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42. 会えない理由

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 来ない。

 まだ来ない。

 ハノークさんと別れてから5日目になった。そう僕がこの世界に召喚されてから、既に1週間以上経ったことになる。



 僕は議長さんのお屋敷で、それこそ真綿に包まれるみたいな生活をしていた。ただ、議長さんも相当忙しい人なのか、目が覚めた時に会ってから全然会えていない。

 ミルク粥から始まった食事も、今は普通の物も食べられるようになったと思う。因みに、この世界の食事ってとにかく種類が出る。オードブルみたいな物から魚や肉、スープとかコース料理みたいな感じだけど、それらは全て大きな皿に綺麗に盛り付けられて出てくる。それらから自分の食べられる量を給仕して貰うらしいけど……

「ああ、あの、その位でいいです」

 僕は食事の時に何度もこの言葉を繰り返す。さすがに毎回、料理の種類ごとに言うのも疲れる。いや、気を使って貰っていることは十分承知しているのだけど。
 さすがに香辛料の効いた羊肉とか、酸っぱ過ぎるヨーグルトサラダ? とか慣れない物もあった。料理としてはトルコ料理に近いのかなぁ。
 まあとにかく食事に関しては、執事さんに聞かれた通り好みや量の事を伝えてから大分助かるようになった。
 美味しいんだよ。美味しいんだけど、まだ慣れない。


 そんなこんなで、僕の体調はすっかり元通りになった。と、思う。立ち上がっても、この広い屋敷の中を歩いてもふらつくことは無くなった。寧ろ、今までの人生でこんなに寝たり食べたりするだけの生活って無かった。インフルエンザで寝込んだ時だってこんなじゃなかった。


 そして、僕の頭がクリアになって身体の調子が良くなってくると、同時に浮かんできたのは……

 ハノークさんの事だった。
 今、僕がこうして四阿あずまやで爽やかな風を感じていられるのも、神殿のあの部屋から出られたからだ。ハノークさんに後始末を無理やり頼んで逃げたからだ。

 もう何日も経っているのに、一向にこの屋敷には来てくれない。来られない事情があるのか。
 
 それとも、もう僕のことなんてどうでも良いのか……

(そんな……)

 僕の心臓がキリリと締め付けられた。もしかしたら、捨てられたのか? ハノークさんに?


「どうした、ハルカ殿」

 僕の正面にいたギドさんだ。僕が固まっていたのに気付いたんだ。聞いても良いのだろうか。何となく聞きにくい雰囲気があって、ずっと教えてくれるのを待っていたけど。
 僕は意を決して口を開いた。

「あの……ハノークさんはいつ来れるんですか?」
「……」
「何か不味いことになっているとか?」
「そんなことは無い」
「でも、もう何日もハノークさんには会ってないです。もしかして、もうここには来ないんですか?」

 そこまで言って、僕は唇を噛んだ。捨てられたのかって……言いそうになったけど、言えなかった。

 言うのが怖かった。

「まだ来れないだけだ。神殿には神殿の決まりがあるのだろう」
「そう、ですか」

 僕がここにいるのに、僕と離れて何があるの? 僕を護るのはハノークさんとギドさんの2人だって言ってなかったっけ?

「ギドさん。僕は、ハノークさんに捨てられたのかな」

 怖いけど、怖いけど口に出してみた。ああ、思ったより心臓にダメージが来た。ズキリと胸が痛む。

「そんな訳があるか。ハノーク殿が、ハルカ殿を捨てるなどある訳がない!」
「……本当?」

 はっきりと言い放つギドさんの力強い返事。少しだけホッとする僕がいた。

 じゃあ、じゃあ何でこんなに時間が掛かるんだ? 脱水で死にそうになって、錯乱して自殺未遂を起こして、議長さんに部屋から出たいと縋って……実際逃げて来た。


 僕のせいか。


 僕のせいで、ココに来れない?

 ゾワリと背筋が震えた。もしかして、ハノークさんは来たくても来れなくなってないか?

 僕の、せいで?

 まさか、まさか、まさか。

 嫌な予感が僕を包んだ。そうだよ、宗教の総元締めの神殿だ。厳しい戒律とか罰則があるんじゃないのか? 神殿側から見たら、一番傍にいたのに目の前で死なれそうになったげく、みすみす神殿から逃がしたんだ。職務怠慢とか失敗とか、不手際とか、裏切りとか……立派な背信行為と思われるんじゃないか。


「ハノークは、神殿で更迭されている」

 突然後ろから声がした。

「議長さん!? なっ、どういうことですか! ハノークさんが更迭って!?」

 

 嫌な予感は的中した。



 
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