無限高校球児〜監督も兼任!?甲子園優勝するまで終われません〜

黒林

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1年目〜3年目 近藤 裕太編

本当のエースへ

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※今回は石井 明視点になります。

 春の大会2回戦 7回裏 ツーアウト 満塁 


「ふぅー」


 俺は目の前の状況に思わず息を漏らす。


 この試合最大のピンチが訪れていた。現在、スコアは1対3と相手にリードを許している。



 打席に迎えるバッターは今日1安打の加賀。他の2打席はショートライナーとセンターフライ。討ち取ったものの、打球自体は悪くなかった。タイミングはおそらく合ってきているのだろう。


 これ以上の失点は勝負を決しかねない局面なだけに、ベンチから伝令が来て内野陣はマウンドに集まっていた。


 俺はチラッとブルペンに視線を向ける。そこには3年生の佐藤先輩が投球練習を行い、いつでもいける状態でスタンバイしてくれていた。


 俺の作ったピンチの尻拭いを佐藤先輩にしてもらうわけにはいかないよな……。俺は再度気合いを入れ直す。


 伝令はベンチに戻り、内野陣はポジションに戻っていく。それを見届けてから俺はキャッチャーに視線を向ける。キャッチャーから出されたサインに頷き、セットポジションに入る。


 右のバッターボックスに入った加賀に向けて、1球目を投じた。




『カキーン』


「ファール」


 打球はサード横のファールゾーンに、ライナーで飛んでいった。狙われていたのか?それとも……。


 2球目、3球目はタイミングを外そうと投げた変化球が外れ、カウントツーボールワンストライクとカウントを悪くしてしまう。おそらく次が勝負の1球になる。


 加賀が打席を一度外し、スイングを確認してからバッターボックスに入り直す。キャッチャーのサインに頷きセットポジションに入り、構えられたキャッチャーミットをめがけて、4球目を投じた。








「カキーーン!!」


 加賀の振ったバットはボールを捉え、左中間に勢いよく飛んでいく。打球はフェンスまで達し、内野にボールが帰ってくる頃にはランナーが全員ホームに生還していた。


 結果は走者一掃3点タイムリーツーベースヒット。高めに浮いたストレートに力負けすることなく打ち返した加賀の勝ちだった。


 ベンチにいた選手が審判に監督からの伝言を伝えにいく。それに合わせて、ブルペンから佐藤先輩が走ってきた。




「選手の交代をお知らせします。ピッチャー石井くんに変わりまして、佐藤くんが入ります。8番ピッチャー佐藤くん。背番号10。以上のように変わります」 


「すいません、後はよろしくお願いします……」


「ここまでお疲れ様!後は俺に任せて、ゆっくり休んどけよ」



 場内に響くアナウンスの中、俺は佐藤先輩と会話を交わしてからベンチに走って引き上げていった。





 最終的に1対7で負けた。あの後佐藤先輩も失点したが俺の出したランナーだったし、そもそも俺のせいで点差がつきすぎてしまったのが試合の敗因だった。








夏の大会初戦 7回裏 ツーアウト 満塁


『あぁ……春とまったく同じだ』


 気付くと内野陣がマウンドに集まってきていた。山田監督からの言葉を伝えるために、伝令の木下がベンチから走ってくる。


「山田監督は、『ホームランでも同点になるだけだから気にするな、思い切って勝負してこい」だってさ。石井はここまでいいピッチングしてるし、大丈夫!俺たちはお前を信じてるぞ!」


「そうっすよ、石井先輩はエースなんすからバックを信じて思い切って投げたらいいんすよ。みんな、抑えてくれるって信じてますから!」


「みんな、ピンチにしてしまって悪いな。ここはなんとか抑えてみせる。俺を信じてくれ」


 内心かなり不安を感じていたが、みんながいる手前そんなふうに口にしてしまう。だけど、俺はエースなんだ。監督もチームメイトも俺を信頼し、この場面を任せてくれている。任されている以上、期待に応えなきゃいけない……。






 マウンドに集まっていた伝令と内野陣がマウンドから離れていく。


 初球、2球目とストレートが外れる。3球目に投げたカーブを見逃し、カウントツーボールワンストライク。


 今一番怖いのは押し出しなので、カウントがスリーボールになるのはなるべくなら避けたい。たが、ここで変化球を連投するのは狙われたときのリスクを考えると悩むところだ。


 ならばストレート。ある程度制球を意識して、コーナーに丁寧に投げよう。コースさえ間違えなければ、長打にはならないはずだ。


「明!思い切って投げろ!」


 不意に聞こえた裕太の声が耳に届く。俺は4球目を投じた。






「カキーーン!!」


 狙いより少し浮いてしまったところを捉えられる。打球は無情にも右中間を破っていく。ランナーが全員生還する、3点タイムリーツーベースヒットだった。


『あぁ……また俺はみんなの期待を裏切ってしまった』



「選手の交代をお知らせします。ピッチャー石井くんに変わりまして、佐藤くんが入ります。9番ピッチャー佐藤くん。背番号10。以上のように変わります」 


 その後後続を佐藤先輩が抑えてくれたおかげで、なんとか4対3で逃げ切ることができた。俺はその光景をただベンチから眺めているしかなかった。







 翌日、俺は二宮コーチに話があると伝え、時間をとってもらった。


「二宮コーチ、練習中にすみません」


「それは気にするな。それで話したいことっていうのは?」


「山田監督に次の先発を佐藤先輩にするべきだと進言してください」


「それは…………いったいどうして?」


 俺の言葉に二宮コーチは困惑しているようだった。いきなり呼び出されてこんなことを言われたら、誰でもそうなるだろう。


「俺は春と夏、2度もピンチの場面で打たれてエースとしての役目を果たせませんでした。しかし、佐藤先輩は昨日俺の後に投げ、しっかりと相手打線を抑えていました。佐藤先輩はこの夏負けたら引退です。俺のせいで先輩たちの夏を終わらせたくありません」


 これは俺が春の大会で負けてからずっと考えていたことだった。最初背番号1をもらったとき、ただただ嬉しかった。俺がこのチームで1番なんだと、とても誇らしかった。


 しかし、春の大会で打たれて負けたときに考えてしまった。もしこれが夏の大会だったら……俺が打たれたせいで先輩たちの高校野球が終わってしまうとしたら……。


 そう思うとマウンドに上がるのが怖くなった。そして、自分の力不足を呪った。俺にもっと力があればと悔やんだ。


 気付いたら俺は走っていた。習慣としていた裕太との全体練習後の自主練を放棄して、ただただ自分の成長だけを考え毎日限界まで走った。


 夏まであまり時間は残されていなかった。走ることで体力と強靭な下半身を手に入れるため、俺は1日として走ることを怠らなかった。


 俺に出来うる最大の準備をして臨んだ夏の大会、それでも昨日の初戦では春と結果は変わらなかった。


「3年生の先輩たちはもし負けるとしても、そこでマウンドに立っているのは2年の俺ではなく、同じ3年の佐藤先輩を望むはずです。苦楽をともにした仲間が打たれたのなら、負けたとしても後悔はないはずですから」


 俺の話を最後まで聞き、少し考えていた様子だった二宮コーチはため息をついた。


「まぁお前がそこまでいうなら俺の考えってことで山田監督に進言しよう。だがお前は大きな勘違いをしているぞ。そこに気が付かない限りはお前の悩みは結局のところ解消されないだろうな」


「……大きな勘違い?」


「今日1日考えて、もし考えが変われば明日の朝一で俺に伝えてくれ。そこまでは進言しないでおく。あまり長く離れているわけにもいかないし、そろそろ戻るぞ」


 そう言うと二宮コーチはグラウンドの方に歩き始めてしまった。大きな勘違いってなんのことだろうか。










「ゲーム!」


「「ありがとうございました!」」


 夏の大会2回戦の結果は0対1。8回裏は俺がマウンドに上がり追加点は許さなかったが、打線は最後まで点を取ることがでかなかった。






 試合後のミーティングが終わり、俺は1番お世話になった佐藤先輩に話をしにいこうと考えていると、佐藤先輩の方から俺に話しかけてくれた。


「石井今までありがとうな。お前と練習してこれてめっちゃ楽しかったよ。お前に頼ってばっかりの不甲斐ない先輩だったけどな」


「何言ってるんですか!佐藤先輩にはいろいろと教えてもらいましたし、今日までとてもお世話になりました。俺こそもっと先輩たちを助ける力があればよかったんですけど……」


「そういうふうに俺のことを思ってくれてるだけで嬉しいよ。そういえば本当なら今日の先発マウンドは石井だと思っていたんだけど何かあったのか?」


 その言葉に固まってしまった。俺は先発を辞退したなんて言えるはずもなく、返答に困っていた。


「まぁ、監督が決めたことなら仕方ないけど俺は石井に投げてほしかったよ」


「え?佐藤先輩にとって最後の夏なのに、先発したくなかったんですか?」


 佐藤先輩の言葉に混乱してしまう。投手なら先発として試合に出て、最後まで投げきりたいものだとずっと思っていた。


「いや、もちろん先発への思いがないわけじゃないよ。でも俺より石井の方が投手として実力が上なのはわかっているからなぁ。チームの勝利が第一優先、今日の先発が石井なら結果はちがったかもしれないなんて考えてしまうんだよ」


「そんなこと……佐藤先輩だって7回1失点の好投だったじゃないですか!」


「でも負けた。トーナメントである以上負けたらそこで終わりなんだよ。どんなに好投したって負けたらそこまでなんだ」


「………」


 何も言い返せなかった。俺の考えは間違っていたのだろうか?


「俺は……俺たち3年は負けるなら自分たちの全力をぶつけて破れるなら仕方ないと思ってた。うちのチームのエースは石井、お前だ。お前をブルペンに温存したまま負けたことに俺たちは少し後悔してしまっているんだよ。もちろん点を取れなかった野手陣、お前に頼らなければいけないような俺にも問題はあるんだけどな」


 そういって、力なく笑う佐藤先輩はさらに言葉を続けた。


「だから石井。お前は最後、引退するときに後悔なんてしてくれるなよ。最後までマウンドに立って、自分の全力を出し切るんだぞ。俺たちのチームのエースはお前なんだから、自信もてよ。お前の活躍が聞けるのをこれから楽しみにしてるからな」


「うっ……佐藤先輩……」


「今までありがとう。そして、今日までいろいろと背負わせて悪かったな」


 そういって抱きしめてくれる佐藤先輩の肩に顔を埋め、佐藤先輩の優しい言葉にただただ涙を流すしかなかった





「えー、副キャプテンは石井と木下に任せる。石井は投手陣をまとめあげてほしい。木下は近藤のサポートをよろしく頼む」


「「はい!」」


 あの日のように、もう後悔はしたくない。夏の大会で負けて引退するその日まで、俺がエースとして、副キャプテンとして投手陣を、チームを引っばっていくんだ。佐藤先輩がしてくれたみたいに……。

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