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第5話 とてもご立派でした
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盛大な溜め息を吐く。熱い湯の張られた湯船に身体を沈め、セルジュは天井を見上げた。こうして湯に浸かっていると、一日の疲れも嫌なことも、全て忘れてしまえる気がする。
騎士団宿舎に併設された大浴場は、訓練と任務で汗と泥にまみれる男達の憩いの場だ。酷使した筋肉を熱い湯に曝してほぐすこの時間は、騎士団宿舎で暮らす騎士にとって最も至福のときだとセルジュは考えていた。
実際には女性と逢引きしたり城下の娼館に足を運ぶことを息抜きにする者も居るのだが、女性恐怖症のセルジュには縁のない話だ。そんな破廉恥な行為よりも、己の鍛え抜かれた肉体でも眺めているほうが余程良い。
日々の鍛錬で鍛え上げた筋肉と引き締まった肉体はセルジュの密かな誇りであり、王国騎士団に所属する者でセルジュに勝る肉体美を有する者は、騎士団長、騎士副団長、近衛隊長……と、思い出す限り片手で数え切れる人数しかいない。
自慢の筋肉を眺めながら、心地良い疲労感に瞼を閉じる。脱衣所から野太い悲鳴があがったのは、丁度そのときだった。
「うわああぁぁ――!」
浴場内に居た数人の騎士達が一斉に顔を上げる。熱い湯を派手にぶちまけて逸早く湯船から飛び出すと、セルジュは真っ直ぐに脱衣所の扉に駆け寄り、半ば力任せに扉を開け放った。
「どうした!」
「セルジュさん、そっち! そっちです!!」
年の若い騎士のひとりがタオルで股間を隠しながら、壁のようにずらりと並ぶ半裸の男達を指し示す。人垣の向こう側で、どうやら誰かが揉み合っているようだ。
「何事だ!」
「痴女ですよ、痴女! 女がそこの窓から脱衣所の中を覗いてたんです!」
「女に裸を見られたくらいで悲鳴をあげる騎士がいるか!」
興奮する騎士に語気を荒げてそう言うと、セルジュはご自慢の筋肉を堂々と晒しながら、ずかずかと痴女の元に向かった。
「凄ぇ……」「かっこいい」等と、人垣から溜め息交じりの呟きが漏れる。女の覗きが出たくらいで情けない、と頭を痛くしながら、セルジュはなおも前進する。脱衣所に会する騎士達の視線が薄布ひとつ纏っていない己の股間に集まっていることに、セルジュは気付いていなかった。
「痴女が出たそうだな」
筋肉の壁を押し退けてようやく人垣を越えたセルジュは、予想だにしなかった目の前の光景に赤褐色の眼を見開いた。
目の前でふたりの騎士に捕らえられていたのは、昨夜部屋で別れたはずのコレットだった。
「おまっ……痴女はお前か!」
捕らえられたコレットを睨み付け、上擦った声を上げる。セルジュに気付いたコレットは一瞬ぱっと明るい表情をみせたが、榛色の瞳をまんまるくすると、上気した頬を隠すようにすぐに顔を俯かせた。
すかさず纏わり付かれるものだと身構えていたセルジュは、コレットの意外な行動に拍子抜けした。それと同時に、その場に漂う妙な空気に気が付いた。
コレットを捕らえた騎士の視線が真っ直ぐに向かうその先は――。
「セルジュさん、平常時でそれですか!?」
羨望にも似た声とともに響めきが起こり、セルジュはようやく自分が局部すら丸出しだったことに気が付いた。
騒めく騎士達。両手で顔を覆ったコレットは、おろおろとしながらも指の隙間から榛色の瞳をちらちらと覗かせている。
壁際に置かれた棚から慌てて着替えを引っ掴むと、素早くそれを身に纒い、セルジュはコレットの腕を奪うようにして脱衣所を後にした。
その日から、王太子護衛騎士セルジュの逸物の雄々しい姿は、騎士達のあいだで長く語り継がれることとなった。
盛大な溜め息を吐く。熱い湯の張られた湯船に身体を沈め、セルジュは天井を見上げた。こうして湯に浸かっていると、一日の疲れも嫌なことも、全て忘れてしまえる気がする。
騎士団宿舎に併設された大浴場は、訓練と任務で汗と泥にまみれる男達の憩いの場だ。酷使した筋肉を熱い湯に曝してほぐすこの時間は、騎士団宿舎で暮らす騎士にとって最も至福のときだとセルジュは考えていた。
実際には女性と逢引きしたり城下の娼館に足を運ぶことを息抜きにする者も居るのだが、女性恐怖症のセルジュには縁のない話だ。そんな破廉恥な行為よりも、己の鍛え抜かれた肉体でも眺めているほうが余程良い。
日々の鍛錬で鍛え上げた筋肉と引き締まった肉体はセルジュの密かな誇りであり、王国騎士団に所属する者でセルジュに勝る肉体美を有する者は、騎士団長、騎士副団長、近衛隊長……と、思い出す限り片手で数え切れる人数しかいない。
自慢の筋肉を眺めながら、心地良い疲労感に瞼を閉じる。脱衣所から野太い悲鳴があがったのは、丁度そのときだった。
「うわああぁぁ――!」
浴場内に居た数人の騎士達が一斉に顔を上げる。熱い湯を派手にぶちまけて逸早く湯船から飛び出すと、セルジュは真っ直ぐに脱衣所の扉に駆け寄り、半ば力任せに扉を開け放った。
「どうした!」
「セルジュさん、そっち! そっちです!!」
年の若い騎士のひとりがタオルで股間を隠しながら、壁のようにずらりと並ぶ半裸の男達を指し示す。人垣の向こう側で、どうやら誰かが揉み合っているようだ。
「何事だ!」
「痴女ですよ、痴女! 女がそこの窓から脱衣所の中を覗いてたんです!」
「女に裸を見られたくらいで悲鳴をあげる騎士がいるか!」
興奮する騎士に語気を荒げてそう言うと、セルジュはご自慢の筋肉を堂々と晒しながら、ずかずかと痴女の元に向かった。
「凄ぇ……」「かっこいい」等と、人垣から溜め息交じりの呟きが漏れる。女の覗きが出たくらいで情けない、と頭を痛くしながら、セルジュはなおも前進する。脱衣所に会する騎士達の視線が薄布ひとつ纏っていない己の股間に集まっていることに、セルジュは気付いていなかった。
「痴女が出たそうだな」
筋肉の壁を押し退けてようやく人垣を越えたセルジュは、予想だにしなかった目の前の光景に赤褐色の眼を見開いた。
目の前でふたりの騎士に捕らえられていたのは、昨夜部屋で別れたはずのコレットだった。
「おまっ……痴女はお前か!」
捕らえられたコレットを睨み付け、上擦った声を上げる。セルジュに気付いたコレットは一瞬ぱっと明るい表情をみせたが、榛色の瞳をまんまるくすると、上気した頬を隠すようにすぐに顔を俯かせた。
すかさず纏わり付かれるものだと身構えていたセルジュは、コレットの意外な行動に拍子抜けした。それと同時に、その場に漂う妙な空気に気が付いた。
コレットを捕らえた騎士の視線が真っ直ぐに向かうその先は――。
「セルジュさん、平常時でそれですか!?」
羨望にも似た声とともに響めきが起こり、セルジュはようやく自分が局部すら丸出しだったことに気が付いた。
騒めく騎士達。両手で顔を覆ったコレットは、おろおろとしながらも指の隙間から榛色の瞳をちらちらと覗かせている。
壁際に置かれた棚から慌てて着替えを引っ掴むと、素早くそれを身に纒い、セルジュはコレットの腕を奪うようにして脱衣所を後にした。
その日から、王太子護衛騎士セルジュの逸物の雄々しい姿は、騎士達のあいだで長く語り継がれることとなった。
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