上 下
25 / 31
1年目〜3年目 近藤 裕太編

キャプテン

しおりを挟む
 夏の大会で敗戦後、チームには3日間の休みが与えられていた。昨年は心と身体を休めるため、授業が終わるとまっすぐ家に帰っていた。


 しかし、今年は身体を動かしていないと落ち着かず、帰宅せずに一人室内練習場でバットを振っているのだった。


 2日目からは星形と岩井が合流し、3人で打撃練習を行った。


「せっかくの休みなんだから、ちゃんと休んだらいいのに。ただでさえうちの部はほとんど休みなんてないんだからさ」


「いやー、そうなんすけど。なんか、家にいてもやることがなかったんすよね……」


「俺もです。だったら、身体を動かしたいと思いました」


 俺が星形と岩井に声をかけると、2人が練習しに来たのは俺と同じような理由だった。


「それに……」


「ん?何かあったのか?」


 星形が何か言おうとしたがやめてしまった。俺が気になって聞き返すと、思いもがけない人の名前が出てきた。


「いやー、実は昨日休みだったんで岩井と出かけてたんすよ。そしたら明先輩の姿を見かけて……」


「え!?どこかで買い物でもしてたのか?」


「いや、走ってました。明先輩も気付いてくれて少し話したんすけど、どうやら日課にしているランニングみたいだったす。話した感じ、春先から走り始めたらしいっす」


 春先ってことは……春の大会予選で負けた頃だろうか。


「それを聞いて、なんだか休んでる場合じゃないなって思ったっす。岩井もそれを聞いてて同じように思ったみたいっす」


「エースだった人が負けた翌日も走ってるのに、俺たちは休んでるなんて知って、練習しなきゃと思いました」


「そうだったのか……」


 明の姿は春の大会予選敗退以降、練習後に室内練習場で見ることはなかった。俺はもしかしたら明に何かあったのかといろいろと考えていたけど、とんだ杞憂だったみたいだ。明は俺の練習を手伝うことよりも、エースとしての自分の成長を優先しただけだったのだ。


『明はそんなヤワなやつじゃないもんな……』


「近藤先輩、なんで笑ってるんすか?気持ち悪いんすけど……」


「え?俺笑ってたのか……」


 明の話を聞いて思わず笑ってしまっていた。明は俺の知ってる明のままだったからだ。そういうことなら俺も負けてられないな。


「先輩に気持ち悪いとか、お前そんなにボールを打ちたかったのか。岩井、星形にもう二箱追加で」


「はい、分かりました」


「ひどいっす!!」










 3日間の休みが終わり、練習前に全員がベンチ前に集められた。


「久しぶりだな。今日から練習を再開する。秋の大会予選まで日数はそんなにはない。今日からしっかりと気合を入れ直して活動再開してくれ。では、新チーム始動の前に俺からキャプテンを発表する。新チームのキャプテンは近藤、お前だ」


「はい!」


「じゃあ近藤キャプテン、みんなに一言頼む」


 俺は山田監督の横に移動して、話始めた。


「えー、山田監督から話があったように、この度新チームのキャプテンをやらせてもらうことになりました。自分たちの課題は得点力だと思います。夏は1点の重みを知りました。個々の打撃力の向上はもちろんですが、チームとして1点を貪欲に取りにいきたいと思います。まずは次の秋の大会では県大会出場を目指しています。これからよろしくお願いします」


『パチパチパチパチ』


 拍手が終わったタイミングで山田監督が話始めた。


「えー、副キャプテンは石井と木下に任せる。石井は投手陣をまとめてあげてほしい。木下は近藤のサポートをよろしく頼む」


「「はいっ!」」


「今のままでは秋の大会で予選を勝ち上がるのは簡単にはいかないだろう。そこを達成するためには、残りの期間全員がレギュラーを取るつもりで全力で練習や試合に取り組んでくれ。競争が激しくなればなるほど、個々の力も向上していくはずだ。まずは、夏を全員で乗り越えるぞ」


「「はいっ!」」


「よし、じゃあ近藤キャプテン、練習を始めてくれ」


「はい!……じゃあ、ランニングからいくぞ!」



 俺をキャプテンとして、今日から新チームが始動したのだった。











 その日の夜、寝ようと思いベットに移動するとメールが来ていることに気が付いた。珍しいなと思いながら中身を確認した。





『神様  2022/07/07
 宛先:baseball.8989@anu.ne.jp
━━━━━━━━━━━━━━
 おめでとうなのじゃ!

 キャプテン就任おめでとうなのじゃ!近藤裕太としてはこの1年が勝負の年になるのぉ。後悔のないように過ごすようにするのじゃ。早速だがお知らせがあるわい。キャプテン就任のお祝いに1つ、力を開放したから有意義に使うのじゃ。健闘を祈っておるぞい。



【先導する者】



『この力はキャプテンのみ発揮できる。試合での活躍具合によって、出場しているチームメイトの能力が変動する。試合出場時に、自動で発動します。途中で交代しても、ある程度効果は継続する』






「これは……結構責任重大だな」


 俺の活躍によってはチームを鼓舞することが出来るだろう。しかし、その逆も考えられる。俺が相手投手に抑えられればチームの士気は下がり、苦戦は免れないだろう。


「他力本願じゃ目的は達成できないってことか。面白い、やってやるよ!」


 神様からのメールを見て、俺は気合いを入れ直したのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サイキック・ガール!

スズキアカネ
恋愛
『──あなたは、超能力者なんです』 そこは、不思議な能力を持つ人間が集う不思議な研究都市。ユニークな能力者に囲まれた、ハチャメチャな私の学園ライフがはじまる。 どんな場所に置かれようと、私はなにものにも縛られない! 車を再起不能にする程度の超能力を持つ少女・藤が織りなすサイキックラブコメディ! ※ 無断転載転用禁止 Do not repost.

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...