初恋―ある連続猟奇殺人犯の告白―

第一章

菜緒①

　ねぇ、みんなは初恋って覚えてる？
 
　幼馴染みだとか、近所のお兄さんやお姉さん、保育園や学校の先生、芸能人、もしかしたらゲームやアニメのキャラクターっていう子もいたりするのかな。
　甘酸っぱくて切ない想い出で終わってしまう人もいれば、想いが実って恋が成就する人も、きっといる。
　あたしは、身近な人が初恋の相手だって人はラッキーだなって思う。
　手の届かない、会うこともできない人に恋をするのは、とても切ないことだから。
 
　あたしの初恋の人はね、ママがずっと好きだった男の人なの。
　その写真をみつけたのは、あたしが小学五年生の頃だった。ママが棚の奥にずっと大事にしまい込んでた日記帳に、その写真は挟んであったの。
　きっとパパは知らない。パパとママが出会う前の、秘密の恋。
　日記には、そのひとを想うママの気持ちが書き綴ってあった。パパとママの結婚式の三日前で終わってたけど。
　パパとママは恋愛結婚じゃなくて、親同士が決めた許嫁だったんだって。今のご時世じゃめずらしい話だけど、お金持ちのお嬢様だったママにとっては別にめずらしくもなんともなかったみたい。

　ママは綺麗で優しくて、パパのこともあたしのこともとっても大事にしてくれる。
　あたしはママが好き。
　だから、ママが大好きだったそのひとが、とても気になったの。

　その写真を撮ったのはきっとママだと思う。
　そのひとはとても優しい笑顔で、レンズ越しにママをみつめてた。写真を見ているだけで、そのひとがママをどれほど愛していたかわかるくらいに。
　そしてきっと、ママも同じくらいその人を愛していた。

　あたしは、そんなふたりに憧れた。
　ママが愛したそのひとに、たまらなく恋い焦がれたの。