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63. 思い馳せて
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さすがのギドさんも驚いたみたいだった。
世界が回るって、やっぱりどこの世界でも感想は同じだった。僕はそっとギドさんから眼鏡を外してやる。目を瞑って眉間に少し皺を寄せている表情が、何だかカワイイ。大人の男に言う言葉じゃないけど、男らしくて綺麗な顔立ちなのにちょっと子供っぽい感じがしているんだ。初めてのおもちゃに振り回されて拗ねてるみたいな。
僕はクスリと笑ってしまい、その気配にギドさんがチロリと片目を開けた。ありゃりゃ、これは本当に拗ねそうだ。
コホン。今度はハノークさんに声を掛けた。
「ハノークさんも掛けてみます? 世界が回りますよ?」
そして僕達は、ひととき父さんの眼鏡で遊んだのだ。異世界でも父さんの目の悪さは折り紙付きで、この眼鏡の威力はギドさんとハノークさんという、この世界の実力者の目を回す程の物だった。文字通り、本当に目を回させたんだけどね。
遺品と言えば遺品だけど、大切なんだけど、本当に大切な物だけど、僕は今、この価値や思いを誰かと共有したかった。ここには母さんもお爺さんも、啓介も留美もいない。
ココには僕以外父さんの事を知る人がいないから、他の人に知って貰いたかった。例えそれが『眼鏡』や『腕時計』という無機質な物であってもだ。
「ハルカ殿、これは何だ?」
最後に残った『手帳』に目を向けて、ギドさんが聞いてきた。
黒い革表紙の手帳。胸ポケットに入る会社のロゴが入った、父さんの手帳だ。
「これは、手帳です。仕事用の計画とか、気付いたこととか、色々と書けて持ち歩きができる物です」
「つまりは、そこにお父上の文字が書いてあるということか。差支えが無ければ、どのような事が書いてあるのか教えて下さるか?」
仕事用の手帳だから、僕が見ても判るかどうか……まあ、読めるだろうけど。
「あまり面白いことは書いてないと思いますよ。仕事用だから」
そう答えて僕は手帳を開いた。
よくある手帳だ。最初にカレンダーがあって、その後には日付ごとに書き込めるページがあった。
几帳面な父さんの四角い字が、細かく書き込まれていた。懐かしい父さんの字だ。
「ここら辺は、細かくスケジュール、ええと計画が書かれていますね。この日は偉い人が見学に来るみたいです。ああ、この日は食事会があったみたいですよ」
僕の知らない父さんの日常が記されていた。仕事の予定だけじゃなく、プライベートの事も混じって書かれていてそれがとても新鮮だった。
ところどころに英語や、多分現地の言葉も混じって書かれていた。この手帳を見ただけでも、父さんが忙しそうにしていたのが判る。僕が見れなかった父さんの姿が浮かび上がる。
手帳を見ながら、僕は10年前の父さんを想像している。書かれた文字を、文章を読みながらハノークさんとギドさんに説明していると、何だか僕は実際に見てきたような気持になってくる。不思議な感覚だ。
ページが終わり近くになった時、その文字が僕の目に飛び込んできた。
『20○○年完成! 遥、一緒に見るぞ!』
そこに書かれた年号は今年だった。
あの事故の10年後に、父さんの携わっていた事業は完成するはずだったんだ。
僕は残念ながら、海外での父さんの仕事を見たことは無かった。大きな事業に世界中を飛び回っていたと聞いていたけど、何となく母さんには聞けなくなっていた。
それでも、事故の事があってその国の事業の事だけはしっかりと覚えていた。
そのページには2枚の写真が挟まっていた。
1枚は、CGで描かれた大きなダム。白くて大きなダムは、満タンになった青い湖を背負って描かれていた。
そして、もう一枚は……
「ああ、これは……」
僕は目頭が熱くなった。
「父さんと母さん。そして僕の写真です」
僕が父さんの膝に抱かれ、母さんが嬉しそうに寄り添う家族の写真だった。
世界が回るって、やっぱりどこの世界でも感想は同じだった。僕はそっとギドさんから眼鏡を外してやる。目を瞑って眉間に少し皺を寄せている表情が、何だかカワイイ。大人の男に言う言葉じゃないけど、男らしくて綺麗な顔立ちなのにちょっと子供っぽい感じがしているんだ。初めてのおもちゃに振り回されて拗ねてるみたいな。
僕はクスリと笑ってしまい、その気配にギドさんがチロリと片目を開けた。ありゃりゃ、これは本当に拗ねそうだ。
コホン。今度はハノークさんに声を掛けた。
「ハノークさんも掛けてみます? 世界が回りますよ?」
そして僕達は、ひととき父さんの眼鏡で遊んだのだ。異世界でも父さんの目の悪さは折り紙付きで、この眼鏡の威力はギドさんとハノークさんという、この世界の実力者の目を回す程の物だった。文字通り、本当に目を回させたんだけどね。
遺品と言えば遺品だけど、大切なんだけど、本当に大切な物だけど、僕は今、この価値や思いを誰かと共有したかった。ここには母さんもお爺さんも、啓介も留美もいない。
ココには僕以外父さんの事を知る人がいないから、他の人に知って貰いたかった。例えそれが『眼鏡』や『腕時計』という無機質な物であってもだ。
「ハルカ殿、これは何だ?」
最後に残った『手帳』に目を向けて、ギドさんが聞いてきた。
黒い革表紙の手帳。胸ポケットに入る会社のロゴが入った、父さんの手帳だ。
「これは、手帳です。仕事用の計画とか、気付いたこととか、色々と書けて持ち歩きができる物です」
「つまりは、そこにお父上の文字が書いてあるということか。差支えが無ければ、どのような事が書いてあるのか教えて下さるか?」
仕事用の手帳だから、僕が見ても判るかどうか……まあ、読めるだろうけど。
「あまり面白いことは書いてないと思いますよ。仕事用だから」
そう答えて僕は手帳を開いた。
よくある手帳だ。最初にカレンダーがあって、その後には日付ごとに書き込めるページがあった。
几帳面な父さんの四角い字が、細かく書き込まれていた。懐かしい父さんの字だ。
「ここら辺は、細かくスケジュール、ええと計画が書かれていますね。この日は偉い人が見学に来るみたいです。ああ、この日は食事会があったみたいですよ」
僕の知らない父さんの日常が記されていた。仕事の予定だけじゃなく、プライベートの事も混じって書かれていてそれがとても新鮮だった。
ところどころに英語や、多分現地の言葉も混じって書かれていた。この手帳を見ただけでも、父さんが忙しそうにしていたのが判る。僕が見れなかった父さんの姿が浮かび上がる。
手帳を見ながら、僕は10年前の父さんを想像している。書かれた文字を、文章を読みながらハノークさんとギドさんに説明していると、何だか僕は実際に見てきたような気持になってくる。不思議な感覚だ。
ページが終わり近くになった時、その文字が僕の目に飛び込んできた。
『20○○年完成! 遥、一緒に見るぞ!』
そこに書かれた年号は今年だった。
あの事故の10年後に、父さんの携わっていた事業は完成するはずだったんだ。
僕は残念ながら、海外での父さんの仕事を見たことは無かった。大きな事業に世界中を飛び回っていたと聞いていたけど、何となく母さんには聞けなくなっていた。
それでも、事故の事があってその国の事業の事だけはしっかりと覚えていた。
そのページには2枚の写真が挟まっていた。
1枚は、CGで描かれた大きなダム。白くて大きなダムは、満タンになった青い湖を背負って描かれていた。
そして、もう一枚は……
「ああ、これは……」
僕は目頭が熱くなった。
「父さんと母さん。そして僕の写真です」
僕が父さんの膝に抱かれ、母さんが嬉しそうに寄り添う家族の写真だった。
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