友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話

蜂蜜

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リビングに行くと、そこにはソファの向かい側で正座をしている翠が居た。

ソファに座ればいいのに、何で床に正座してるんだろう。
流石に見ているこっちが居たたまれなくなって声を掛けた。

「足痛くなっちゃうからせめてクッション敷いたら?」

「陽斗……いいんだ。これは陽斗と鬼頭君を傷付けた自分への罰だから」

「鬼頭は分かるけど、俺は別に傷付いたワケじゃ……そりゃまぁ、ショックではあったけど…ここまでされる程じゃないよ」

俺の言葉に、翠までもが見た事のない顔をした。

眉尻と目尻を下げ、今にも泣きそうな…でもどこか嬉しそうな顔で笑っている。

「全部話したら多分、陽斗の考えは変わると思う。
とりあえず、陽斗と鬼頭君はソファに座って?」

どういう事だろうか。

全部?全部というのは翠と猿渡がしていた事か?
それなら、俺と鬼頭はドア越しとはいえその場に居たのだからもう全部知っているのでは?

首を傾げたまま翠の前から動かない俺の手を鬼頭が引っ張って来た。

「桃乃衣、先輩の言う通りにしよう。
まださっきのショックが抜けてないだろう?」

促されるまま、ソファに腰掛ける。

テーブルを挟んだ向かい側に翠が正座で座っているのが見えて何とも気まずい。

「何か、俺の方が迷惑をかけてるよな。
鬼頭のが辛いのに、気を遣わせてごめん」

結局、鬼頭に迷惑をかける形になってしまった申し訳なさに改めて謝るが、首を小さく横に振られた。

「謝らなくていい。元はといえばあの馬鹿が桃乃衣を巻き込んだのが悪いんだから。
僕の方こそ、桃乃衣が離れていかないか心配なんだ……怖い思いまでさせたし」

両手を握られ、眉を顰めて何か思い詰めた様な顔で見上げて来る鬼頭に何事かと思えば、いらぬ心配をしているようだ。

繋がれた手に力を込めて俺からも握り返す。

「猿渡の浮気と鬼頭と友達じゃなくなるのは関係ないだろ?
俺は鬼頭が好きだから、離れるつもりは今の所ないよ」

絶対なんてないから『ずっと友達だ』とは断言できないけど、鬼頭から離れていかない限り俺は友人として鬼頭の傍に居るんじゃないかと思っている。
それぐらい、この綺麗な顔をした友人の傍は居心地が良いのだ。

そう伝えると、切れ長の目を細めてとてつもなく綺麗に笑われた。

いつか見た微笑みよりもずっと綺麗で、思わず息を呑む。


「僕がその言葉にどれだけ救われてるか分かってないだろう?」

「そんな大袈裟な……」

まるで命の恩人かのように言われて戸惑ってしまう。

そんな、幸せいっぱいみたいな顔をされるような事は何も言っていない…………はず、だよな?

「大袈裟なんかじゃない。ありがとう、桃乃衣」

「え、あ……おう」

結局、目尻を下げて口元を緩ませた美人の迫力に押し切られて頷いてしまった。
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