初恋―ある連続猟奇殺人犯の告白―

柴咲もも

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第二章

ふたりの夜①

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 ゴウンゴウンとドラム式の乾燥機が回る重苦しい音がする。
 誰もいないコインランドリーの室内で、俺はスチール製のパイプ椅子に腰掛け、数ヶ月前に発刊されたボロボロの漫画雑誌のページをめくった。
 洗濯は週に二、三回、数日分をまとめてこのコインランドリーで済ませていた。使用中の乾燥機に目をやり、残り時間を確認すると、あと十五分と示されていた。
 洗濯した衣類を畳む作業台代わりのテーブルに手を伸ばし、携帯電話を手に取って、待受画面の表示時刻を確認する。続いて発信履歴を表示した。
 ほんの五分前の履歴にの名前が記されていて、さらにその十分前にも同じ名前が続いていて、俺は「さすがに引かれるよなぁ……」と独りごちた。

 大粒の雨が叩きつけるように降り注ぐなかで、俺は長いあいだ彼女を抱き締め続けていた。そのせいで、俺も彼女も全身ずぶ濡れになってしまい、店に入るわけにもいかず、電車に乗るわけにもいかず、困り果てた俺たちは、取り敢えず近くの店先の雨除けに飛び込んだ。

「家に連絡して迎えを呼びましょうか」

 そう彼女が言ってくれたけど、あの両親のことだ。俺と彼女が密かに何度か会っていることを知られでもしたら、何かしら問題が起こる気がして。俺は彼女の提案を呑むことができず、代わりに携帯でノブアキを呼び寄せた。
 ノブアキは車を出すことをかなり渋っていたが、彼女が一緒で困っていることを話すと、さらに渋った。
「リア充爆発しろ」と何度も憎まれ口を叩かれたものの、俺は低姿勢を貫き通し、ようやくヤツを呼び寄せることに成功した。
 ノブアキの愛車は中古の軽自動車で、年季の入ったボロ車だった。多少汚したところで気にする必要もなく、雨でずぶ濡れの俺たちが乗っても問題はない——というわけにもいかず、案の定、彼女が見てないところでめちゃくちゃに怒られたので、俺は「今度なんでも言うこと聞くから」と口約束をして、なんとかその場を収めることができた。


「何をさせられることやら……」

 そう呟いたところで、乾燥機が終了のブザーを鳴らした。
 読んでいた漫画雑誌を棚に戻し足元に置いていた大きめの紙袋を持って乾燥機に向かう。まだ熱のこもるドラムの中から洗濯物を引っ張り出し、乱雑に紙袋に詰めていった。見飽きた自分の服に混じって見慣れないものがちらりと見えて、俺は手を止めた。いけないとは思いつつも、ついそれを手に取ってしまう。
 男物の衣類の中に紛れていた場違いな女物の下着は、先程まで彼女が身につけていたものだった。白地に淡いピンク色のフリルとレースの装飾が施された可愛らしいデザインが、なんとも彼女らしい。
 ノブアキに部屋まで送ってもらったあと、濡れたままでは風邪をひいてしまうからと、彼女にシャワーを浴びてもらい、一時凌ぎに厚手の長袖ロングTシャツを貸した。俺が着ると少し丈が長いだけだが、小柄な彼女が着るとぶかぶかで、丈の短めなワンピースのようで可愛かった。
 替えの服に関しては無事解決したと思ったものの、そこには重大な問題がまだ残っていた。大雨で濡れたのは服だけではなく、下着までぐっしょりと濡れてしまっていたのだ。
 当然俺は女物の下着など所有していなかった。つまり、彼女には替えの下着がなかった。Tシャツ一枚の彼女と二人きりなんて美味しすぎると言いたいところだったが、そんな状態の彼女を前にして理性を保ち続けられる自信などあるはずもない。結局、俺は彼女を部屋に残して、このランドリーに洗濯に来たというわけだ。

「乾いたはいいけど、どうやってこれを渡せばいいんだ……?」

 直接手渡すのはさすがにまずい。かと言って、俺の服に紛れ込ませたまま渡すというのもおかしいような気がする。さんざん迷った挙句、俺は彼女の下着を無造作に紙袋に戻し、悶々と頭を悩ませながら部屋に戻った。

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