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第二章
合鍵③
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***
時計の針が〇時を指すのを確認した俺は、事務室で退勤時間を入力し、車で帰るノブアキを見送って、寒空の下、人気のない夜道を歩いた。
街灯に照らされた遊歩道を横切り、寝静まった深夜の住宅街の細道を通り抜け、アパートの門をくぐって階段を上がる。二階の通路に出たところで、俺は我が目を疑った。
俺の部屋の扉の前で、彼女が蹲るようにして座り込んでいた。
「な……に、して……」
呆然として呟いた俺に、彼女はすぐさま気が付いた。顔をあげ、俺の顔を見て瞳を輝かせる。
「おかえりなさい」
掠れた声で、彼女は呟いた。
深夜だということすら忘れ、俺は慌てて彼女のそばに駆け寄った。金属製の床板を蹴る音がカンカンと鳴り響く。
「いつからここに……?」
俺が訊くと、彼女は両手の甲を交互にさすり、俺を見上げて「へへっ」と笑った。慌ててしゃがみこみ、彼女の手を両手で覆う。
ポケットに入れていたとはいえ、俺の手は冬場の、
それも深夜の冷気で存分に冷やされていた。だが、そんな冷え切った俺の手でも冷たく感じるほどに彼女の手は凍え切っていて、華奢な身体が小刻みに震えているのが包んだ手のひらから伝わってきた。吐く息は白く、唇もいつものピンクのそれではない。青ざめた顔に、ほんのりと頬だけが赤みを帯びていた。
「今日はアルバイトの日だってこと、忘れてました」
彼女が震える声で言った。
「連絡をくれれば……! いや、バイト中は出られないけど、でも……」
先の言葉が思いつかず、俺はただ彼女を抱き寄せた。
「とにかく部屋に入ろう。何があったのか話を聞くから」
彼女の手を引いて立ち上がらせると、俺は扉の鍵を開け、彼女を部屋に通した。
時計の針が〇時を指すのを確認した俺は、事務室で退勤時間を入力し、車で帰るノブアキを見送って、寒空の下、人気のない夜道を歩いた。
街灯に照らされた遊歩道を横切り、寝静まった深夜の住宅街の細道を通り抜け、アパートの門をくぐって階段を上がる。二階の通路に出たところで、俺は我が目を疑った。
俺の部屋の扉の前で、彼女が蹲るようにして座り込んでいた。
「な……に、して……」
呆然として呟いた俺に、彼女はすぐさま気が付いた。顔をあげ、俺の顔を見て瞳を輝かせる。
「おかえりなさい」
掠れた声で、彼女は呟いた。
深夜だということすら忘れ、俺は慌てて彼女のそばに駆け寄った。金属製の床板を蹴る音がカンカンと鳴り響く。
「いつからここに……?」
俺が訊くと、彼女は両手の甲を交互にさすり、俺を見上げて「へへっ」と笑った。慌ててしゃがみこみ、彼女の手を両手で覆う。
ポケットに入れていたとはいえ、俺の手は冬場の、
それも深夜の冷気で存分に冷やされていた。だが、そんな冷え切った俺の手でも冷たく感じるほどに彼女の手は凍え切っていて、華奢な身体が小刻みに震えているのが包んだ手のひらから伝わってきた。吐く息は白く、唇もいつものピンクのそれではない。青ざめた顔に、ほんのりと頬だけが赤みを帯びていた。
「今日はアルバイトの日だってこと、忘れてました」
彼女が震える声で言った。
「連絡をくれれば……! いや、バイト中は出られないけど、でも……」
先の言葉が思いつかず、俺はただ彼女を抱き寄せた。
「とにかく部屋に入ろう。何があったのか話を聞くから」
彼女の手を引いて立ち上がらせると、俺は扉の鍵を開け、彼女を部屋に通した。
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