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傷貰いの魔女は王子様に嘘をつく

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 クラウスの誕生日を祝う誕生祭の夜、王宮では予定どおりに盛大に夜会が開かれた。
 十六歳のお祝いに王妃様に頂いたドレスを着て、私は生まれて初めて夜会会場のフロアに立った。
 王妃様が選んでくださった黄檗色のドレスには、母譲りの薔薇色の髪が良く映える、と我ながら思う。背中や肩が大きく露出していてちょっぴり心許ないわりに、腕はレースの長手袋で肘まで隠されているのが、なんとも不思議で興味深おもしろい。
 きっと今夜の私は貴族令嬢を名乗っても違和感のない姿をしている。そうでないと困る。
 ほんの少し浮かれた気分で、私はホールを見渡した。

 壇上では国王陛下と王妃様が仲睦まじく笑い、宮廷の楽師たちが奏でる心地よい音楽に耳を澄ませている。ホールに降り立ったクラウスはお綺麗なご令嬢に囲まれて、華やかな笑顔を咲かせていた。
 ゆらゆらと揺蕩う人の波の向こう側に、ギュンターさんの灰がかった金髪がちらりと見えた気がして。一人前に着飾った自分の姿を見てもらおうと、私が人波に分け入ったときだった。
 唐突に視界が覆われて、掴まれた腕ごと身体が後方に引かれた。
 美しい音色が遠ざかる。足で踏ん張ることができなくて、私は抵抗することもままならないまま、ホールから連れ出された。

 視界はすぐに晴れた。私は後ろ向きのまま、引きずられるように人気のない宮殿の廊下を歩かされていた。点々と灯る燭台の明かりが次々に遠ざかっていく。
「は……はなして!」
 私は身を捩り、先程から私の腕を引くその人に目を向けた。父親譲りの胡桃色の髪をぴったりと撫で付けた彼は、いつもよりも随分と大人びて見える。
「ねぇ、クラウス……ねぇってば!」
 私が必死に呼びかけると、彼はちらりと私に目を向けて、それからやっと足を止めた。掴まれていた腕がじんじんと痺れていて、私は腕をさすりながらあたりを見回した。
 いつのまにか、私たちはすっかり夜会会場を離れ、宮殿の二階——王族の居住フロアにいた。滅多なことでは立ち入ることのできないその空間は、床も壁も天井も、ずらりと並ぶ調度品も、私のような一庶民にはあまりにも不似合いで。自分が今、相当に場違いな場所にいることを、まざまざと感じさせられた。
 おどおどと落ち着かない私の手を取って、クラウスはまた、黙って廊下を歩き出した。やがて廊下の先に見覚えのある扉が現れると、彼は躊躇いなく扉をあけて、私を部屋の中に押し込んだ。

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