14 / 30
14
14
しおりを挟む
しばらくの沈黙の後、堪えきれないとばかりに猿渡が笑い出した。
全裸で。
「あははっ、分かりやすい顔。何言ってんだコイツって書いてある」
「そうだな、何言ってんだこのクズはって思ってる」
さっきまで感じていたコイツの異常さに対する恐怖は、先の発言で一気に吹き飛んだ。
何で俺がコイツと浮気そのものについて論議しなければならないのか。
今、俺の目は死んでいるか据わっているかだと思う……おそらく前者だ。
「キミ、段々俺に対して遠慮なくなってきたね……初めて会った時はそれなりに可愛げがあったのに」
初めて鬼頭から猿渡を紹介された時はコイツの浮気癖を知らなかったので、純粋に鬼頭とお似合いだと微笑ましい気持ちでいたのだ。
だから三人で過ごした事だってあったし、猿渡の過剰なスキンシップだって友達として受入れていた。
実際にはあっちは俺を友達だとは思ってなかったし、俺も散々見せられた浮気のせいで猿渡を受付なくなっていった訳だけど。
「アンタに可愛いって思われてもちっとも嬉しくねーよ。
ほんとに、その下半身のゆるさが全部を台無しにしてんだけど」
呆れて溜息混じりに呟いた言葉は、理解できないとばかりに首を傾げられた。
「何で結月以外の人としただけで浮気になるの?」
「は?」
さっきからコイツが言う事がほとんど分からないんだが。
恋人以外と身体の関係を持つのは紛う事なく『浮気』だろう。
え、俺のその考えが異常なのか?
猿渡があまりにも堂々と聞いてくるから、こっちがおかしいんじゃないかと思えてきた。
思わず首を傾げて間の抜けた声を漏らしてしまう。
「俺はね、誰と居ても、何をしていても結月の事だけを考えてるし想ってるんだよ。
………だからね、結月にもそうあって欲しいんだよねぇ」
「支離滅裂してねぇか?」
「してないよ。俺と離れてる時でも結月に俺の事を想って貰うなら、嫉妬とか独占欲を掻き立てる事が1番じゃない?」
「だから……他の奴と浮気してるって言うのか?」
「キミにとっては浮気でも、俺にとってはただの手段だよ。
身体だけの繋がりを俺は『浮気』だとは思わない……浮気ってさ、恋人以外の誰かを好きになる事だと思うんだよねぇ」
「そうじゃないから鬼頭以外の奴を抱いても平気だって言いてぇのか?」
「そういう事」
「おい、まさか俺にそういう場面を何度も見せてきてんのはワザとなのか?」
「そうだよ。桃クンの言葉なら絶対に結月は信じるからね。
キミから俺が結月以外の人と仲良くしてる事を話してくれたら、それだけで結月の頭の中は不安とか、独占欲とかで俺の事でいっぱいになるでしょ?」
頭がこんがらがってきた。
鬼頭だけを想っているなら、他の奴を抱いても浮気にはならないのか?
いやいや、それはない。
コイツがあまりにも堂々と言うもんだから流されそうになったけど、おかしいだろ。
鬼頭だけを好きならそもそも他の奴と身体の関係を持とうだなんて思わないし、他の奴と身体の関係を持つにしたって理由が異常過ぎる。
鬼頭に自分の事だけを考えて欲しいからわざと離れる時間を作ってるって事だろ?
しかもその時間に他人を抱いて、更にそれを俺に見せつけて、俺から鬼頭に伝えさせて嫉妬心と独占欲を煽るなんて……歪んでる。
コイツが性欲おばけで何人もそういう相手が要ると言われた方がまだ納得できた。
理解はできないけど、歪んではいない理由の方が何倍もマシだったのに。
「普通に傍に居てやればいいじゃねーか。何でそんな傷付けるやり方すんだよ」
「桃クンが何を言っても、結月は俺を信じるって言ったんでしょ?それは傷付いてるとは言わないんじゃないのかな」
「信じてるからって傷付かないワケじゃないだろ」
現に、鬼頭は傷付いて泣いたのだ。
あんなに傷付いた鬼頭の顔、1年以上友達として付き合って初めて見た。
「その傷を付けたのが俺なら、それはそれで嬉しいなぁ」
「は?」
頬を染めて恍惚とした顔でうっとりと話す王子様に、再び寒気が走り、またしても間抜けな声が漏れてしまう。
歪みに歪んだ王子様は、俺の戸惑いなど置いてけぼりにして話し続ける。
「結月にはね、俺だけでいいんだよ。
好意も嫌悪も、結月の全部は俺にだけ向いてるべきなの」
「友達とかいらないのに………なのに、キミだけは結月の中から出ていかない」
「【桃乃衣 陽斗】だけが、俺の結月の中に居続けてる。
俺はそれが許せない」
それまで恍惚とした顔だったのが、一瞬で表情がなくなった。
先程までキラキラという擬音が付きそうだった目から光が無くなり、完全に据わっている。
「アンタ……何言って……」
狂気さえ感じる猿渡の執着心に、恐怖を感じていた。
全裸で。
「あははっ、分かりやすい顔。何言ってんだコイツって書いてある」
「そうだな、何言ってんだこのクズはって思ってる」
さっきまで感じていたコイツの異常さに対する恐怖は、先の発言で一気に吹き飛んだ。
何で俺がコイツと浮気そのものについて論議しなければならないのか。
今、俺の目は死んでいるか据わっているかだと思う……おそらく前者だ。
「キミ、段々俺に対して遠慮なくなってきたね……初めて会った時はそれなりに可愛げがあったのに」
初めて鬼頭から猿渡を紹介された時はコイツの浮気癖を知らなかったので、純粋に鬼頭とお似合いだと微笑ましい気持ちでいたのだ。
だから三人で過ごした事だってあったし、猿渡の過剰なスキンシップだって友達として受入れていた。
実際にはあっちは俺を友達だとは思ってなかったし、俺も散々見せられた浮気のせいで猿渡を受付なくなっていった訳だけど。
「アンタに可愛いって思われてもちっとも嬉しくねーよ。
ほんとに、その下半身のゆるさが全部を台無しにしてんだけど」
呆れて溜息混じりに呟いた言葉は、理解できないとばかりに首を傾げられた。
「何で結月以外の人としただけで浮気になるの?」
「は?」
さっきからコイツが言う事がほとんど分からないんだが。
恋人以外と身体の関係を持つのは紛う事なく『浮気』だろう。
え、俺のその考えが異常なのか?
猿渡があまりにも堂々と聞いてくるから、こっちがおかしいんじゃないかと思えてきた。
思わず首を傾げて間の抜けた声を漏らしてしまう。
「俺はね、誰と居ても、何をしていても結月の事だけを考えてるし想ってるんだよ。
………だからね、結月にもそうあって欲しいんだよねぇ」
「支離滅裂してねぇか?」
「してないよ。俺と離れてる時でも結月に俺の事を想って貰うなら、嫉妬とか独占欲を掻き立てる事が1番じゃない?」
「だから……他の奴と浮気してるって言うのか?」
「キミにとっては浮気でも、俺にとってはただの手段だよ。
身体だけの繋がりを俺は『浮気』だとは思わない……浮気ってさ、恋人以外の誰かを好きになる事だと思うんだよねぇ」
「そうじゃないから鬼頭以外の奴を抱いても平気だって言いてぇのか?」
「そういう事」
「おい、まさか俺にそういう場面を何度も見せてきてんのはワザとなのか?」
「そうだよ。桃クンの言葉なら絶対に結月は信じるからね。
キミから俺が結月以外の人と仲良くしてる事を話してくれたら、それだけで結月の頭の中は不安とか、独占欲とかで俺の事でいっぱいになるでしょ?」
頭がこんがらがってきた。
鬼頭だけを想っているなら、他の奴を抱いても浮気にはならないのか?
いやいや、それはない。
コイツがあまりにも堂々と言うもんだから流されそうになったけど、おかしいだろ。
鬼頭だけを好きならそもそも他の奴と身体の関係を持とうだなんて思わないし、他の奴と身体の関係を持つにしたって理由が異常過ぎる。
鬼頭に自分の事だけを考えて欲しいからわざと離れる時間を作ってるって事だろ?
しかもその時間に他人を抱いて、更にそれを俺に見せつけて、俺から鬼頭に伝えさせて嫉妬心と独占欲を煽るなんて……歪んでる。
コイツが性欲おばけで何人もそういう相手が要ると言われた方がまだ納得できた。
理解はできないけど、歪んではいない理由の方が何倍もマシだったのに。
「普通に傍に居てやればいいじゃねーか。何でそんな傷付けるやり方すんだよ」
「桃クンが何を言っても、結月は俺を信じるって言ったんでしょ?それは傷付いてるとは言わないんじゃないのかな」
「信じてるからって傷付かないワケじゃないだろ」
現に、鬼頭は傷付いて泣いたのだ。
あんなに傷付いた鬼頭の顔、1年以上友達として付き合って初めて見た。
「その傷を付けたのが俺なら、それはそれで嬉しいなぁ」
「は?」
頬を染めて恍惚とした顔でうっとりと話す王子様に、再び寒気が走り、またしても間抜けな声が漏れてしまう。
歪みに歪んだ王子様は、俺の戸惑いなど置いてけぼりにして話し続ける。
「結月にはね、俺だけでいいんだよ。
好意も嫌悪も、結月の全部は俺にだけ向いてるべきなの」
「友達とかいらないのに………なのに、キミだけは結月の中から出ていかない」
「【桃乃衣 陽斗】だけが、俺の結月の中に居続けてる。
俺はそれが許せない」
それまで恍惚とした顔だったのが、一瞬で表情がなくなった。
先程までキラキラという擬音が付きそうだった目から光が無くなり、完全に据わっている。
「アンタ……何言って……」
狂気さえ感じる猿渡の執着心に、恐怖を感じていた。
30
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
嫌いなもの
すずかけあおい
BL
高校のときから受けが好きな攻め×恋愛映画嫌いの受け。
吉井は高2のとき、友人宅で恋愛映画を観て感動して大泣きしたことを友人達にばかにされてから、恋愛映画が嫌いになった。弦田はそのとき、吉井をじっと見ていた。
年月が過ぎて27歳、ふたりは同窓会で再会する。
〔攻め〕弦田(つるた)
〔受け〕吉井(よしい)

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

キミの次に愛してる
Motoki
BL
社会人×高校生。
たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。
裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。
姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる