友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話

蜂蜜

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「分かった。でもその前に……翠は俺の友達を傷付けた。だからまずは鬼頭に謝ろう?」

俺の言葉に頷いた翠が、鬼頭に向かって頭を下げた。
床に三指を着いて額を押し当てている……土下座だ。

「鬼頭君、すまなかった。俺が考えなしな事をしたばっかりに、君を傷付けてしまった」

「先輩、頭を上げて下さい。
浮気を知った時は本当にショックだったけど、今は感謝しているんです」

感謝?

「俺は感謝されるような事は何もしてないけど……」

翠も俺と同じで引っ掛かったらしい。
上げた顔を傾けて問返している。

「この男が最低なクズ野郎だって気付かせてくれたじゃないですか。
ありがとうございます」

「結月、酷くない?」

いや、至って真っ当な評価だと思う。

「それに……」

「それに?」

何だか含みを持たせた言い方が気になって、隣で目を細めて綺麗に笑う友人をじっと見つめて言葉の続きを待つ。



「桃乃衣を誰にも渡したくないって気付けたからね」



そう言って俺の頬を両手で包んで来た鬼頭の顔が、それはもう綺麗だった。

綺麗というか、妖艶?
親指で頬を撫でながら目尻を僅かに吊り上げ、唇を舐める姿は、とても友達に向ける物ではないと思う。

「な……なんで急にそんな考えになったんだよ」

「急じゃないよ。僕も明楽に負けないぐらい独占欲強いんだ……桃乃衣の友達は僕だけでいいのにってずっと思ってたし」

マジか!!

「でも、明楽にあんな事されたり、先輩に告白されて満更でもなさそうな桃乃衣を見て、物凄くもやもやしたんだよね。
そんなの、友達に向ける独占欲じゃないのに」

満更でもないというより、身内だし、これまで気付かなかった償いも兼ねて前向きに考えたいだけなんだけど。


「それで気付いたんだ。
友達じゃなくて【桃乃衣 陽斗】を全部僕のものにしたかったんだな…て」


「え、だって鬼頭は、猿渡を好きで…恋人で」

「うん。明楽の事は愛してたよ。でもその頃から桃乃衣は僕の『特別』だったから」

「それは、浮気じゃねーのか?」

「どうなんだろう?さっきまでは友達として特別なだけだと思ってたから。
今も、この感情が恋愛感情かって言われると答えに困るんだよね」

恋愛感情じゃないのにこんな『雄』の顔して俺を見てるのかよコイツ!?


「だって、もっと深くてどろどろとした物だから……恋人だけじゃ満足できそうにない」


知りたくなかった友人の一面に混乱していると、俺と鬼頭のそれぞれの身体を後ろから強く抱き寄せられて引き離された。

俺を抱き締めているのは翠で、鬼頭は猿渡だ。

……………猿渡は、抱き寄せた直後に鳩尾みぞおちに強烈な肘打ちを食らって身体を離しているけれど。


「ふっ……く…ははっ…!」

鳩尾を押さえながら急に笑い出した猿渡への恐怖から、抱き締めてくれている翠の服を掴んでしまう。

恐怖する俺と戸惑う翠に冷めた目の鬼頭に見られながら、一頻り笑って落ち着いたのか猿渡が顔を上げた。


涙で潤んだ垂れた瞳が、何故か俺を見ている。


既視感


ぎらぎらと獲物を捉えたような視線にぞくりと背中が震える。


「俺、分かっちゃった。何で桃クンだけは意識しちゃうのか……俺と結月はさぁ、似た者同士だったんだねぇ」


何を言っているのか全く理解できないが、とてつもなく恐ろしい事を言われている事だけは解った。
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