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下から覗き込んでくる黒い切れ長の目から逃げられず、視線を合わせると目を細めて満足そうに微笑まれる。
ちょっと…近い、ような?
思いの外近い距離に戸惑っていると、鬼頭の視線が俺から猿渡へと移って行く。
少しだけ安堵して顔を上げ、すぐに鬼頭から視線を逸した。
再び、猿渡の存在を否定するような真顔になっていた。
「でもね、一度でも裏切りを知っちゃったら…もうだめなんだよね。
許せないし、二度と信じられない。
だから、僕を裏切った明楽の事も信じられないし、愛せない」
『じっと耐える奴』だと思っていた友達は、俺と同じ『一度でも浮気されたら別れて縁を切る奴』だったようだ。
俺よりも感情の振幅が大きいと言うか……極端な気はするけど。
一度浮気されたら盲目的に愛して信じる事はできないという考えはよく分かる。
「だから今日別れるのか」
「そういう事。眼の前で浮気されちゃったからね……それも2回も」
ん?2回?
「待て、俺とのあれは浮気なんかじゃないぞ」
「桃乃衣にその気がなかった事は分かってるよ」
「俺だけじゃなくてコイツにもその気なんかなかっただろ。あんなの、ただの嫌がらせだ」
まさか、鬼頭の中であの恐怖のやり取りまで浮気に入っているとは思わなくて、必死で否定する。
確かに全裸の猿渡に抱き締められたけど、あれは完全に俺に対する嫌がらせだ。
そこに俺への好意など微塵もない。
変な歪みが発動したりしたけど、あんなのは気の迷いだろう。
何とか浮気などではないと説明していると、繋がったままの手を離され、髪を撫でながら生温さを感じる笑みを向けられた。
………分かってくれたのかどうか怪しい。
「桃乃衣が鈍い子で良かった」
「何で今貶けなされたの、俺」
鈍い扱いされるのも心外だし、今の会話の流れで鈍いって言われた事も理解できない。
唐突に貶された事に納得できないでいる俺を置き去りにして、二人の別れ話が再開された。
「という訳で浮気した奴とは付き合えないから別れる。
家も今日中に出て行くから」
「だから浮気なんかしてないって。桃クンとのあれは未遂だったでしょ?」
未遂以前に浮気じゃねーって言ってんだろ。
「迫った時点で浮気だからね?
仮に桃乃衣との事が浮気じゃなかったとしても、雉羽先輩とはシてたんだから浮気してるでしょう」
「最後まではシてないよ。ちょっと触りっこしただけ」
「いや、それは充分ダメなやつだろ」
堪らず口を出してしまった。
猿渡の歪んだ愛情表現に翠を巻き込んだ事が許せないのだ。
猿渡を想う翠の気持ちまで利用したのかと思うと怒りが湧いてくる。
「だからさ、身体だけの関係は俺にとっては『浮気』じゃないんだって。
だから俺は結月との約束は破ってないの」
「ああ、なるほど。道理で話が噛み合わない訳だ」
俺と猿渡との会話で、お互いの『浮気』に対する考え方の違いが分かったらしい。
納得した様な呟きを零す鬼頭を、猿渡が嬉しそうに見つめている。
「分かってくれた?俺達が別れる必要はないって事」
「いや、それは無理。
恋人が居るのに好きでもない人と身体の関係を持ってる奴とは付き合えない」
「身体より気持ちの方が大事じゃないの?
結月はもう、俺の事は好きじゃないの?」
「僕だけを好きだからといって、それは他の人を抱いていい理由にはならないよね?
気持ちも、身体も、どちらも同じだけ大事なんだよ」
正論だ。
鬼頭を好きなら、他の人とどうこうなろうなんて考えないと思う。
鬼頭だけで満たされるはずなのだ
ただ、その正論が通じないぐらいには猿渡の愛情は歪んでいる。
「僕はもう、明楽を好きにはなれない」
鬼頭の言葉に猿渡の顔が見る見るうちに青褪めていく。
流石の猿渡も、恋人から突き付けられた言葉は堪えるらしい。
「別れよう、明楽。僕達はあまりにも考え方が違い過ぎる。
お前が何を思って僕以外の人を抱いたのかは知らないけど、僕にとってそれは裏切りだし、到底許せるものじゃないんだよ」
一切の迷い無く告げられた言葉に、猿渡はすぐには答えられず、長く感じた沈黙の末、ため息と共に艶やかな声が響いた。
「………分かった。
俺としては浮気じゃないけど、結月にとってこれまでの事が浮気だって言うなら…約束は約束だから別れる。
でも、俺は結月の事まだ好きだから、よりを戻して貰えるまで諦めない」
何て粘着質な男なんだろうか。
ちょっと…近い、ような?
思いの外近い距離に戸惑っていると、鬼頭の視線が俺から猿渡へと移って行く。
少しだけ安堵して顔を上げ、すぐに鬼頭から視線を逸した。
再び、猿渡の存在を否定するような真顔になっていた。
「でもね、一度でも裏切りを知っちゃったら…もうだめなんだよね。
許せないし、二度と信じられない。
だから、僕を裏切った明楽の事も信じられないし、愛せない」
『じっと耐える奴』だと思っていた友達は、俺と同じ『一度でも浮気されたら別れて縁を切る奴』だったようだ。
俺よりも感情の振幅が大きいと言うか……極端な気はするけど。
一度浮気されたら盲目的に愛して信じる事はできないという考えはよく分かる。
「だから今日別れるのか」
「そういう事。眼の前で浮気されちゃったからね……それも2回も」
ん?2回?
「待て、俺とのあれは浮気なんかじゃないぞ」
「桃乃衣にその気がなかった事は分かってるよ」
「俺だけじゃなくてコイツにもその気なんかなかっただろ。あんなの、ただの嫌がらせだ」
まさか、鬼頭の中であの恐怖のやり取りまで浮気に入っているとは思わなくて、必死で否定する。
確かに全裸の猿渡に抱き締められたけど、あれは完全に俺に対する嫌がらせだ。
そこに俺への好意など微塵もない。
変な歪みが発動したりしたけど、あんなのは気の迷いだろう。
何とか浮気などではないと説明していると、繋がったままの手を離され、髪を撫でながら生温さを感じる笑みを向けられた。
………分かってくれたのかどうか怪しい。
「桃乃衣が鈍い子で良かった」
「何で今貶けなされたの、俺」
鈍い扱いされるのも心外だし、今の会話の流れで鈍いって言われた事も理解できない。
唐突に貶された事に納得できないでいる俺を置き去りにして、二人の別れ話が再開された。
「という訳で浮気した奴とは付き合えないから別れる。
家も今日中に出て行くから」
「だから浮気なんかしてないって。桃クンとのあれは未遂だったでしょ?」
未遂以前に浮気じゃねーって言ってんだろ。
「迫った時点で浮気だからね?
仮に桃乃衣との事が浮気じゃなかったとしても、雉羽先輩とはシてたんだから浮気してるでしょう」
「最後まではシてないよ。ちょっと触りっこしただけ」
「いや、それは充分ダメなやつだろ」
堪らず口を出してしまった。
猿渡の歪んだ愛情表現に翠を巻き込んだ事が許せないのだ。
猿渡を想う翠の気持ちまで利用したのかと思うと怒りが湧いてくる。
「だからさ、身体だけの関係は俺にとっては『浮気』じゃないんだって。
だから俺は結月との約束は破ってないの」
「ああ、なるほど。道理で話が噛み合わない訳だ」
俺と猿渡との会話で、お互いの『浮気』に対する考え方の違いが分かったらしい。
納得した様な呟きを零す鬼頭を、猿渡が嬉しそうに見つめている。
「分かってくれた?俺達が別れる必要はないって事」
「いや、それは無理。
恋人が居るのに好きでもない人と身体の関係を持ってる奴とは付き合えない」
「身体より気持ちの方が大事じゃないの?
結月はもう、俺の事は好きじゃないの?」
「僕だけを好きだからといって、それは他の人を抱いていい理由にはならないよね?
気持ちも、身体も、どちらも同じだけ大事なんだよ」
正論だ。
鬼頭を好きなら、他の人とどうこうなろうなんて考えないと思う。
鬼頭だけで満たされるはずなのだ
ただ、その正論が通じないぐらいには猿渡の愛情は歪んでいる。
「僕はもう、明楽を好きにはなれない」
鬼頭の言葉に猿渡の顔が見る見るうちに青褪めていく。
流石の猿渡も、恋人から突き付けられた言葉は堪えるらしい。
「別れよう、明楽。僕達はあまりにも考え方が違い過ぎる。
お前が何を思って僕以外の人を抱いたのかは知らないけど、僕にとってそれは裏切りだし、到底許せるものじゃないんだよ」
一切の迷い無く告げられた言葉に、猿渡はすぐには答えられず、長く感じた沈黙の末、ため息と共に艶やかな声が響いた。
「………分かった。
俺としては浮気じゃないけど、結月にとってこれまでの事が浮気だって言うなら…約束は約束だから別れる。
でも、俺は結月の事まだ好きだから、よりを戻して貰えるまで諦めない」
何て粘着質な男なんだろうか。
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感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
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