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番外編 2. 私と彼女 -レイシルー
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薄茶の髪が美しく結い上げられていた。白い首筋に、柔らかな後れ毛が揺れている。
ベランダの白い籐製の椅子に、背筋を伸ばして座っているその姿は、まるで硝子の操り人形の様に危なげに見える。
声に出して、呼び掛けてもいいのだろうか。
近づいて、肩に触れてもいいのだろうか。
ほんの少し、ほんの少しだけ躊躇した。
その人はふらりと立ち上がると、天から吊られた様にフワフワした足取りでバルコニーに手を掛けた。
(母上……)
余りに現実離れしたその光景に、声が出るのが遅れた。
手を伸ばそうと、駆け寄ろうとした次の瞬間。
ふわりと淡い藤色のドレスが翻って、
消えた。
さっきまでそこにいたのに! バルコニーには人のいた気配が無くなった。
「母上!!」
声にならない声で呼んだけれど……声を掛けられた人の姿は見えなかった。
「……様、レイシル様?」
近くで呼ぶ声がする。遠慮がちに聞こえる、耳障りの良い柔らかなソプラノ。
「良かった。目が覚めまして?」
魔法科学省の執務室。
結構な広さを貰っているが、括りつけの大きな書庫のお陰で威圧感が凄いと言われている。あちこちに魔道具や、書庫に入りきらない書物がうず高く積まれていた。
どうやら真ん中に置いてあるソファで、うたた寝をしていたようだ。ソファから上半身を起こして軽く頭を振る。久し振りにアノ夢を見た。
「どうぞ? 目が覚めますわ」
彼女がバスケットからポットを出し、コポコポとカップに注ぐ。爽やかなミントやレモンの香りが頭を刺激してくれる。
「ああ、ありがとう」
カップを受け取って香りを味わい、湯気の立つハーブティーをそっと口に含んだ。
「美味しい……」
心から染み出た言葉だった。仄かな刺激が、舌から、鼻から感覚を覚醒させてくれる。
「そうですか。それなら良かったです」
瞳を細めてにっこりと微笑む。愛らしい唇が柔らかく弧を描いて、お替わりは如何ですか? と聞いてくれる。
それ以外は何も聞かない。多分、ただ寝入っている風ではなかったはずだ。うなされていたのかもしれないし、何か言っていたのかもしれない。
何故なら……あの夢は……
母の最期の瞬間。その時の光景だったのだから。
母の事は公には事故とされている。でも、本当は違う。本当の死因は夢に見た通りで、俺が11歳の時の事だ。母は自ら空を飛んだ。
「レイシル様? 寝ていないのではないですか? ここ最近ずっとお忙しいのでしょう? 仮眠をするならちゃんとベッドで寝ないと駄目です。疲れが取れませんよ! そんなにお疲れなら、今日の実技の講座は止めませんか?」
結構強い口調だな。母上が生きていたら、こんな感じで叱ってくれるのだろうか? ふとそんな事を考えて、思わず可笑しくなってしまった。
母と彼女は重ならない。全く似ている処は無い。でも、何で今そんな事を思い出したのだろう。
「判っているんだけどね。つい新しい術式を思いついて、少しだけのつもりで書き始めたら、止まらなくなった。講義は大丈夫。お茶を飲み終わったら始めよう」
心配させない様に姿勢を正すと、ゆっくりとお替わりのお茶を飲む。
「新しい術式……ですか。この前もそう言っていました。レイシル様の頭の中は一体どうなっているのでしょう? 一度よく見てみたいものですわ」
少し呆れた様にそう言うと、散らかっている術式の書かれた紙を手に取った。小首を傾げてじっと見ているその姿が、小鳥の様でとても愛らしい。
思わずその姿に、肩に、髪に触れたくなって手を伸ばし掛けた……
「あら? ここ! スペルが違っていません? aではなくてeではありませんか?」
勢い良くこちらに振り向いて、俺の鼻先に紙を突き付けた。
「……ああ、本当だ。良く判ったな?」
「うふふ。良かったですね? これで術式が完成しますわよ?」
さっきまでの小鳥の愛らしさが、ドヤ顔の鳩になった。可愛いのは可愛いが、そのドヤ顔はちょっと、何と言うか、
「随分得意そうじゃないか? それなら君に校正係になってもらおう。助かったよ。優秀な校正係が身近なところで見つかって。ああ、良かった良かった」
つい意地悪というか、揶揄いたくなる。いや構いたくなるか?
彼女は真ん丸に目を見開くと、シマッタとばかりに左右に視線を揺らして、直ぐに眉を下げた。
「レイシル様は意地悪です。直ぐにそう言う事をおっしゃって、私が困るのを楽しんでいますのね?」
本気で虐めたい訳でも無いけど、結局素直な彼女は本気にとってしまう。まあ、困っている顔を見るのも二人でいる時の特権だ。
「意地悪じゃない。本気でそう言っているのに。心外だな。俺は君に、どんな意地悪男だと思われているんだ。そんな酷い男だと思われているなんて、俺は悲しいよ」
「うっ!」
「いいんだ。きっと俺はそう言う人間なんだ……」
反論したいけど、いい言葉を思いつかないのか彼女は唇をギザギザに結んでいる。うっすらと目元も潤んでいる様に見える。これ以上は止めた方がいいだろう。泣かしたくて絡んだわけでは無いのだから。
「ごめん。からかい過ぎたな」
深々と頭を下げて謝ると、頭の上からクスリと笑い声が聞こえた。良かった。怒ってもいないし、機嫌が悪くなった風でもなさそうだ。
顔を上げると、春の日差しの様な微笑みがあった。俺にとってはハーブティーよりも、ずっとリラックスできる特効薬だ。
彼女の光の魔法術は、日々の鍛錬もあって随分と上達した。
特に、セドリック殿への治療魔法は驚く程の効果を上げた。半年は療養を必要とし、更に後遺症も残る可能性があると言われていたのが、2ヶ月余りで完治したのだから。
そこで、彼女には幾つかある光の識別の魔力から「治療の魔法」を重点的に鍛錬することにした。彼女の性格とも一番相性が良いと感じたからだ。
彼女にとって、セドリック殿は特別。それに、セドリック殿にとってもそうだったんだと思う。彼女が意識の底に潜り込んだ時も、彼が彼女を引き上げるきっかけとなってくれた。
正直、彼女を奥底まで追いやってしまったのは……
俺だ。俺のサルベージが失敗して、彼女を追いこんでしまった。
思い合う心の重要性が、こんなに顕著に表れた例は聞いた事が無かった。
……俺には出来ない事だ。
だって知らない。そんなに思い合う心なんて俺は知らないから。
思われることも、思う事も、
俺は知らない。
彼女は、コレール王国に留まる限り自分で結婚相手を選べる。
コレール王国に忠誠を誓い、光の識別者として生きるならば、婚姻については自由にして良いと国王から言質を取った。まあ、はっきり言って王国が婚約者候補制度の撤廃で迷惑料を払って、自国に囲い込みをした。結局は双方が、ウィンウィンになるように話を着けたというところか。
そのせいで、ダリナスの現王子と元王子、公爵家の息子とか、その他にも彼女の伴侶になりたい輩が湧いて出ている。
まあ、エーリックとシルヴァ殿、セドリック殿のダリナス勢に叶う者などめったにいないだろうけど。
ガーデンパーティーが終わると、本格的な夏が来た。この年は、例年にない長雨が降っていた。
「レイシル様! ルビノ鉱山で大規模な落盤事故が発生しました。現在、自衛団による救出作業を行っていますが、魔法科学省にも応援要請が参りました」
王宮からの援軍要請を受けて、魔法科学省も特務部隊を派遣する事になった。
「ルビノ鉱山か。厄介だな、あそこは国内でも一番古く、今は使っていない坑道も沢山あるはずだ」
状況を聞けば聞く程、被害の大きさが判ってくる。長雨によって鉱山の岩盤が緩み、大規模な地滑りが発生した。そしてその土砂が坑道の中に流れ込み、出入り口を塞いでしまったのだ。
「行方不明者が多数います。はっきりした数は調査中ですが、地上に数十名、地下坑道に200名。300名弱の者が生き埋めになっていると思われます」
過去に無かった大災害だ。
直ぐに、魔法科学省から災害救助の特務部隊を組む。地上と地下の探索と救助の為、土と錬金、鑑定の魔法術に優れた識別者で構成をする。
「移動には泉を使う。一番近い泉がどこか調べろ。各自準備を進めて1時間後に出発する。それからここにいない分署の水魔法識別者に、援軍を移動魔法で送るようにしろ」
省内が緊迫感に包まれていた。普段は静かな省内が嘘の様にバタついている。
「レイシル様!」
執務室で魔道具の準備をしていると、大きな声がした。
「シュゼット? どうした? 今日は講義は無いはずだが」
手を止めずに視線だけ送って尋ねた。
「レイシル様! 事故があったと伺いました! 私も連れて行って下さい! 怪我人が大勢いると聞きました。お願いです! どうかお連れ下さい」
息せき切って走り込んできた彼女は、そう言って魔道具を入れた箱を俺の手から奪った。
「なっ!? 出来る訳ないだろう! 君は魔法科学省の技師でも無い、学生じゃないか。連れてなど行けない」
「確かに魔法科学省の人間ではありません。それに、魔法だって皆さんと比べれば全然及びません。でも、私は光の識別者です! 治療魔法を使えます。怪我している人が大勢いるなら、助けたいです! お願いです。連れて行ってください!」
真剣に訴える彼女は、とても思い付きで言っているようには見えない。
「酷い現場だ。君が今まで見たことも無い惨状だ。すでに死人も出ているかもしれない。いいか? これは実験や講義じゃないんだ。足手纏いになったら、捨てて置く。それでも良いのか?」
「はい!」
真剣な瞳で真っ直ぐに見詰められる。
「判った。それでは行こう。鉱山下にある教会の泉に移動する。来い!」
彼女の手から魔道具の箱を取返し、代わりにその手を繋いで廊下を走った。
現場に移動すると、思っていた以上に酷い惨状に息を飲んだ。しかし、埋もれた人間を探すのは時間との戦いだ。
鑑定と土の魔法術で、埋もれた人間を探しながら土砂を退けて、退けた土砂を錬金で元に戻してゆく。助け出された抗夫達は、大きなテントに担ぎ込まれて、医術院から応援の医師や看護婦によって治療をされるが、如何せん患者の数が多すぎる。彼女をそこに預けると、俺は坑道に向かった。
坑道の中から生き埋めになった人間を探す。具体的には『人』の意識に向かって鑑定の魔法の糸を伸ばし、掠れそうなほど薄くなっている意識を探し出して位置を特定するのだ。その為、扇状に魔力の糸を広げる必要があるので、結構魔力を使う。
「レイシル! 地上は大方片付いた。そっちはどうだ?」
地上部分を指揮していたシルヴァ殿だ。さすが手際が良い。
「もう少しだ。最奥部分にあと10名ほどいる。幸い怪我はしていない様だ。その者達を引き上げれば完了になる」
一昼夜に及ぶ救護活動は、災害規模の割に犠牲者も最小限で済んだと思う。残念ながら、助けが間に合わずに命を落とした者も数人出てしまったが。
「シュゼット……!」
そうだった。思い出した。いや、忘れていた訳では無かったが、救護用テントに放り込んでそのままだった。
「シュゼット!」
テントの垂れ幕を開けて声を掛けた。大きなテントは5つあって、その内4つは怪我人が治療をされて寝ている。残りの一つが犠牲者の安置場とされている。
僅かに残った鑑定で、彼女がどこにいるか調べる。
「……あのテントに?」
彼女の気配は、犠牲者の安置されたテントから感じられたのだ。
「シュゼット……?」
テントの入口に張られた布を、静かに捲って声を掛けた。
彼女はこの事故で犠牲となった者達の傍に佇んでいた。お仕着せの魔法科学省のローブは、土と血で汚れていた。長く艶やかなプラチナブロンドは、邪魔にならない様に一つに結ばれていた。
「レイシル様」
傍によって、肩に手を置いた。震えている様に見えたからだ。
「シュゼット、大丈夫か?」
小さく彼女は頷くが、顔を上げることは無かった。
「随分頑張ってくれた。君のお陰で助かった。ありがとう」
「……」
「シュゼット?」
「……でも、駄目です……」
俯いている足元に、ぽたぽたと涙が零れ落ちた。
「でも、助けられませんでした。苦しかったでしょう。辛かったでしょうに。私の力では助けられませんでした……光の識別者の力って、何なのでしょうか。私の治療魔法では、こんなにも救えない人達がいます……」
光の識別者として初めて臨んだ実践の場は、彼女にとってとても過酷なものだった。命を落とした者の中には、少年抗夫もいた。
「この方は、一緒に働いていたお母様を庇うように埋もれていたそうです。押し流された樹々から護っていたそうです」
マットに寝かされている少年は、魔法のお陰で顔や髪は綺麗にされていた。しかし、汚れた服や靴にこびりついた泥汚れが事故の有様を想像させた。
「そうか……母親は? 無事だったのか?」
そう声を掛けた瞬間に、ばさりと戸口の布が勢いよく捲られた。
「ハリーッ!!」
小柄な女性が転がり込んで来た。髪は乱れ、服も土汚れで酷い有様だ。もしかして……
「ああっっ! ハリーッ! 何て事に! ああぁぁぁ……!!」
それは少年の母親だった。母親は横たわる少年に縋りつくと、頬や額を撫でながら声を枯らして呼び掛けている。目を覚ましてと。頼むから目を開けてくれと。
俺と彼女は少し下がってその様子を見ていた。泣き叫ぶ母親の声に心が詰まる。
「術士様!! どうか、息子を助けて下さい! 息子が生き返るのなら、私の命なんていらないです! 息子の代わりに私の命を使って下さい!」
立ち竦すくむ俺達に気付いた母親が、縋りついて願う。その顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「母君の気持ちは良く判るが、残念だが命を失った彼を蘇らせることは出来ないのだよ。申し訳無いが……」
それだけ言って口を噤んだ。母親が納得できる言葉など今は無い。
「うっつううう。私は息子が居たから生きて来れたのに!! でも、でも、もうこの子がいなくなったら、私も生きていけないよぉ。この子がいないんだったら生きていけないよぉ」
再び泣き崩れる母親に、そうではないと口を開きかけた。が、
「お願いです。そんな事はおっしゃらないで。そんな事を言ってはいけません。だって、息子さんは貴女を助けたかったのですよ? 貴女は息子さんに抱き締められていたではないですか。お母様がそんな事を言っては息子さんが悲しみます」
俺が声を掛ける前に、彼女が母親を抱き締めて言った。
「ごめんなさい。私達がもっと早く見つけていれば、もっと魔法が上手に使えれば助けられたかもしれません。本当に……ごめんなさい」
彼女の閉じた瞳から、再び涙が溢れていた。抱き締められている母親も、少しずつ落ち着いてきたように見える。彼女の癒しの魔法が影響しているのかもしれない。
暫く二人は抱き合っていたが、母親を迎えに来た家族によってようやく離される事となった。
「シュゼット、大丈夫か?」
休憩を兼ねてテントの外に出る。昨日から夜通しで救助を行っていた為、水の一杯も飲んでいない。しょっぱなから過酷な現場経験をさせてしまった。
彼女をテント脇にあった木箱に座らせると、カイルが俺達に気付いてカップを二つ手に近寄って来た。
「どうぞ、滋養のあるお茶です。ゆっくりお飲みください」
カップを受け取って、二人で飲む。熱いお茶は甘くて香辛料の効いたミルク茶だった。
「旨いな。身体が温まる」
「……そうですね……美味しいです」
ほうっと溜息を吐いた彼女が呟いた。
静かな空気が流れる。
少し離れた坑道付近では最後の救出者が地上に出られた様だ。大きな歓声が上がっている。良かった。出来る限りの事はやった。
肩の力がようやく抜けて、少しホッとした。
それと同時に、さっきの光景が頭に浮かんだ。
少年抗夫の母親。その姿を思い出していた。息子の死を知って、自分の事を置いて駆け込んできた。顔も髪も土にまみれていたし、腕の怪我も折れているのかもしれない。添え木が当てられたままだった。きっと、助け出されて治療を受ける前に息子の事を聞いたのだろう。
あんなに泣くなんて。
息子が居たから生きて来れたと、息子が死んだら生きていけないと、代わりに命を差し出すと、そう言って人目も憚らず縋りついて泣いていた。
子がいれば、母親とは生きていける者なのか。
子の為に母親とは生きて行けるのか。
子の代わりに命さえ差し出せるのか。
世の母親とは、そう言う存在なのか……
ふと、頬を伝うモノなみだがあった。
ずっと、心に刺さっていた棘。気付いていたのに、気付かない振りをしていた。
俺は、母上の生きる糧にはなれなかったんだ。
母上にとって、俺は望まぬ相手との子だったからか?……
だから、母上は想い人の死に耐えられず自ら命を絶ったのだ。彼が母上の命の糧だったから?
俺では母を止められなかった。
ずっと、ずっと抱え込んできた。誰にも話せず、気が付かれてもいけないこの気持ち。
「レイシル様……?」
座っていたはずの彼女が、目の前で膝をついて顔を覗きこんでいた。頬を伝う涙に細い指が触れる。少しだけ小首を傾げて、何か言いたそうに口を開き掛けてそっと噤んだ。
「失礼しますね」
彼女が立ち上がるのと同時に、バサリと視界が覆われた。彼女のローブで頭からすっぽりと覆われたのだ。何がどうして、この行動だ?
「大丈夫です。これで誰にも見られませんから」
温かな体温と共に、微かな甘い香りに包まれた。日に透けるロープの陰で、視界は白く淡く再びかすんでくる。ずっと昔にも感じた安心感に包まれる。鼻の奥がツンとした。
思わず、彼女の腰に腕を廻してしまった。びくりと身体が震えたのが判ったが、彼女は振り払う事は無かった。
「レイシル様? 甘えるのは今だけですよ?」
もしかしたら、彼女には鑑定の魔力があるのかもしれない。なんたって、光の識別者の魔力は未知であるから。
「シュゼット、君に聞いて貰いたいことがあるのだが……」
彼女にだけ聞こえる声で話しかける。
「……戻ったら。で、良いですか?」
「うん。戻ったら」
彼女を抱き締める様に腕に力を込めた。
「判りました。それでは早く片付けて帰りましょう!」
名残惜しいけど、腕を離して彼女と離れる。
パサリとローブが翻って辺りがはっきりとした色彩を取り戻した。
「さあ、行きましょう!」
彼女は零れる様な笑顔でそう言った。
そして、この数年後、
私達はセレニアの丘で海を見ることが出来たのだった。
ベランダの白い籐製の椅子に、背筋を伸ばして座っているその姿は、まるで硝子の操り人形の様に危なげに見える。
声に出して、呼び掛けてもいいのだろうか。
近づいて、肩に触れてもいいのだろうか。
ほんの少し、ほんの少しだけ躊躇した。
その人はふらりと立ち上がると、天から吊られた様にフワフワした足取りでバルコニーに手を掛けた。
(母上……)
余りに現実離れしたその光景に、声が出るのが遅れた。
手を伸ばそうと、駆け寄ろうとした次の瞬間。
ふわりと淡い藤色のドレスが翻って、
消えた。
さっきまでそこにいたのに! バルコニーには人のいた気配が無くなった。
「母上!!」
声にならない声で呼んだけれど……声を掛けられた人の姿は見えなかった。
「……様、レイシル様?」
近くで呼ぶ声がする。遠慮がちに聞こえる、耳障りの良い柔らかなソプラノ。
「良かった。目が覚めまして?」
魔法科学省の執務室。
結構な広さを貰っているが、括りつけの大きな書庫のお陰で威圧感が凄いと言われている。あちこちに魔道具や、書庫に入りきらない書物がうず高く積まれていた。
どうやら真ん中に置いてあるソファで、うたた寝をしていたようだ。ソファから上半身を起こして軽く頭を振る。久し振りにアノ夢を見た。
「どうぞ? 目が覚めますわ」
彼女がバスケットからポットを出し、コポコポとカップに注ぐ。爽やかなミントやレモンの香りが頭を刺激してくれる。
「ああ、ありがとう」
カップを受け取って香りを味わい、湯気の立つハーブティーをそっと口に含んだ。
「美味しい……」
心から染み出た言葉だった。仄かな刺激が、舌から、鼻から感覚を覚醒させてくれる。
「そうですか。それなら良かったです」
瞳を細めてにっこりと微笑む。愛らしい唇が柔らかく弧を描いて、お替わりは如何ですか? と聞いてくれる。
それ以外は何も聞かない。多分、ただ寝入っている風ではなかったはずだ。うなされていたのかもしれないし、何か言っていたのかもしれない。
何故なら……あの夢は……
母の最期の瞬間。その時の光景だったのだから。
母の事は公には事故とされている。でも、本当は違う。本当の死因は夢に見た通りで、俺が11歳の時の事だ。母は自ら空を飛んだ。
「レイシル様? 寝ていないのではないですか? ここ最近ずっとお忙しいのでしょう? 仮眠をするならちゃんとベッドで寝ないと駄目です。疲れが取れませんよ! そんなにお疲れなら、今日の実技の講座は止めませんか?」
結構強い口調だな。母上が生きていたら、こんな感じで叱ってくれるのだろうか? ふとそんな事を考えて、思わず可笑しくなってしまった。
母と彼女は重ならない。全く似ている処は無い。でも、何で今そんな事を思い出したのだろう。
「判っているんだけどね。つい新しい術式を思いついて、少しだけのつもりで書き始めたら、止まらなくなった。講義は大丈夫。お茶を飲み終わったら始めよう」
心配させない様に姿勢を正すと、ゆっくりとお替わりのお茶を飲む。
「新しい術式……ですか。この前もそう言っていました。レイシル様の頭の中は一体どうなっているのでしょう? 一度よく見てみたいものですわ」
少し呆れた様にそう言うと、散らかっている術式の書かれた紙を手に取った。小首を傾げてじっと見ているその姿が、小鳥の様でとても愛らしい。
思わずその姿に、肩に、髪に触れたくなって手を伸ばし掛けた……
「あら? ここ! スペルが違っていません? aではなくてeではありませんか?」
勢い良くこちらに振り向いて、俺の鼻先に紙を突き付けた。
「……ああ、本当だ。良く判ったな?」
「うふふ。良かったですね? これで術式が完成しますわよ?」
さっきまでの小鳥の愛らしさが、ドヤ顔の鳩になった。可愛いのは可愛いが、そのドヤ顔はちょっと、何と言うか、
「随分得意そうじゃないか? それなら君に校正係になってもらおう。助かったよ。優秀な校正係が身近なところで見つかって。ああ、良かった良かった」
つい意地悪というか、揶揄いたくなる。いや構いたくなるか?
彼女は真ん丸に目を見開くと、シマッタとばかりに左右に視線を揺らして、直ぐに眉を下げた。
「レイシル様は意地悪です。直ぐにそう言う事をおっしゃって、私が困るのを楽しんでいますのね?」
本気で虐めたい訳でも無いけど、結局素直な彼女は本気にとってしまう。まあ、困っている顔を見るのも二人でいる時の特権だ。
「意地悪じゃない。本気でそう言っているのに。心外だな。俺は君に、どんな意地悪男だと思われているんだ。そんな酷い男だと思われているなんて、俺は悲しいよ」
「うっ!」
「いいんだ。きっと俺はそう言う人間なんだ……」
反論したいけど、いい言葉を思いつかないのか彼女は唇をギザギザに結んでいる。うっすらと目元も潤んでいる様に見える。これ以上は止めた方がいいだろう。泣かしたくて絡んだわけでは無いのだから。
「ごめん。からかい過ぎたな」
深々と頭を下げて謝ると、頭の上からクスリと笑い声が聞こえた。良かった。怒ってもいないし、機嫌が悪くなった風でもなさそうだ。
顔を上げると、春の日差しの様な微笑みがあった。俺にとってはハーブティーよりも、ずっとリラックスできる特効薬だ。
彼女の光の魔法術は、日々の鍛錬もあって随分と上達した。
特に、セドリック殿への治療魔法は驚く程の効果を上げた。半年は療養を必要とし、更に後遺症も残る可能性があると言われていたのが、2ヶ月余りで完治したのだから。
そこで、彼女には幾つかある光の識別の魔力から「治療の魔法」を重点的に鍛錬することにした。彼女の性格とも一番相性が良いと感じたからだ。
彼女にとって、セドリック殿は特別。それに、セドリック殿にとってもそうだったんだと思う。彼女が意識の底に潜り込んだ時も、彼が彼女を引き上げるきっかけとなってくれた。
正直、彼女を奥底まで追いやってしまったのは……
俺だ。俺のサルベージが失敗して、彼女を追いこんでしまった。
思い合う心の重要性が、こんなに顕著に表れた例は聞いた事が無かった。
……俺には出来ない事だ。
だって知らない。そんなに思い合う心なんて俺は知らないから。
思われることも、思う事も、
俺は知らない。
彼女は、コレール王国に留まる限り自分で結婚相手を選べる。
コレール王国に忠誠を誓い、光の識別者として生きるならば、婚姻については自由にして良いと国王から言質を取った。まあ、はっきり言って王国が婚約者候補制度の撤廃で迷惑料を払って、自国に囲い込みをした。結局は双方が、ウィンウィンになるように話を着けたというところか。
そのせいで、ダリナスの現王子と元王子、公爵家の息子とか、その他にも彼女の伴侶になりたい輩が湧いて出ている。
まあ、エーリックとシルヴァ殿、セドリック殿のダリナス勢に叶う者などめったにいないだろうけど。
ガーデンパーティーが終わると、本格的な夏が来た。この年は、例年にない長雨が降っていた。
「レイシル様! ルビノ鉱山で大規模な落盤事故が発生しました。現在、自衛団による救出作業を行っていますが、魔法科学省にも応援要請が参りました」
王宮からの援軍要請を受けて、魔法科学省も特務部隊を派遣する事になった。
「ルビノ鉱山か。厄介だな、あそこは国内でも一番古く、今は使っていない坑道も沢山あるはずだ」
状況を聞けば聞く程、被害の大きさが判ってくる。長雨によって鉱山の岩盤が緩み、大規模な地滑りが発生した。そしてその土砂が坑道の中に流れ込み、出入り口を塞いでしまったのだ。
「行方不明者が多数います。はっきりした数は調査中ですが、地上に数十名、地下坑道に200名。300名弱の者が生き埋めになっていると思われます」
過去に無かった大災害だ。
直ぐに、魔法科学省から災害救助の特務部隊を組む。地上と地下の探索と救助の為、土と錬金、鑑定の魔法術に優れた識別者で構成をする。
「移動には泉を使う。一番近い泉がどこか調べろ。各自準備を進めて1時間後に出発する。それからここにいない分署の水魔法識別者に、援軍を移動魔法で送るようにしろ」
省内が緊迫感に包まれていた。普段は静かな省内が嘘の様にバタついている。
「レイシル様!」
執務室で魔道具の準備をしていると、大きな声がした。
「シュゼット? どうした? 今日は講義は無いはずだが」
手を止めずに視線だけ送って尋ねた。
「レイシル様! 事故があったと伺いました! 私も連れて行って下さい! 怪我人が大勢いると聞きました。お願いです! どうかお連れ下さい」
息せき切って走り込んできた彼女は、そう言って魔道具を入れた箱を俺の手から奪った。
「なっ!? 出来る訳ないだろう! 君は魔法科学省の技師でも無い、学生じゃないか。連れてなど行けない」
「確かに魔法科学省の人間ではありません。それに、魔法だって皆さんと比べれば全然及びません。でも、私は光の識別者です! 治療魔法を使えます。怪我している人が大勢いるなら、助けたいです! お願いです。連れて行ってください!」
真剣に訴える彼女は、とても思い付きで言っているようには見えない。
「酷い現場だ。君が今まで見たことも無い惨状だ。すでに死人も出ているかもしれない。いいか? これは実験や講義じゃないんだ。足手纏いになったら、捨てて置く。それでも良いのか?」
「はい!」
真剣な瞳で真っ直ぐに見詰められる。
「判った。それでは行こう。鉱山下にある教会の泉に移動する。来い!」
彼女の手から魔道具の箱を取返し、代わりにその手を繋いで廊下を走った。
現場に移動すると、思っていた以上に酷い惨状に息を飲んだ。しかし、埋もれた人間を探すのは時間との戦いだ。
鑑定と土の魔法術で、埋もれた人間を探しながら土砂を退けて、退けた土砂を錬金で元に戻してゆく。助け出された抗夫達は、大きなテントに担ぎ込まれて、医術院から応援の医師や看護婦によって治療をされるが、如何せん患者の数が多すぎる。彼女をそこに預けると、俺は坑道に向かった。
坑道の中から生き埋めになった人間を探す。具体的には『人』の意識に向かって鑑定の魔法の糸を伸ばし、掠れそうなほど薄くなっている意識を探し出して位置を特定するのだ。その為、扇状に魔力の糸を広げる必要があるので、結構魔力を使う。
「レイシル! 地上は大方片付いた。そっちはどうだ?」
地上部分を指揮していたシルヴァ殿だ。さすが手際が良い。
「もう少しだ。最奥部分にあと10名ほどいる。幸い怪我はしていない様だ。その者達を引き上げれば完了になる」
一昼夜に及ぶ救護活動は、災害規模の割に犠牲者も最小限で済んだと思う。残念ながら、助けが間に合わずに命を落とした者も数人出てしまったが。
「シュゼット……!」
そうだった。思い出した。いや、忘れていた訳では無かったが、救護用テントに放り込んでそのままだった。
「シュゼット!」
テントの垂れ幕を開けて声を掛けた。大きなテントは5つあって、その内4つは怪我人が治療をされて寝ている。残りの一つが犠牲者の安置場とされている。
僅かに残った鑑定で、彼女がどこにいるか調べる。
「……あのテントに?」
彼女の気配は、犠牲者の安置されたテントから感じられたのだ。
「シュゼット……?」
テントの入口に張られた布を、静かに捲って声を掛けた。
彼女はこの事故で犠牲となった者達の傍に佇んでいた。お仕着せの魔法科学省のローブは、土と血で汚れていた。長く艶やかなプラチナブロンドは、邪魔にならない様に一つに結ばれていた。
「レイシル様」
傍によって、肩に手を置いた。震えている様に見えたからだ。
「シュゼット、大丈夫か?」
小さく彼女は頷くが、顔を上げることは無かった。
「随分頑張ってくれた。君のお陰で助かった。ありがとう」
「……」
「シュゼット?」
「……でも、駄目です……」
俯いている足元に、ぽたぽたと涙が零れ落ちた。
「でも、助けられませんでした。苦しかったでしょう。辛かったでしょうに。私の力では助けられませんでした……光の識別者の力って、何なのでしょうか。私の治療魔法では、こんなにも救えない人達がいます……」
光の識別者として初めて臨んだ実践の場は、彼女にとってとても過酷なものだった。命を落とした者の中には、少年抗夫もいた。
「この方は、一緒に働いていたお母様を庇うように埋もれていたそうです。押し流された樹々から護っていたそうです」
マットに寝かされている少年は、魔法のお陰で顔や髪は綺麗にされていた。しかし、汚れた服や靴にこびりついた泥汚れが事故の有様を想像させた。
「そうか……母親は? 無事だったのか?」
そう声を掛けた瞬間に、ばさりと戸口の布が勢いよく捲られた。
「ハリーッ!!」
小柄な女性が転がり込んで来た。髪は乱れ、服も土汚れで酷い有様だ。もしかして……
「ああっっ! ハリーッ! 何て事に! ああぁぁぁ……!!」
それは少年の母親だった。母親は横たわる少年に縋りつくと、頬や額を撫でながら声を枯らして呼び掛けている。目を覚ましてと。頼むから目を開けてくれと。
俺と彼女は少し下がってその様子を見ていた。泣き叫ぶ母親の声に心が詰まる。
「術士様!! どうか、息子を助けて下さい! 息子が生き返るのなら、私の命なんていらないです! 息子の代わりに私の命を使って下さい!」
立ち竦すくむ俺達に気付いた母親が、縋りついて願う。その顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「母君の気持ちは良く判るが、残念だが命を失った彼を蘇らせることは出来ないのだよ。申し訳無いが……」
それだけ言って口を噤んだ。母親が納得できる言葉など今は無い。
「うっつううう。私は息子が居たから生きて来れたのに!! でも、でも、もうこの子がいなくなったら、私も生きていけないよぉ。この子がいないんだったら生きていけないよぉ」
再び泣き崩れる母親に、そうではないと口を開きかけた。が、
「お願いです。そんな事はおっしゃらないで。そんな事を言ってはいけません。だって、息子さんは貴女を助けたかったのですよ? 貴女は息子さんに抱き締められていたではないですか。お母様がそんな事を言っては息子さんが悲しみます」
俺が声を掛ける前に、彼女が母親を抱き締めて言った。
「ごめんなさい。私達がもっと早く見つけていれば、もっと魔法が上手に使えれば助けられたかもしれません。本当に……ごめんなさい」
彼女の閉じた瞳から、再び涙が溢れていた。抱き締められている母親も、少しずつ落ち着いてきたように見える。彼女の癒しの魔法が影響しているのかもしれない。
暫く二人は抱き合っていたが、母親を迎えに来た家族によってようやく離される事となった。
「シュゼット、大丈夫か?」
休憩を兼ねてテントの外に出る。昨日から夜通しで救助を行っていた為、水の一杯も飲んでいない。しょっぱなから過酷な現場経験をさせてしまった。
彼女をテント脇にあった木箱に座らせると、カイルが俺達に気付いてカップを二つ手に近寄って来た。
「どうぞ、滋養のあるお茶です。ゆっくりお飲みください」
カップを受け取って、二人で飲む。熱いお茶は甘くて香辛料の効いたミルク茶だった。
「旨いな。身体が温まる」
「……そうですね……美味しいです」
ほうっと溜息を吐いた彼女が呟いた。
静かな空気が流れる。
少し離れた坑道付近では最後の救出者が地上に出られた様だ。大きな歓声が上がっている。良かった。出来る限りの事はやった。
肩の力がようやく抜けて、少しホッとした。
それと同時に、さっきの光景が頭に浮かんだ。
少年抗夫の母親。その姿を思い出していた。息子の死を知って、自分の事を置いて駆け込んできた。顔も髪も土にまみれていたし、腕の怪我も折れているのかもしれない。添え木が当てられたままだった。きっと、助け出されて治療を受ける前に息子の事を聞いたのだろう。
あんなに泣くなんて。
息子が居たから生きて来れたと、息子が死んだら生きていけないと、代わりに命を差し出すと、そう言って人目も憚らず縋りついて泣いていた。
子がいれば、母親とは生きていける者なのか。
子の為に母親とは生きて行けるのか。
子の代わりに命さえ差し出せるのか。
世の母親とは、そう言う存在なのか……
ふと、頬を伝うモノなみだがあった。
ずっと、心に刺さっていた棘。気付いていたのに、気付かない振りをしていた。
俺は、母上の生きる糧にはなれなかったんだ。
母上にとって、俺は望まぬ相手との子だったからか?……
だから、母上は想い人の死に耐えられず自ら命を絶ったのだ。彼が母上の命の糧だったから?
俺では母を止められなかった。
ずっと、ずっと抱え込んできた。誰にも話せず、気が付かれてもいけないこの気持ち。
「レイシル様……?」
座っていたはずの彼女が、目の前で膝をついて顔を覗きこんでいた。頬を伝う涙に細い指が触れる。少しだけ小首を傾げて、何か言いたそうに口を開き掛けてそっと噤んだ。
「失礼しますね」
彼女が立ち上がるのと同時に、バサリと視界が覆われた。彼女のローブで頭からすっぽりと覆われたのだ。何がどうして、この行動だ?
「大丈夫です。これで誰にも見られませんから」
温かな体温と共に、微かな甘い香りに包まれた。日に透けるロープの陰で、視界は白く淡く再びかすんでくる。ずっと昔にも感じた安心感に包まれる。鼻の奥がツンとした。
思わず、彼女の腰に腕を廻してしまった。びくりと身体が震えたのが判ったが、彼女は振り払う事は無かった。
「レイシル様? 甘えるのは今だけですよ?」
もしかしたら、彼女には鑑定の魔力があるのかもしれない。なんたって、光の識別者の魔力は未知であるから。
「シュゼット、君に聞いて貰いたいことがあるのだが……」
彼女にだけ聞こえる声で話しかける。
「……戻ったら。で、良いですか?」
「うん。戻ったら」
彼女を抱き締める様に腕に力を込めた。
「判りました。それでは早く片付けて帰りましょう!」
名残惜しいけど、腕を離して彼女と離れる。
パサリとローブが翻って辺りがはっきりとした色彩を取り戻した。
「さあ、行きましょう!」
彼女は零れる様な笑顔でそう言った。
そして、この数年後、
私達はセレニアの丘で海を見ることが出来たのだった。
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