猫物語

反撃しなくちゃ

　僕らは、全てのゲージのロックを外し、中にいる犬さんや猫さん、そして少数派の爬虫類の皆さんに、そのままゲージにとどまっていてくださいと段取りをつけた。
「僕が合図するまでは、いつものようにゲージの中にいてください。危ない人達を軽く見てはいけません。彼らが、どんな武器を持っているかはわかりませんから。」
「カツミ、鳥さんが応援呼ぼうかって。」
「どんな応援かな。聞いてみて。」

　
　僕は腕の中のショーンを抱きしめて『ショーン、君の死は無駄にしない、必ず。』と呟いていた。

 
「あの、私の兄をご存知と伺いましたが。」
「ジュディさんですね。」
　一目でわかった。ショーンに良く似ているから。
「兄が大変お世話になったようで。」
「いいえ、こちらこそ大変お世話になりました。勇気のある立派なお兄さんでした。」
　ジュディは目の前で兄を殺されたショックから、一人では立てずに仲間に支えられていた。
「あなたはその体で戦うのは無理です。今の内に安全な所へ避難なさった方が…」
「いいえ、一部始終を見させてください。お願いします。」
　溢れる涙を拭いもせずに凛として言い放った。
「カツミ、鳥さんが、この近くに大スズメバチさんの巣があるんだって。」
「うん、協力してもらえるのかな。」
　これは、やや戦力に不安があった僕らにはとても力強い助っ人だ。
「彼らも危ない人達に怒ってるから、大丈夫だって。」
「それは、是非ともお願いしたいな。」
　マリが雀に語りかけると雀は窓から飛びたって行った。僕らは物陰に隠れ、危ない人達を待つことにした。
 


　あれから２時間が経過した。僕らは息を潜め、周囲の音に神経を集中した。遠くにあの大型バイクの音が聞こえてきた。いよいよだ。
「マリ、みんなに合図を待つように、確認してくれ。」
「うん、わかった。」
　マリはゲージの動物たちに連絡に行った。
　バイクの音が次第にはっきりと聞こえはじめ、やがて扉の開く音が聞こえた。
「ホーラ、新しい仲間、連れてきてやったぜ!ヒャッホィ。」
「起きろ、起きろ。」
　ゲージが叩かれる音が聞こえてきた。ただ前回と違うのは、悲鳴が聞こえてこない事だ。
「何だこいつら、今日は随分大人しいじゃねぇか。」
「それよりさ、私のオモチャ見に行こう。本当にくれるんだよね。あのかわいこちゃん。」
「ったく、好きにしろや。」
　危ない人達は、僕が落ちていたカーゴに向かっていった。
「あらっ、私のかわいいオモチャが消えたよ。」
「おい、よく見ろや。」
「だっていないんだよ。」
「一人で脱け出せる訳ないじゃん、ヒヒッ。」
「どれ…確かにいねえな。」
「逃げちゃったのかな、遊ぼうと思ってたのに。」
　危ない人達の会話が、倉庫内に響いた。
「まだ、そこらにいるんじゃねぇか。」
「それょかさ、おいら腹ペコ。食ってからにしようぜ。今日は猫肉がいいな。」
　僕は合図を送り、動物達はそれぞれの場所に隠れた。 
　空っぽになったゲージの前に立ち、危ない人達を待ち受けた。
「お～い、いたぞ。」
「てめえ、なにやってんだ。かわいこちゃん達をどうした。」
　危ない人達はかなり興奮気味で危険度は振り切れる程だった。
「逃げねえで、ここにいるっつうのはいい度胸じゃねぇか。」
「嬉しいわ、また会えて。仲良くしようね。」
「悪いけれど、君は趣味じゃないな。」
「なめてんのか。」
「それは冗談かな。なめるどころか触りたくもない。」
　僕はそう言うと、合図の仕草である鼻を触った。それを機に今まで虐げられていた動物達は、一斉に踊りかかった。