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「落ち着いた?」
「………うん。ありがと、鬼頭」
握り締めたままだったフェイスタオルで、濡らしてしまった鬼頭の肩口を拭きながら礼を言う。
本当に……鬼頭のおかげで色々と助かった。
どう致しまして、と言って俺の目尻をなぞる鬼頭の顔は、部屋を出て行く時よりも柔らかい物へと変わっていた。
俺がクズと揉めている間に何かあったのだろうか。
「どうかした?具合悪くなった?」
じっと見過ぎてしまったらしい。
ほんのりと赤くなってしまっている目尻を下げて心配そうに見つめてくる鬼頭に慌てて首を横に振る。
「大丈夫。鬼頭のおかげで怖くなくなったから……来てくれたのすげぇ嬉しい」
こんな時だというのに、安心感から口元が自然と緩んで笑んでしまう。
酷い泣き顔を見られたのはかなり気恥かしいが、それ以上に友達が傍に居てくれる心強さが今は勝っている。
あのまま猿渡と二人きりだったらと思うと……無理だ。
想像もしたくない。
浮気したクズとその恋人が鉢合わせしているこの状況は決して良いとは言えないんだけどな。
「……………………桃乃衣が可愛い」
「お前まで何言ってんだ?」
コイツら、恋人同士なだけあって似た者同士なんだろうか。
感覚がおかしい。
「そこの変質者と同じにされるのは心外なんだけど。
具合が悪い訳じゃないなら、リビングに来れる?」
顔に出ていたのか、それまで優しく笑っていた鬼頭の表情が一瞬で消えた。
次いで眉間に皺が寄ってこれでもかとばかりに不機嫌になっていた。
本当に今日はよく表情が変わる……これが本来の鬼頭なんだろうか。
だとしたら少し寂しいな。
1年以上、俺には見せてくれなかったという事になるから。
しかし、今は俺個人の感傷は後回しだ。
浮気現場に遭遇したのはついさっきだけど、大丈夫なんだろうか。
「俺はいいけど、鬼頭は平気なのか?……その…」
「ああ、うん。こういう話はその日の内にしないとね。先延ばしにしていい事なんか1つもないから」
俺が思っているよりもこの友人はずっと強い人間のようだ。
もう目に涙も浮かんでいないし顔色も悪くない。
身体も震えてはいないから完全に吹っ切れたのだろうか……
真っ直ぐ見つめてくるいつもなら綺麗だと思うその顔を、何故か今は格好いいと思った。
「という訳だから。着替えてリビングに来て。
分かってると思うけど……逃げるなよ」
「俺が結月からのお誘いを断るワケないじゃん。
すぐに行くね」
(コイツ、メンタル強過ぎだろ)
冷めた目で見る鬼頭を嬉しそうに見つめ返す猿渡に再び寒気を感じながら、鬼頭に手を引かれて脱衣所を後にした。
「………うん。ありがと、鬼頭」
握り締めたままだったフェイスタオルで、濡らしてしまった鬼頭の肩口を拭きながら礼を言う。
本当に……鬼頭のおかげで色々と助かった。
どう致しまして、と言って俺の目尻をなぞる鬼頭の顔は、部屋を出て行く時よりも柔らかい物へと変わっていた。
俺がクズと揉めている間に何かあったのだろうか。
「どうかした?具合悪くなった?」
じっと見過ぎてしまったらしい。
ほんのりと赤くなってしまっている目尻を下げて心配そうに見つめてくる鬼頭に慌てて首を横に振る。
「大丈夫。鬼頭のおかげで怖くなくなったから……来てくれたのすげぇ嬉しい」
こんな時だというのに、安心感から口元が自然と緩んで笑んでしまう。
酷い泣き顔を見られたのはかなり気恥かしいが、それ以上に友達が傍に居てくれる心強さが今は勝っている。
あのまま猿渡と二人きりだったらと思うと……無理だ。
想像もしたくない。
浮気したクズとその恋人が鉢合わせしているこの状況は決して良いとは言えないんだけどな。
「……………………桃乃衣が可愛い」
「お前まで何言ってんだ?」
コイツら、恋人同士なだけあって似た者同士なんだろうか。
感覚がおかしい。
「そこの変質者と同じにされるのは心外なんだけど。
具合が悪い訳じゃないなら、リビングに来れる?」
顔に出ていたのか、それまで優しく笑っていた鬼頭の表情が一瞬で消えた。
次いで眉間に皺が寄ってこれでもかとばかりに不機嫌になっていた。
本当に今日はよく表情が変わる……これが本来の鬼頭なんだろうか。
だとしたら少し寂しいな。
1年以上、俺には見せてくれなかったという事になるから。
しかし、今は俺個人の感傷は後回しだ。
浮気現場に遭遇したのはついさっきだけど、大丈夫なんだろうか。
「俺はいいけど、鬼頭は平気なのか?……その…」
「ああ、うん。こういう話はその日の内にしないとね。先延ばしにしていい事なんか1つもないから」
俺が思っているよりもこの友人はずっと強い人間のようだ。
もう目に涙も浮かんでいないし顔色も悪くない。
身体も震えてはいないから完全に吹っ切れたのだろうか……
真っ直ぐ見つめてくるいつもなら綺麗だと思うその顔を、何故か今は格好いいと思った。
「という訳だから。着替えてリビングに来て。
分かってると思うけど……逃げるなよ」
「俺が結月からのお誘いを断るワケないじゃん。
すぐに行くね」
(コイツ、メンタル強過ぎだろ)
冷めた目で見る鬼頭を嬉しそうに見つめ返す猿渡に再び寒気を感じながら、鬼頭に手を引かれて脱衣所を後にした。
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