42 / 67
第15話 グランセル公爵邸襲撃
①
しおりを挟む
夜会警備の詳細を詰めるための会合は、その後数日に渡って続けられた。
王太子ヴィルジールの護衛騎士として正式に復帰したセルジュは、会合の傍らで、ヴィルジールの出立の準備に忙しいロランを手伝って、城内を駆け回る日々を送っていた。
元の生活に戻っただけだというのに、業務の合間に手が空いたとき、忙しない一日を終えてひと息ついたときに、ふと物寂しさを感じてしまうのは、一足先にグランセル公爵領に戻ったリュシエンヌに連れられて、コレットが王城を去ってしまったからだろうか。
以前は華やかだった王宮の一角も、リュシエンヌやコレットの姿が見えないだけで、すっかり寂れてしまったように、セルジュには感じられた。
リュシエンヌの不在を嘆くヴィルジールの話は日に日に煩わしさを増していたが、夜会当日を待ちわびる気持ちはセルジュにも理解できた。ヴィルジールがリュシエンヌとの再会を果たすときは、同時にセルジュがコレットと再会するときでもあるからだ。
セルジュがコレットと言葉を交わしたのは、夜会警備の打ち合わせ前、王太子の執務室での会話が最後だった。
それ以降、何度か声を掛けようとはしたものの、長いあいだ女性を避けて暮らしてきたセルジュが気の利いた話題など思いつくはずもなく。結局セルジュはコレットを、影ながら見守ることしかできなかった。
ロランに聞いた話では、コレットはグランセル公爵邸での夜会を最後に行儀見習いを終えるという。リュシエンヌの侍女でなくなるのなら、コレットが王城を訪れることもなくなるだろう。
婚約を解消したはずの男が娘の元を訪れることを、コレットの父であるマイヤール卿が歓迎するとは思えない。セルジュがコレットと話すことができる機会は、おそらく今度の夜会が最後だった。
恋人でなくとも構わない。せめて友人で居られるように。
セルジュは夜会当日に向け、己の気持ちに整理をつけた。
グランセル公爵邸での夜会を明後日に控えたその日、馬車への荷積みを終えたセルジュは、ロランと共に王太子の執務室を訪れていた。
前倒しにした執務をほとんど片付けたヴィルジールが、最後の書類にサインをし終えた、ちょうどそのとき。騒がしい靴音が執務室へと近付いてきた。
けたたましくノックされた扉をロランが押し開けると、執務室の前には警備兵を伴った見慣れない制服姿の男が立っていた。
グランセル公爵の伝令を名乗るその男は執務机に向かうヴィルジールの姿を目にすると、跪いて顔をあげ、息を荒げたままその言葉を口にした。
知らせを耳にしたヴィルジールが、これまでにない激情を露わにする。
グランセル公爵邸が革命軍の襲撃を受け、制圧されたのだ。
王太子ヴィルジールの護衛騎士として正式に復帰したセルジュは、会合の傍らで、ヴィルジールの出立の準備に忙しいロランを手伝って、城内を駆け回る日々を送っていた。
元の生活に戻っただけだというのに、業務の合間に手が空いたとき、忙しない一日を終えてひと息ついたときに、ふと物寂しさを感じてしまうのは、一足先にグランセル公爵領に戻ったリュシエンヌに連れられて、コレットが王城を去ってしまったからだろうか。
以前は華やかだった王宮の一角も、リュシエンヌやコレットの姿が見えないだけで、すっかり寂れてしまったように、セルジュには感じられた。
リュシエンヌの不在を嘆くヴィルジールの話は日に日に煩わしさを増していたが、夜会当日を待ちわびる気持ちはセルジュにも理解できた。ヴィルジールがリュシエンヌとの再会を果たすときは、同時にセルジュがコレットと再会するときでもあるからだ。
セルジュがコレットと言葉を交わしたのは、夜会警備の打ち合わせ前、王太子の執務室での会話が最後だった。
それ以降、何度か声を掛けようとはしたものの、長いあいだ女性を避けて暮らしてきたセルジュが気の利いた話題など思いつくはずもなく。結局セルジュはコレットを、影ながら見守ることしかできなかった。
ロランに聞いた話では、コレットはグランセル公爵邸での夜会を最後に行儀見習いを終えるという。リュシエンヌの侍女でなくなるのなら、コレットが王城を訪れることもなくなるだろう。
婚約を解消したはずの男が娘の元を訪れることを、コレットの父であるマイヤール卿が歓迎するとは思えない。セルジュがコレットと話すことができる機会は、おそらく今度の夜会が最後だった。
恋人でなくとも構わない。せめて友人で居られるように。
セルジュは夜会当日に向け、己の気持ちに整理をつけた。
グランセル公爵邸での夜会を明後日に控えたその日、馬車への荷積みを終えたセルジュは、ロランと共に王太子の執務室を訪れていた。
前倒しにした執務をほとんど片付けたヴィルジールが、最後の書類にサインをし終えた、ちょうどそのとき。騒がしい靴音が執務室へと近付いてきた。
けたたましくノックされた扉をロランが押し開けると、執務室の前には警備兵を伴った見慣れない制服姿の男が立っていた。
グランセル公爵の伝令を名乗るその男は執務机に向かうヴィルジールの姿を目にすると、跪いて顔をあげ、息を荒げたままその言葉を口にした。
知らせを耳にしたヴィルジールが、これまでにない激情を露わにする。
グランセル公爵邸が革命軍の襲撃を受け、制圧されたのだ。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる