友人とその恋人の浮気現場に遭遇した話

蜂蜜

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しばらくの沈黙の後、堪えきれないとばかりに猿渡が笑い出した。

全裸で。

「あははっ、分かりやすい顔。何言ってんだコイツって書いてある」

「そうだな、何言ってんだこのクズはって思ってる」

さっきまで感じていたコイツの異常さに対する恐怖は、先の発言で一気に吹き飛んだ。

何で俺がコイツと浮気そのものについて論議しなければならないのか。

今、俺の目は死んでいるか据わっているかだと思う……おそらく前者だ。

「キミ、段々俺に対して遠慮なくなってきたね……初めて会った時はそれなりに可愛げがあったのに」

初めて鬼頭から猿渡を紹介された時はコイツの浮気癖を知らなかったので、純粋に鬼頭とお似合いだと微笑ましい気持ちでいたのだ。

だから三人で過ごした事だってあったし、猿渡の過剰なスキンシップだって友達として受入れていた。

実際にはあっちは俺を友達だとは思ってなかったし、俺も散々見せられた浮気のせいで猿渡を受付なくなっていった訳だけど。

「アンタに可愛いって思われてもちっとも嬉しくねーよ。
ほんとに、その下半身のゆるさが全部を台無しにしてんだけど」

呆れて溜息混じりに呟いた言葉は、理解できないとばかりに首を傾げられた。


「何で結月以外の人としただけで浮気になるの?」


「は?」

さっきからコイツが言う事がほとんど分からないんだが。

恋人以外と身体の関係を持つのは紛う事なく『浮気』だろう。

え、俺のその考えが異常なのか?
猿渡があまりにも堂々と聞いてくるから、こっちがおかしいんじゃないかと思えてきた。

思わず首を傾げて間の抜けた声を漏らしてしまう。


「俺はね、誰と居ても、何をしていても結月の事だけを考えてるし想ってるんだよ。
………だからね、結月にもそうあって欲しいんだよねぇ」

「支離滅裂してねぇか?」

「してないよ。俺と離れてる時でも結月に俺の事を想って貰うなら、嫉妬とか独占欲を掻き立てる事が1番じゃない?」

「だから……他の奴と浮気してるって言うのか?」


「キミにとっては浮気でも、俺にとってはただの手段だよ。
身体だけの繋がりを俺は『浮気』だとは思わない……浮気ってさ、恋人以外の誰かを好きになる事だと思うんだよねぇ」


「そうじゃないから鬼頭以外の奴を抱いても平気だって言いてぇのか?」

「そういう事」

「おい、まさか俺にそういう・・・・場面を何度も見せてきてんのはワザとなのか?」

「そうだよ。桃クンの言葉なら絶対に結月は信じるからね。
キミから俺が結月以外の人と仲良くしてる事を話してくれたら、それだけで結月の頭の中は不安とか、独占欲とかで俺の事でいっぱいになるでしょ?」

頭がこんがらがってきた。

鬼頭だけを想っているなら、他の奴を抱いても浮気にはならないのか?

いやいや、それはない。

コイツがあまりにも堂々と言うもんだから流されそうになったけど、おかしいだろ。

鬼頭だけを好きならそもそも他の奴と身体の関係を持とうだなんて思わないし、他の奴と身体の関係を持つにしたって理由が異常過ぎる。


鬼頭に自分の事だけを考えて欲しいからわざと離れる時間を作ってるって事だろ?

しかもその時間に他人を抱いて、更にそれを俺に見せつけて、俺から鬼頭に伝えさせて嫉妬心と独占欲を煽るなんて……歪んでる。


コイツが性欲おばけで何人もそういう相手が要ると言われた方がまだ納得できた。

理解はできないけど、歪んではいない理由の方が何倍もマシだったのに。

「普通に傍に居てやればいいじゃねーか。何でそんな傷付けるやり方すんだよ」

「桃クンが何を言っても、結月は俺を信じるって言ったんでしょ?それは傷付いてるとは言わないんじゃないのかな」


「信じてるからって傷付かないワケじゃないだろ」

現に、鬼頭は傷付いて泣いたのだ。

あんなに傷付いた鬼頭の顔、1年以上友達として付き合って初めて見た。

「その傷を付けたのが俺なら、それはそれで嬉しいなぁ」

「は?」

頬を染めて恍惚とした顔でうっとりと話す王子様に、再び寒気が走り、またしても間抜けな声が漏れてしまう。

歪みに歪んだ王子様は、俺の戸惑いなど置いてけぼりにして話し続ける。


「結月にはね、俺だけでいいんだよ。
好意も嫌悪も、結月の全部は俺にだけ向いてるべきなの」

「友達とかいらないのに………なのに、キミだけは結月の中から出ていかない」

「【桃乃衣 陽斗】だけが、俺の結月の中に居続けてる。
俺はそれが許せない」

それまで恍惚とした顔だったのが、一瞬で表情がなくなった。

先程までキラキラという擬音が付きそうだった目から光が無くなり、完全に据わっている。



「アンタ……何言って……」



狂気さえ感じる猿渡の執着心に、恐怖を感じていた。
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