入り禁止のドアをくぐると、休憩スペースを兼ねた通路に見慣れた姿があった。
「おっすナオユキ!」
「おう」
声をかけてきたノブアキに片手をあげて応える。俺が夜間に入るときの相棒はだいたいコイツだった。
ノブアキとは大学では滅多に顔を合わせないものの、バイト先が同じことを理由に、夜間学校を出てからも良くつるんでいた。
「だいぶ寒くなったな」
店内は暖かいものの、俺の身体には寒気が纏わりついていた。俺は寒さに身を震わせながら、ジャケットを脱ぎ、制服に着替えた。
この時間、客のほとんどは仕事帰りのサラリーマンと、暇そうな学生だ。見知った顔の客を捌きながら、商品整理をして店内を清掃して、手持ち無沙汰になったところでカウンターに戻る。レジに向かって突っ立っていたところで、ノブアキが話しかけてきた。
「なぁ、クリスマスは例の彼女と一緒なんだよな?」
俺の顔を見るでもなくおでんのつゆを注ぎ足しながら、ノブアキが言った。
「いや、今のところ予定はないな」
タバコの補充をしながら俺が答えると、ノブアキは目玉が飛び出そうなほど驚愕した表情で俺の顔を凝視した。
「おまっ……シフト表に二十四、五と普通に入ってたから心配してみれば……彼女いるのにクリスマス一緒じゃないって、ケンカでもしてるのか?」
「いや、ケンカとかしないし……」
えらい勢いで危機感を煽ってくるノブアキを片手で追い払って、俺は少しばかり溜め息をついた。
俺だって、今年のクリスマスは彼女と一緒にいるつもりだった。でも、その日はちょうど彼女の父親が海外出張から戻る日らしく、家族で食事に行くのだと、前以て彼女に言われてしまったのだ。
「……まぁ、いろいろあるんだよ」
せっかく彼女と相思相愛になれたのだから、恋人達の必須イベントくらいはしておきたい気持ちはあった。でも、仮に上手くいったとして、夜にふたりきりになんかなったりして、この前みたいに俺の部屋に来られたりしたら、今度こそ俺は何をしてしまうかわからない。早まった行動で彼女を傷つけるのだけは嫌だったから、これでいいのだと、俺は自分に言い聞かせた。
「健康な男子がそれでいいのかねぇ……」
俺を煽るようにそう言うと、ノブアキは壁時計に目を向けて、
「俺、さきに休憩入るわ。たまごと厚揚げ打っといて」
そう言っておでんの容器を俺に手渡して、休憩室に入っていった。
デパートを出て電車に乗り、アパートの最寄り駅で降りる。改札をくぐった俺は、真っ直ぐにバイト先のコンビニへ向かった。
十九時から二十四時の夜間シフトの通勤は、この季節だと結構つらい。ダウンジャケットに身を包み、ときおり吹き抜ける寒風に身を縮こまらせながら、俺は夜道を急いだ。
バイト先のコンビニに入ると、来客を知らせる軽快なメロディが店内に鳴り響いた。先の時間帯のアルバイトに頭を下げて、従業員以外立ち入り禁止のドアをくぐると、休憩スペースを兼ねた通路に見慣れた姿があった。
「おっすナオユキ!」
「おう」
声をかけてきたノブアキに片手をあげて応える。俺が夜間に入るときの相棒はだいたいコイツだった。
ノブアキとは大学では滅多に顔を合わせないものの、バイト先が同じことを理由に、夜間学校を出てからも良くつるんでいた。
「だいぶ寒くなったな」
店内は暖かいものの、俺の身体には寒気が纏わりついていた。俺は寒さに身を震わせながら、ジャケットを脱ぎ、制服に着替えた。
この時間、客のほとんどは仕事帰りのサラリーマンと、暇そうな学生だ。見知った顔の客を捌きながら、商品整理をして店内を清掃して、手持ち無沙汰になったところでカウンターに戻る。レジに向かって突っ立っていたところで、ノブアキが話しかけてきた。
「なぁ、クリスマスは例の彼女と一緒なんだよな?」
俺の顔を見るでもなくおでんのつゆを注ぎ足しながら、ノブアキが言った。
「いや、今のところ予定はないな」
タバコの補充をしながら俺が答えると、ノブアキは目玉が飛び出そうなほど驚愕した表情で俺の顔を凝視した。
「おまっ……シフト表に二十四、五と普通に入ってたから心配してみれば……彼女いるのにクリスマス一緒じゃないって、ケンカでもしてるのか?」
「いや、ケンカとかしないし……」
えらい勢いで危機感を煽ってくるノブアキを片手で追い払って、俺は少しばかり溜め息をついた。
俺だって、今年のクリスマスは彼女と一緒にいるつもりだった。でも、その日はちょうど彼女の父親が海外出張から戻る日らしく、家族で食事に行くのだと、前以て彼女に言われてしまったのだ。
「……まぁ、いろいろあるんだよ」
せっかく彼女と相思相愛になれたのだから、恋人達の必須イベントくらいはしておきたい気持ちはあった。でも、仮に上手くいったとして、夜にふたりきりになんかなったりして、この前みたいに俺の部屋に来られたりしたら、今度こそ俺は何をしてしまうかわからない。早まった行動で彼女を傷つけるのだけは嫌だったから、これでいいのだと、俺は自分に言い聞かせた。
「健康な男子がそれでいいのかねぇ……」
俺を煽るようにそう言うと、ノブアキは壁時計に目を向けて、
「俺、さきに休憩入るわ。たまごと厚揚げ打っといて」
そう言っておでんの容器を俺に手渡して、休憩室に入っていった。
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