友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話

蜂蜜

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「き……とう…っ…」


不味い。

最悪な状況に変わりはないのに、友達の顔を見たら安心して気が緩んでしまった。

堪えていた涙が目尻から零れて頬を伝って落ちたのが分かる。

一度緩んだ涙腺は自分の意思で締める事ができず、決壊したかのように涙が次から次へと溢れて零れていく。


鬼頭が入って来てから誰も何も話さない脱衣所には、俺の噛み殺した嗚咽だけが響いていて気まずい事この上ない。

(俺が泣いてどうすんだよ。情けな過ぎる)

せめて泣き顔だけは見られないようにしたいのに、頬を包んで撫でている猿渡の手に阻まれてしまう。
長い指や手の甲を俺の涙で濡らしながら、目尻を下げ恍惚とした表情で俺の顔を覗き込んでくる。

涙でぼやけた視界いっぱいに、頬を染めた王子様の顔が映り、それが更に俺の恐怖と嫌悪感を煽る。


「やっば………勃った」


聞こえてきた言葉は幻聴だと思いたかった。

しかし………腹に当たる硬い感触が、猿渡の言葉が真実だと伝えてくる。

何がどうなったら俺なんかの泣き顔で興奮できんだよ。
それに、どう考えても泣かせた奴が言う台詞じゃない。

「信じらんねぇ。アンタ…っ…ほんとに、最低だっ…」



「本当だね。桃乃衣から離れろ、変態」


聞いた事のない冷たい声音に驚くのと同時に物凄い力で猿渡から引き離された。
それまで身体に触れていた熱が無くなった代わりに別の熱に抱き締められる。

「怖かったよね、こんな変質者に捕まって……」


肩口に顔を抱き寄せられ、頭を撫でられながら耳に馴染んだ声で優しく囁かれたらもう無理だった。

鬼頭の方が傷付いていると分かっているのに、頭を撫でる手付きや、落ち着かせるように背中を擦る優しい手の温かさに、自分から鬼頭の背中に手を回してしがみついてしまう。

「……っ…うん」

さっきとは逆だ。

俺より少しだけ低い鬼頭の肩口に額を押し付けて泣きじゃくっている。


怖かった


猿渡があんな歪んだ執着心を持った男だったなんて

それを自分にも向けられるなんて……あれでもほんの一握りなのかと思うとゾッとする。

出逢った事のない恐怖に中々収まらない身体の震えが止まるまで、鬼頭は俺を抱き締めていてくれた。
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