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1年目〜3年目 近藤 裕太編

春の大会 予選

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 3月も終わりを迎え、3日間で合計6試合の練習試合をこなすことができた。


「さて、今日で3月も終わりか。明日からは俺も2年生になるんだな……」


 始業式はまだだか、一応4月に入れば2年生だ。後輩も入ってくるし、これからも頑張らないとな。


「寝る前に月末報告を確認しておくか」 


 俺は届いていたメールを開いて、中身を確認した。





『神様  2022/03/31
 宛先:baseball.8989@anu.ne.jp
━━━━━━━━━━━━━━
 月末報告じゃ!

 久しぶり、神様じゃ。元気にしとるかのぉ?今日で3月が終わるので、月末報告をするぞい。


◎個人能力値


近藤 裕太(1年)  右投げ右打ち


※各数値の最大値は100 

※数値の右側は補足説明


〇ポジション 


 ファースト41(+3)

 他0


〇打撃


・ミート力   45(+4) バットにボールを当てる能力

・スイング速度 43(+4) スイングの速さ

・パワー    45(+4) 打球速度、飛距離



〇走塁


・足の速さ 34 (+1)単純な足の速さ

・走塁技術 26 (+1)ベースランニングとスライディング

・盗塁技術 17 (+1)リード、スタート、スライディング



〇守備


・肩の強さ   26(+1) 距離

・送球の正確性 24(+1) コントロール

・握り変え   20(+1) 取ってから握り変える早さ

・捕球力    23(+1) 球際の強さ

・打球判断力  24(+1) ボールとの距離感、スタート

・守備範囲   29(+1) (足の速さ+打球判断力)÷2



〇投手  


・球速   98km/時

・制球力   8

・スタミナ 11

・変化球  なし



〇その他


・体力     49(+2) 練習をする上で必要不可欠

・精神力    32(+1) 様々な場面での度胸

・サインプレー 25(+2) 理解力

・バント    28(+2) バントの技術



◎チーム評価


※最大値は10


・投手力  2

・打撃力  4

・機動力  3(+1)

・守備力  2

・指導力  2

・対外評価 2 



◎アドバイス


 信じすぎてはいけない。






「……今回はよくわからないアドバイスだな。何のことを言っているんだろう」


 俺にはなんのことかすぐには分からなかったので、明日山田監督にも聞いてみることにした。







『それはどう意味だ?』


『いや、俺も分からないから聞いてるんですけど……』


 翌日の練習中、山田監督といつものように心の中で会話をする。山田監督にも意味がよく分からないようだ。


『これまでのアドバイスのことかな?それとも誰かそういう人が今月現れるのか……うーん、よくわからん』


『新入生も4月半ばには入ってきますからね。もう少し具体的に書いてほしいですよね』


 新入生に何かあるのだろうか?そうだとしても、とりあえずは後回しだろうな。まずは目の前の春の大会予選を勝ち上がらないといけない。


『とりあえずは後回しですかね』


『そうだな。新入生が入ってきてからまた考えよう』


 俺と山田監督は切りの良いところで会話を切り上げるのだった。







 2年生に進級して新しいクラスになって学校生活でも忙しくしていると、あっという間に初戦の日がやってきた。


「それではスタメンを発表する」




1番 レフト    北野(3年 背番号7)

2番 センター   田中(3年 背番号8) 

3番 セカンド   川内(3年 背番号4)

4番 ライト    秋田(3年 背番号9)

5番 サード    斎藤(3年 背番号5)

6番 ファースト  近藤(2年 背番号3)

7番 キャッチャー 水谷(2年 背番号2)

8番 ピッチャー  石井(2年 背番号1)

9番 ショート   町村(2年 背番号13)



 練習試合では2回この打順が組まれたが、どちらも打線の繋がりが良かったのでこれを採用したらしい。俺個人としても打順が上がっているので嬉しいことだ。


「裕太、今日も援護頼むぜ!」


「おう!お前も簡単に打たれるなよ」


 俺と明はお互いに軽口を叩いて、グラウンドへ走り出していく。今回は珍しく後攻だ。





「ゲーム」


「「ありがとうございました!」」


 試合は1対5で危なげなく勝つことができた。俺は、3打数1安打1四球だった。そこまで、活躍は出来なかったがヒットは打てたので良しとしよう。


 明は圧巻だった。3回までノーヒットピッチング。7回に四球と味方のエラーが重なって1点失ったが、それだけだった。7回をなげきったところで、明後日も試合なので余力を残して降板していた。


 7回 被安打3 失点1 四死球2 奪三振4だった。本人はもう少しやれた、と納得していないようだったが十分すごい成績だ。帰りに褒めちぎってやろう。


「次の試合は明後日だ。今日、明日は疲れをしっかりとって、万全の体調で試合に臨もう!」


 山田監督の顔はいつもより表情が緩んでいた。安定して初戦突破できるようになったことが嬉しいのだろう。





 俺の打撃練習に付き合ってもらったあと、いつも通り2人で帰っていた。


「明後日勝てば県大会だな」


「確か相手は明城めいじょう高校だっけ?秋は県ベスト16だったとこだな」


 明が自信なさげに相手のことを口にする。対戦相手の明城高校に関しては山田監督がミーティングで言っていた。なんでもかなり注目を集めている選手がいるらしい。名前は……思い出した。


「そう、なんでも俺たちと同じ学年の加賀かがっていうやつが、大活躍してるらしいぞ」


「加賀?そんなやつ聞いたことないな。同じ学年で有名なやつならだいたい中学時代に対戦して覚えてるはずだけど……。まぁ、今の俺なら抑えてみせるさ!」


「頼もしいな。俺も次こそは活躍してみせるさ!」


「期待してるぜ!」


 その後俺は今日の明のピッチングをべた褒めしながら帰宅するのだった。







「今日の相手は最近打線の調子が良いらしい。特に3番加賀は秋の県大会で活躍して、かなり注目を浴びている。バッテリーは警戒を怠るなよ」


 山田監督が試合前のミーティングで個人名を出すなんて、相当な選手なんだろうな。これは本当に要注意かもしれない。


 スタメンは前回と同じだった。俺は打順が下がるかと心配したが杞憂だったようだ。今回こそは活躍しなければ。





2回表 ワンアウト ランナー2塁


 俺の初打席はチャンスの場面で回ってきた。ここで先制点をとって、先発の明を楽にしてやりたいところだ。


 マウンドにはいるピッチャーは右サイドスロー投手だった。持ち球はストレート、スライダー、シンカー、スローカーブと、変化球が多彩で投げる割合も高い。


 俺はここまでの傾向から予想して、スローカーブ、スライダー辺りに狙いを定めた。打ち損じても進塁打にはなるように、1、2塁間を抜くイメージで打ちにいこう。



『狙いの球種→変化球

 打ち方  →流し打ち

 成功確率 →28%』



 俺は相手投手の動きに集中する。サイン交換が終わり、セットポジションに入った。ランナーに一瞬視線を送り、クイックモーションから第1球が投じられた。


「ストライーク」


 インコースストレート。予想していなかったボールに手が出なかった。狙いが外れた以上しょうがない。さて、次はどうするか。


 ここまで2球連続ストレートなんてなかった。おそらくシンカーは使うとしても決め球としてだろうし、ここは狙いを変えないことにした。


 マウンドから2球目が投じられる。フワリと浮かんだ軌道からスローカーブと分かる。俺はしっかりと引きつけて、バットを振り抜いた。


「カキーン!」


 しっかりとバットの芯で捉えることができた。しかし、打球の角度は上がらず、セカンド正面に鋭い打球が飛んでいく。ワンバウンドしても打球の勢いが強く、捕球しにいったセカンドのグローブから一度こぼれる。俺の全力疾走及ばず、その後落ち着いて処理されセカンドゴロに終わった。ランナーは3塁に進んだのでよしとしよう。





7回裏 ツーアウト 満塁 


 この試合最大のピンチが訪れた。スコアは1対3とリードを許し、このピンチで打席に迎えるバッターは今日1安打の加賀。他の2打席も討ち取ったものの、打球自体は悪くなかった。俺の1打席目のように飛んだ場所が悪かったというやつだ。


 ひと呼吸おこうとベンチから伝令が来て、内野陣はマウンドに集まっていた。


 ベンチを見ると、山田監督が練習中にいつも俺と心の中で会話するときの身体の部分を触っている。試合中では初めてのことだったのでかなり驚いたが、状況を思い出し、落ち着いて会話を開始する。


『急に悪いな。相談したいことがあってな』


『少し驚きましたが大丈夫ですよ。どうしました?』


『聞きたいのは継投のタイミングについてだ。俺は正直今すぐにでも変えたほうがいいんじゃないかと思う。石井に対して、加賀のタイミングが合っているのが気がかりなんだ』


『確かにタイミングが合っているのは俺も感じていました。でも、この場面で明よりも抑える可能性があるピッチャーはいないと思いますけど……』


 一応プルペンには3年生の佐藤先輩が入り、いつでもいける状態でスタンバイしている。だか、ここまでの成績を見ても佐藤先輩には荷が重すぎる場面だろう。


『そうか……。ここはエースを信じるか。前の打席だってタイミングは合っていても結局は討ち取ったんだ。今度だってそうなる可能性はある』


『そうですね。俺も明を信じてます。大丈夫、明ならやってくれますよ!』


 伝令はベンチに戻り、俺は守備位置に戻りながら山田監督との会話を終える。大丈夫、明なら抑えてくれる。


 右のバッターボックスに入った加賀に向けて、マウンドの明から1球目が投じられる。


『カキーン』


「ファール」


 打球はサード横のファールゾーンに、ライナーで飛んでいった。大丈夫ファールだ。問題ない。


 2球目、3球目は変化球が外れ、カウントツーボールワンストライク。おそらく次が勝負の1球になる。


 加賀が打席を一度外し、スイングを確認してからバッターボックスに入り直す。マウンドに立つ明がキャッチャーのサインに頷きセットポジションに入る。キャッチャーミットをめがけて、4球目が投じられた。




「カキーーン!!」


 加賀の振ったバットはボールを捉え、左中間に勢いよく飛んでいく。打球はフェンスまで達し、内野にボールが帰ってくる頃にはランナーが全員ホームに生還していた。


 結果は走者一掃3点タイムリーツーベースヒット。高めに浮いたストレートに力負けすることなく打ち返した加賀の勝ちだった。


 ベンチにいた選手が審判に監督からの伝言を伝えにいく。それに合わせて、ブルペンから佐藤先輩が走ってくる。


「選手の交代をお知らせします。ピッチャー石井くんに変わりまして、佐藤くんが入ります。8番ピッチャー佐藤くん。背番号10。以上のように変わります」 


 場内に響くアナウンスの中、ベンチに走って引き上げていく明の足取りは重かった。








「ゲーム」


「「ありがとうございました!」」


 結果はその後も追加点を許し、最終的に1対7で負けた。


 こうして俺たちの春の戦いは終わった。次は夏。ノーシードから頂点を目指すことになる。


「今日は残念だった。明城高校とは夏を含め、今後も当たる可能性はありえる。次の機会には打ち勝てるように、明日からまた練習していこう」


 試合後の山田監督のミーティングは短めに終わった。夏や秋と違って、ここで負けたからといって甲子園にいくチャンスが途絶えるわけではないからだろう。







 学校に帰り、荷物を戻したあと俺はいつものように練習を始めることにした。今日は悔しい思いをした分、いつもよりたくさんバットを振らないと。


 俺は練習に付き合ってもらおうといつものように明の姿を探すが、すでに部室にその姿はなかった。

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