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第一章
告白①
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俺と柚木さんの関係は文字通り「一夜限り」で、翌日から何事もなかったかのように、サークルの仲間として今までどおりの関係を続けていた。
あの日、行為を終えたあと、俺は好きな子がいることを正直に柚木さんに告げた。
責められる覚悟は出来ていた。でも柚木さんは、俺を責めるような真似はしなかった。「あの電話の子だよね」と寂しそうに微笑んで、無言で頷く俺に「泣いちゃうくらい好きなんだよね」と念を押して、囁いた。
「私はいいの。たとえ一夜限りでも好きな人に必要とされたんだから」
その言葉は俺に向けられたものというよりは、自分を納得させるためのものだったに違いない。
罪悪感に駆られはしたが、彼女の言葉は否定できなかった。
そのまま俺と柚木さんは、夜が明けるまで他愛の無い会話を続けた。
「佐伯くんて人付き合い苦手そうだから童貞だと思ってたのに、意外だったわ」
シャワーを借りたあと部屋に戻った俺に、ベッドでくつろぎながら柚木さんが言った。
俺が柚木さんに対して負い目を感じているのを良いことに、彼女は俺の過去を寝掘り葉掘りほじくり返した。
「初体験はいつだった」とか「今までに何人と付き合って、何人と関係を持ったか」とか。口にしにくいことまで容赦なく突っ込まれた。
擁護施設で育ったという時点で、普通とは言い難い環境だったから、これまでの人生が一般的にめずらしいのか普通なのか、俺にはわからなかった。
小学校時代の俺は、両親がいないというだけで周りからハブられていた。中学生になってもその状態が続き、俺は少ない友人と楽しくもない学校生活を送っていた。
卒業式の前日の放課後に教室で日直日誌を書いていて、同じく当番だった女子に迫られて、流されるままに関係をもった。それが俺の初体験だった。相手の子の名前は覚えていない。
高校には進学せずに、昼間働いて夜間学校に通い、高認の資格を得て大学を受験することにした。ノブアキと出会ったのはその頃だ。
中学までの人間関係がリセットされ、ようやく生きることが楽しいと思えるようになった頃だった。バイト先の先輩に連れて行かれた飲み屋で、従業員の女の子に気に入られて付き合うようになった。身体の関係も持ったけど、その子に対して恋愛感情はなかった。
その子とは一年近く付き合ったけど、ノブアキと一緒になって大検の試験勉強をしているうちに、いつのまにか疎遠になって別れた。
その頃の俺は、大学に行って普通の人のように楽しい学生生活を送ることに憧れていた。だから恋愛がどうこうとか、そんなことは考えることすらしなかった。
身体の繋がりばかりで心が繋がることがなかったから、異性と付き合うことにさして興味を抱かなかった。
彼女と出会って、自制できなくなるほど心を揺さぶる衝動を初めて知った。
彼女へ抱いたこの想いこそが、俺の『初恋』だったんだ。
あの日、行為を終えたあと、俺は好きな子がいることを正直に柚木さんに告げた。
責められる覚悟は出来ていた。でも柚木さんは、俺を責めるような真似はしなかった。「あの電話の子だよね」と寂しそうに微笑んで、無言で頷く俺に「泣いちゃうくらい好きなんだよね」と念を押して、囁いた。
「私はいいの。たとえ一夜限りでも好きな人に必要とされたんだから」
その言葉は俺に向けられたものというよりは、自分を納得させるためのものだったに違いない。
罪悪感に駆られはしたが、彼女の言葉は否定できなかった。
そのまま俺と柚木さんは、夜が明けるまで他愛の無い会話を続けた。
「佐伯くんて人付き合い苦手そうだから童貞だと思ってたのに、意外だったわ」
シャワーを借りたあと部屋に戻った俺に、ベッドでくつろぎながら柚木さんが言った。
俺が柚木さんに対して負い目を感じているのを良いことに、彼女は俺の過去を寝掘り葉掘りほじくり返した。
「初体験はいつだった」とか「今までに何人と付き合って、何人と関係を持ったか」とか。口にしにくいことまで容赦なく突っ込まれた。
擁護施設で育ったという時点で、普通とは言い難い環境だったから、これまでの人生が一般的にめずらしいのか普通なのか、俺にはわからなかった。
小学校時代の俺は、両親がいないというだけで周りからハブられていた。中学生になってもその状態が続き、俺は少ない友人と楽しくもない学校生活を送っていた。
卒業式の前日の放課後に教室で日直日誌を書いていて、同じく当番だった女子に迫られて、流されるままに関係をもった。それが俺の初体験だった。相手の子の名前は覚えていない。
高校には進学せずに、昼間働いて夜間学校に通い、高認の資格を得て大学を受験することにした。ノブアキと出会ったのはその頃だ。
中学までの人間関係がリセットされ、ようやく生きることが楽しいと思えるようになった頃だった。バイト先の先輩に連れて行かれた飲み屋で、従業員の女の子に気に入られて付き合うようになった。身体の関係も持ったけど、その子に対して恋愛感情はなかった。
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その頃の俺は、大学に行って普通の人のように楽しい学生生活を送ることに憧れていた。だから恋愛がどうこうとか、そんなことは考えることすらしなかった。
身体の繋がりばかりで心が繋がることがなかったから、異性と付き合うことにさして興味を抱かなかった。
彼女と出会って、自制できなくなるほど心を揺さぶる衝動を初めて知った。
彼女へ抱いたこの想いこそが、俺の『初恋』だったんだ。
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