42 / 81
42. 会えない理由
しおりを挟む
来ない。
まだ来ない。
ハノークさんと別れてから5日目になった。そう僕がこの世界に召喚されてから、既に1週間以上経ったことになる。
僕は議長さんのお屋敷で、それこそ真綿に包まれるみたいな生活をしていた。ただ、議長さんも相当忙しい人なのか、目が覚めた時に会ってから全然会えていない。
ミルク粥から始まった食事も、今は普通の物も食べられるようになったと思う。因みに、この世界の食事ってとにかく種類が出る。オードブルみたいな物から魚や肉、スープとかコース料理みたいな感じだけど、それらは全て大きな皿に綺麗に盛り付けられて出てくる。それらから自分の食べられる量を給仕して貰うらしいけど……
「ああ、あの、その位でいいです」
僕は食事の時に何度もこの言葉を繰り返す。さすがに毎回、料理の種類ごとに言うのも疲れる。いや、気を使って貰っていることは十分承知しているのだけど。
さすがに香辛料の効いた羊肉とか、酸っぱ過ぎるヨーグルトサラダ? とか慣れない物もあった。料理としてはトルコ料理に近いのかなぁ。
まあとにかく食事に関しては、執事さんに聞かれた通り好みや量の事を伝えてから大分助かるようになった。
美味しいんだよ。美味しいんだけど、まだ慣れない。
そんなこんなで、僕の体調はすっかり元通りになった。と、思う。立ち上がっても、この広い屋敷の中を歩いてもふらつくことは無くなった。寧ろ、今までの人生でこんなに寝たり食べたりするだけの生活って無かった。インフルエンザで寝込んだ時だってこんなじゃなかった。
そして、僕の頭がクリアになって身体の調子が良くなってくると、同時に浮かんできたのは……
置いて来てしまったハノークさんの事だった。
今、僕がこうして四阿で爽やかな風を感じていられるのも、神殿のあの部屋から出られたからだ。ハノークさんに後始末を無理やり頼んで逃げたからだ。
もう何日も経っているのに、一向にこの屋敷には来てくれない。来られない事情があるのか。
それとも、もう僕のことなんてどうでも良いのか……
(そんな……)
僕の心臓がキリリと締め付けられた。もしかしたら、捨てられたのか? ハノークさんに?
「どうした、ハルカ殿」
僕の正面にいたギドさんだ。僕が固まっていたのに気付いたんだ。聞いても良いのだろうか。何となく聞きにくい雰囲気があって、ずっと教えてくれるのを待っていたけど。
僕は意を決して口を開いた。
「あの……ハノークさんはいつ来れるんですか?」
「……」
「何か不味いことになっているとか?」
「そんなことは無い」
「でも、もう何日もハノークさんには会ってないです。もしかして、もうここには来ないんですか?」
そこまで言って、僕は唇を噛んだ。捨てられたのかって……言いそうになったけど、言えなかった。
言うのが怖かった。
「まだ来れないだけだ。神殿には神殿の決まりがあるのだろう」
「そう、ですか」
僕がここにいるのに、僕と離れて何があるの? 僕を護るのはハノークさんとギドさんの2人だって言ってなかったっけ?
「ギドさん。僕は、ハノークさんに捨てられたのかな」
怖いけど、怖いけど口に出してみた。ああ、思ったより心臓にダメージが来た。ズキリと胸が痛む。
「そんな訳があるか。ハノーク殿が、ハルカ殿を捨てるなどある訳がない!」
「……本当?」
はっきりと言い放つギドさんの力強い返事。少しだけホッとする僕がいた。
じゃあ、じゃあ何でこんなに時間が掛かるんだ? 脱水で死にそうになって、錯乱して自殺未遂を起こして、議長さんに部屋から出たいと縋って……実際逃げて来た。
僕のせいか。
僕のせいで、ココに来れない?
ゾワリと背筋が震えた。もしかして、ハノークさんは来たくても来れなくなってないか?
僕の、せいで?
まさか、まさか、まさか。
嫌な予感が僕を包んだ。そうだよ、宗教の総元締めの神殿だ。厳しい戒律とか罰則があるんじゃないのか? 神殿側から見たら、一番傍にいたのに目の前で死なれそうになったげく、みすみす神殿から逃がしたんだ。職務怠慢とか失敗とか、不手際とか、裏切りとか……立派な背信行為と思われるんじゃないか。
「ハノークは、神殿で更迭されている」
突然後ろから声がした。
「議長さん!? なっ、どういうことですか! ハノークさんが更迭って!?」
嫌な予感は的中した。
まだ来ない。
ハノークさんと別れてから5日目になった。そう僕がこの世界に召喚されてから、既に1週間以上経ったことになる。
僕は議長さんのお屋敷で、それこそ真綿に包まれるみたいな生活をしていた。ただ、議長さんも相当忙しい人なのか、目が覚めた時に会ってから全然会えていない。
ミルク粥から始まった食事も、今は普通の物も食べられるようになったと思う。因みに、この世界の食事ってとにかく種類が出る。オードブルみたいな物から魚や肉、スープとかコース料理みたいな感じだけど、それらは全て大きな皿に綺麗に盛り付けられて出てくる。それらから自分の食べられる量を給仕して貰うらしいけど……
「ああ、あの、その位でいいです」
僕は食事の時に何度もこの言葉を繰り返す。さすがに毎回、料理の種類ごとに言うのも疲れる。いや、気を使って貰っていることは十分承知しているのだけど。
さすがに香辛料の効いた羊肉とか、酸っぱ過ぎるヨーグルトサラダ? とか慣れない物もあった。料理としてはトルコ料理に近いのかなぁ。
まあとにかく食事に関しては、執事さんに聞かれた通り好みや量の事を伝えてから大分助かるようになった。
美味しいんだよ。美味しいんだけど、まだ慣れない。
そんなこんなで、僕の体調はすっかり元通りになった。と、思う。立ち上がっても、この広い屋敷の中を歩いてもふらつくことは無くなった。寧ろ、今までの人生でこんなに寝たり食べたりするだけの生活って無かった。インフルエンザで寝込んだ時だってこんなじゃなかった。
そして、僕の頭がクリアになって身体の調子が良くなってくると、同時に浮かんできたのは……
置いて来てしまったハノークさんの事だった。
今、僕がこうして四阿で爽やかな風を感じていられるのも、神殿のあの部屋から出られたからだ。ハノークさんに後始末を無理やり頼んで逃げたからだ。
もう何日も経っているのに、一向にこの屋敷には来てくれない。来られない事情があるのか。
それとも、もう僕のことなんてどうでも良いのか……
(そんな……)
僕の心臓がキリリと締め付けられた。もしかしたら、捨てられたのか? ハノークさんに?
「どうした、ハルカ殿」
僕の正面にいたギドさんだ。僕が固まっていたのに気付いたんだ。聞いても良いのだろうか。何となく聞きにくい雰囲気があって、ずっと教えてくれるのを待っていたけど。
僕は意を決して口を開いた。
「あの……ハノークさんはいつ来れるんですか?」
「……」
「何か不味いことになっているとか?」
「そんなことは無い」
「でも、もう何日もハノークさんには会ってないです。もしかして、もうここには来ないんですか?」
そこまで言って、僕は唇を噛んだ。捨てられたのかって……言いそうになったけど、言えなかった。
言うのが怖かった。
「まだ来れないだけだ。神殿には神殿の決まりがあるのだろう」
「そう、ですか」
僕がここにいるのに、僕と離れて何があるの? 僕を護るのはハノークさんとギドさんの2人だって言ってなかったっけ?
「ギドさん。僕は、ハノークさんに捨てられたのかな」
怖いけど、怖いけど口に出してみた。ああ、思ったより心臓にダメージが来た。ズキリと胸が痛む。
「そんな訳があるか。ハノーク殿が、ハルカ殿を捨てるなどある訳がない!」
「……本当?」
はっきりと言い放つギドさんの力強い返事。少しだけホッとする僕がいた。
じゃあ、じゃあ何でこんなに時間が掛かるんだ? 脱水で死にそうになって、錯乱して自殺未遂を起こして、議長さんに部屋から出たいと縋って……実際逃げて来た。
僕のせいか。
僕のせいで、ココに来れない?
ゾワリと背筋が震えた。もしかして、ハノークさんは来たくても来れなくなってないか?
僕の、せいで?
まさか、まさか、まさか。
嫌な予感が僕を包んだ。そうだよ、宗教の総元締めの神殿だ。厳しい戒律とか罰則があるんじゃないのか? 神殿側から見たら、一番傍にいたのに目の前で死なれそうになったげく、みすみす神殿から逃がしたんだ。職務怠慢とか失敗とか、不手際とか、裏切りとか……立派な背信行為と思われるんじゃないか。
「ハノークは、神殿で更迭されている」
突然後ろから声がした。
「議長さん!? なっ、どういうことですか! ハノークさんが更迭って!?」
嫌な予感は的中した。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
Crimson Light~最強シンデレラと百戦錬磨の敬語的なイケメン副社長~
Pink Diamond
恋愛
【Club Versailles Series Ⅱ】
ある日、元人気ボーカリストのイケメン副社長 円行寺彰は
ある事がキッカケで、最強シンデレラの星野恵と運命的な出逢いを果たしたが、
恵はなんと……国宝級のバカ子だった!
敬語の長髪イケメン彰と小さな最強シンデレラ恵の愉快な恋物語。
この作品はClubベルサイユシリーズの第二弾となっておりますが、
お話の内容はシリーズ毎に登場人物や世界観など、全てが完全に独立したストーリーになっているので
『Crimson Light』単体でも、全く普通に読む事が出来ると思います。どうかご安心下さいませ。
お気に入り登録してくれた読者様、ありがとうございました。
※
この作品は完全なフィクションです。
Crimson Lightの世界に登場する人物や団体名などは
全て架空の物でございます。そして未成年の飲酒や喫煙などは法律上禁止されています。
【完結】星影の瞳に映る
只深
BL
高校三年生の夏。
僕たちは出会って一年を迎えた。
夏の大会に向けて腕を上げたいと言う、キラキライケメンヤンチャ系の『星 光(ほし ひかる)』と熟練した技を持ち、精神的にに早熟しながらもふわふわフラフラした性格で陰キャの『影 更夜(かげ こうや)』。
青春の時を過ごしながら、お互いの恋に気づき卒業前に思いを遂げるが、卒業とともに距離が離れて…。
高校生の人としておぼつかない時期の恋愛から大人になって、なおも激しく燃え上がる恋心の行方は…。
一日で書き上げたストーリーです。
何も考えず本能のままの青くさい物語をお楽しみください!
この小説は小説家になろう、アルファポリスに掲載しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
食欲と快楽に流される僕が毎夜幼馴染くんによしよし甘やかされる
八
BL
食べ物やインキュバスの誘惑に釣られるお馬鹿がなんやかんや学園の事件に巻き込まれながら結局優しい幼馴染によしよし甘やかされる話。
□食い意地お馬鹿主人公受け、溺愛甘やかし幼馴染攻め(メイン)
□一途健気不良受け、執着先輩攻め(脇カプ)
pixivにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる