大罪の後継者

灯乃

文字の大きさ
上 下
8 / 42
旅立ち

想定外のお仕事

しおりを挟む
「テレーズ、非常に残念だが……お前との婚約はなかったことにして欲しい」

「そんな……アルフ様。突然、婚約破棄だなんて……!」


 侯爵令息であるアルフ・デモンは私の婚約者だ。伯爵家である我がリジェント家とは仲が良かったはずなのに。どうしていきなりこんなことに……。

「済まないな、テレーズ。婚約破棄は決定事項なんだ。分かって欲しい……」


 アルフは申し訳なさそうにしているけれど、その意志は固いようだった。

「そ、そんな……う、うぐ……」

「テレーズ……済まない」


 私は涙をこぼしてしまった。アルフはそんな私を見て寄り添う決断をしたのか、一瞬、前に踏み出したけれど、それ以上は進まなかった。どうして寄り添ってくれないんだろう……私はこんなに悲しんでいるのに。


「理由は……理由はなんなのですか!?」

「それは……」


 アルフは少し考え込んでいた。どうしてここで考える必要があるんだろうか? 婚約破棄が決定しているなら、理由なんてすぐに出て来ないとおかしいのに……。

「お前との身分が違うからだよ。私は侯爵令息でお前は伯爵令嬢でしかない。身分が低い者とは……結婚する意味がないと踏んだからだ」

「そ、そんな……そんな理由で……!」


 今さらそんなことを言われても困るのは確かだった。身分が違う結婚になることは、婚約の前から分かっているんだから。それならば、その時に言ってくれた方が良かった。私はこうしてアルフと共に過ごして行くことを考えていたのに。

 その為の花嫁修業だって行っていた。決して楽な修行ではない。時にはくじけそうになったところを、彼の隣に立てる嬉しさで賄っていたことだってあるのに。私は権力なんてどうでも良かった。ただ、アルフと一緒になりたいと昔から考えていたのだ。

 それが現実になった時は……本当に嬉しかった。なのに……!


「お父様やお母様たちにも迷惑を掛けることになります……慰謝料は支払ってくださいね。アルフ様……」

「婚約破棄は認めてくれるということか?」

「認めたくはありませんが……仕方ありません。アルフ様がそう言うのでしたら」

「そうか、済まないな。しかし、残念ながら慰謝料も支払うわけにはいかないんだ。済まないがこれも分かってくれ」

「えっ!?」

 あまりのことに私は思わず立ち上がってしまう。慰謝料すら支払えないってどういうこと!?」

「婚約破棄と慰謝料の未払いを許してほしい。テレーズ……一生、私を恨んでくれても構わない。本当に済まない」

「アルフ様……これは一体……」

「……」


 アルフ様がそれ以上語ることはなかった。私はその日の内に屋敷から追い出されてしまった。でもあり得ない……あの方が……アルフ様がこんな理不尽な婚約破棄をするなんて。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

処理中です...