27 / 30
27
27
しおりを挟む
「分かった。でもその前に……翠は俺の友達を傷付けた。だからまずは鬼頭に謝ろう?」
俺の言葉に頷いた翠が、鬼頭に向かって頭を下げた。
床に三指を着いて額を押し当てている……土下座だ。
「鬼頭君、すまなかった。俺が考えなしな事をしたばっかりに、君を傷付けてしまった」
「先輩、頭を上げて下さい。
浮気を知った時は本当にショックだったけど、今は感謝しているんです」
感謝?
「俺は感謝されるような事は何もしてないけど……」
翠も俺と同じで引っ掛かったらしい。
上げた顔を傾けて問返している。
「この男が最低なクズ野郎だって気付かせてくれたじゃないですか。
ありがとうございます」
「結月、酷くない?」
いや、至って真っ当な評価だと思う。
「それに……」
「それに?」
何だか含みを持たせた言い方が気になって、隣で目を細めて綺麗に笑う友人をじっと見つめて言葉の続きを待つ。
「桃乃衣を誰にも渡したくないって気付けたからね」
そう言って俺の頬を両手で包んで来た鬼頭の顔が、それはもう綺麗だった。
綺麗というか、妖艶?
親指で頬を撫でながら目尻を僅かに吊り上げ、唇を舐める姿は、とても友達に向ける物ではないと思う。
「な……なんで急にそんな考えになったんだよ」
「急じゃないよ。僕も明楽に負けないぐらい独占欲強いんだ……桃乃衣の友達は僕だけでいいのにってずっと思ってたし」
マジか!!
「でも、明楽にあんな事されたり、先輩に告白されて満更でもなさそうな桃乃衣を見て、物凄くもやもやしたんだよね。
そんなの、友達に向ける独占欲じゃないのに」
満更でもないというより、身内だし、これまで気付かなかった償いも兼ねて前向きに考えたいだけなんだけど。
「それで気付いたんだ。
友達じゃなくて【桃乃衣 陽斗】を全部僕のものにしたかったんだな…て」
「え、だって鬼頭は、猿渡を好きで…恋人で」
「うん。明楽の事は愛してたよ。でもその頃から桃乃衣は僕の『特別』だったから」
「それは、浮気じゃねーのか?」
「どうなんだろう?さっきまでは友達として特別なだけだと思ってたから。
今も、この感情が恋愛感情かって言われると答えに困るんだよね」
恋愛感情じゃないのにこんな『雄』の顔して俺を見てるのかよコイツ!?
「だって、もっと深くてどろどろとした物だから……恋人だけじゃ満足できそうにない」
知りたくなかった友人の一面に混乱していると、俺と鬼頭のそれぞれの身体を後ろから強く抱き寄せられて引き離された。
俺を抱き締めているのは翠で、鬼頭は猿渡だ。
……………猿渡は、抱き寄せた直後に鳩尾みぞおちに強烈な肘打ちを食らって身体を離しているけれど。
「ふっ……く…ははっ…!」
鳩尾を押さえながら急に笑い出した猿渡への恐怖から、抱き締めてくれている翠の服を掴んでしまう。
恐怖する俺と戸惑う翠に冷めた目の鬼頭に見られながら、一頻り笑って落ち着いたのか猿渡が顔を上げた。
涙で潤んだ垂れた瞳が、何故か俺を見ている。
既視感
ぎらぎらと獲物を捉えたような視線にぞくりと背中が震える。
「俺、分かっちゃった。何で桃クンだけは意識しちゃうのか……俺と結月はさぁ、似た者同士だったんだねぇ」
何を言っているのか全く理解できないが、とてつもなく恐ろしい事を言われている事だけは解った。
俺の言葉に頷いた翠が、鬼頭に向かって頭を下げた。
床に三指を着いて額を押し当てている……土下座だ。
「鬼頭君、すまなかった。俺が考えなしな事をしたばっかりに、君を傷付けてしまった」
「先輩、頭を上げて下さい。
浮気を知った時は本当にショックだったけど、今は感謝しているんです」
感謝?
「俺は感謝されるような事は何もしてないけど……」
翠も俺と同じで引っ掛かったらしい。
上げた顔を傾けて問返している。
「この男が最低なクズ野郎だって気付かせてくれたじゃないですか。
ありがとうございます」
「結月、酷くない?」
いや、至って真っ当な評価だと思う。
「それに……」
「それに?」
何だか含みを持たせた言い方が気になって、隣で目を細めて綺麗に笑う友人をじっと見つめて言葉の続きを待つ。
「桃乃衣を誰にも渡したくないって気付けたからね」
そう言って俺の頬を両手で包んで来た鬼頭の顔が、それはもう綺麗だった。
綺麗というか、妖艶?
親指で頬を撫でながら目尻を僅かに吊り上げ、唇を舐める姿は、とても友達に向ける物ではないと思う。
「な……なんで急にそんな考えになったんだよ」
「急じゃないよ。僕も明楽に負けないぐらい独占欲強いんだ……桃乃衣の友達は僕だけでいいのにってずっと思ってたし」
マジか!!
「でも、明楽にあんな事されたり、先輩に告白されて満更でもなさそうな桃乃衣を見て、物凄くもやもやしたんだよね。
そんなの、友達に向ける独占欲じゃないのに」
満更でもないというより、身内だし、これまで気付かなかった償いも兼ねて前向きに考えたいだけなんだけど。
「それで気付いたんだ。
友達じゃなくて【桃乃衣 陽斗】を全部僕のものにしたかったんだな…て」
「え、だって鬼頭は、猿渡を好きで…恋人で」
「うん。明楽の事は愛してたよ。でもその頃から桃乃衣は僕の『特別』だったから」
「それは、浮気じゃねーのか?」
「どうなんだろう?さっきまでは友達として特別なだけだと思ってたから。
今も、この感情が恋愛感情かって言われると答えに困るんだよね」
恋愛感情じゃないのにこんな『雄』の顔して俺を見てるのかよコイツ!?
「だって、もっと深くてどろどろとした物だから……恋人だけじゃ満足できそうにない」
知りたくなかった友人の一面に混乱していると、俺と鬼頭のそれぞれの身体を後ろから強く抱き寄せられて引き離された。
俺を抱き締めているのは翠で、鬼頭は猿渡だ。
……………猿渡は、抱き寄せた直後に鳩尾みぞおちに強烈な肘打ちを食らって身体を離しているけれど。
「ふっ……く…ははっ…!」
鳩尾を押さえながら急に笑い出した猿渡への恐怖から、抱き締めてくれている翠の服を掴んでしまう。
恐怖する俺と戸惑う翠に冷めた目の鬼頭に見られながら、一頻り笑って落ち着いたのか猿渡が顔を上げた。
涙で潤んだ垂れた瞳が、何故か俺を見ている。
既視感
ぎらぎらと獲物を捉えたような視線にぞくりと背中が震える。
「俺、分かっちゃった。何で桃クンだけは意識しちゃうのか……俺と結月はさぁ、似た者同士だったんだねぇ」
何を言っているのか全く理解できないが、とてつもなく恐ろしい事を言われている事だけは解った。
30
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
嫌いなもの
すずかけあおい
BL
高校のときから受けが好きな攻め×恋愛映画嫌いの受け。
吉井は高2のとき、友人宅で恋愛映画を観て感動して大泣きしたことを友人達にばかにされてから、恋愛映画が嫌いになった。弦田はそのとき、吉井をじっと見ていた。
年月が過ぎて27歳、ふたりは同窓会で再会する。
〔攻め〕弦田(つるた)
〔受け〕吉井(よしい)

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる