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第17話 宴の夜

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 セルジュがふたたび大ホールへ戻った頃には、近隣からの賓客はそれぞれ迎えの馬車で街の宿に戻っており、公爵邸に部屋を用意された男性客は公爵と別室でカードゲームに、女性客はサロンで世間話に興じていた。
 親しい者もいない中で遅れてゲームに参加する気にもなれず。
 忙しなく料理や酒を片付ける給仕から残ったワインを一本分けて貰うと、セルジュは彼等の邪魔にならないよう、庭園に面したテラスに出た。

 広大な庭園のあちこちには美しく剪定された樹々が点々と固まっており、中央では大きな噴水が月の光を浴びてきらきらと輝いていた。
 冷たい夜風に吹かれながら青褪めた夜の庭園を見渡して、それからふと庭園へ続くテラスの階段を見下ろして。セルジュは目を丸くした。

「コレット……?」

 白い吐息とともに微かな呟きが洩れる。
 真っ白な石造りの階段に、相変わらずの使用人服姿のコレットが座っていた。

「こんなところで何をしているんだ」

 一歩一歩階段を降りてセルジュが隣に立つと、コレットはぼんやり夜空を見上げたまま、ぽつりと囁いた。

「月が、綺麗だなって……」

 釣られるように、セルジュは空を仰いだ。
 雲ひとつない星の海の真ん中に、青褪めたまんまるい月がぽっかりと浮かんでいた。

「確かに綺麗な満月だ。……それで? 侍女の仕事は終わったのか?」

 ふたたびコレットを見下ろして、セルジュが上機嫌で尋ねると、コレットはちらりとセルジュに目を向けて、少し寂しそうに呟いた。

「リュシーが疲れちゃったみたいで、部屋に送ってきたところです」
「そうか、それなら今夜は空いていそうだな」
「空いてますけど……」
「良い報告がある。少し付き合ってくれ」

 部屋でひとりで飲み直すつもりでいたけれど、せっかくコレットと会えたのだから、今夜のうちに夜会での成功を報告しておくのもいいだろう。
 手にしたワインを掲げ、セルジュがにっかりと笑ってみせると、コレットはちょっぴり目をまるくして、それから訝しげに目を細めた。

「……セルジュさん、酔ってます?」
「少しばかり飲んだだけだ。お前は? 飲んでないのか?」
「お茶をいただきました。一応、今日まで行儀見習いの身なので」

 つんと澄ましてそっぽを向いて、コレットがくすりと笑う。

「そうか、まあ良い。そんなことより来るのか、来ないのか? 来るよな?」

 酒が入っているせいか、今夜のセルジュはいつもよりよく口が回った。半ば強引に話しを運ぶと、コレットは困ったように微笑んで、

「もう、仕方のない人ですね」

そう言って、こくりとうなずいた。

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