上 下
39 / 121

38. 天使の仕返し

しおりを挟む
 さあ、編入2日目です。

 正直、昨日は思った以上に色々なことが起きました。たった半日しか学院にはいなかったのに。
 今朝も、マリとお仕度シスターズによって身支度を整えられます。昨日マリの宣言した通り、対ローナ様仕様にしています。どこがそうなのかと聞いたところ、

「男子目線より、女子目線を意識しました。女子にしか判らない映えポイントを重点的に攻めましたわ」

 と。実際どの辺がそうなのか説明してくれそうでしたが、朝の貴重な時間ですからそれは後に聞きましょう。

「制服よーし! 髪型よーし! すべてよーし!」

 大きな姿見の前で、マリのチェックを受けます。満足そうに微笑むその様子にホッとしますわ。

 今日の髪型も凝ってますね。両サイドが細い三本の三つ編みになっていて、後ろで三重のリボンのように編み込まれています。そして、銀に色石の細工がされたバレッタが留められています。ぱっと見シンプルそうですが、手が込んでいるのが判りますね。絶対一人では出来ない変わり編み込みですもの。そうなのね? これが女子目線の映えポイントなのですね? 勉強になりますわ。

「ところで、シュゼット様、先日セドリック様から頂いたキャンディーですけど、これ凄い人気らしいですわよ? 特に苺キャラメルが大人気なのですって。セドリック様にしては、良いチョイスですね?」

 小さなテーブルの上に置いてある球体ガラス瓶に、綺麗な包み紙が煌めいています。そうなのですね? そんなに人気のキャンディーなんですね?

「物凄くメルヘンな造りの可愛いキャンディーショップなんですよ! 放課後なんて女学生達で一杯らしいですわ。お二人であのお店に行ったのでしょうか? あの二人がショップに行ったら騒がれそうですわね? ほら、殿下は一目瞭然ですけど、しゃべらなければセドリック様もイケメンですからね?」

 マリさん? セドリック様のこと、結構ディスっているような気がしますけど? でも、キャンディーショップで(多分、ワイワイしながら)選んでいるお二人を想像したら、温かい気持ちになってきました。

「マリ、キャンディーを持って行きたいから少し分けて下さい。苺キャラメル? 多分お二人とも召し上がっていないわよね? ランチの後に頂きましょう」

 私は、ガラス瓶の蓋を開けて幾つかのキャンディーを摘み、お仕度シスターズにそれを渡すと、ご苦労さま、もう大丈夫よと声を掛けました。シスターズは嬉しそうにキャンディーを受け取ると部屋を退室していきました。

 昨日は送って頂いたり、ご心配をお掛けしたので、皆さんにお詫びのお菓子を持って行くのです。それに追加してキャンディーも持って行きましょう。

「ええと、エーリック殿下、カテリーナ様、セドリック様、念のためローナ様? にも一応ね、それから、ハート先生の分」

 お菓子の入った小さな紙袋を数えます。中身は、持ち運びに耐えられるようにキャラメリゼナッツのソルトクッキーにしました。以前お出しした時、エーリック殿下は随分気に入って下さったようですし、ハート先生も甘みを抑えたクッキーですから召し上がって頂けるでしょう。セドリック様とカテリーナ様は……スイーツ全般お好きなようですから、こちらも喜んで頂けると思います。

「なっ!? ハート先生!?」


 可愛いナプキンにキャンディーを包んでいたマリの手がピクッと止まりました。

「お嬢様? ローナ様とハート先生にもお渡しするのですか?」

 眉間に深いシワを寄せたマリが、低い声で聞き返しました。

 この二人の事になると、マリはすこぶる機嫌が悪そうに見えます。特に、ハート先生には特別に敵対心が湧くようですけど。



「ローナ様には、ほら、一応静養室迄ご案内して頂きましたしね? それに、自分からターゲットだと宣誓して頂きましたモノ。探す手間が省けたということと、効果的な仕返しの方法を教えて下さった事への感謝ですわ」



 私はニヤリとして、マリの方を向きました。

「効果的な仕返しの方法? ですか?」

 同じようにニヤリとしたマリが言いました。二人ともワルイ顔をしていると思います。

「ええ。ローナ様の様な自尊心プライドの高い表裏があるタイプには、表では太刀打ち出来ないような完璧令嬢で対応することにしました。あの方は学業が優秀なのでしょう? ならそれも潰して差し上げますわ。それに見た目だけでなく仕草や佇まいや、ダンスでもですわ。とにかく、試合場にも上がらせないようにします」
「鬼です! ここに天使の皮を被った鬼がいますよ!!」

 マリがワザと怯えるような表情を作りました。言い過ぎではなくって? まったく、女優ですわね。

「でも、お嬢様、表はそれでいくとして裏はドウシマスカ? 結構手ごわいかもしれませんよ?」

「そこよ。彼女は、自尊心プライドの高さを自覚していないから、相手に対して自分を貶おとしめつつ、マウントを取って来るという高等スキルを使ってくるわ。自分がこんなことをするのは、あの方の為。あの方の為にワタシにコンナコトをにさせる貴方が悪いの! っていうね」

 マリの手元にはナプキンで可愛く包まれたキャンディーの包みが出来ました。クッキーの袋と一緒に手提げ袋入れてくれます。準備万端ですわ。
 部屋を出て玄関に向かいます。後ろから鞄と手提げ袋を持ったマリが、シズシズと続きます。玄関ホールにはお母様とマシューが、見送りの為待っていて下さいます。

 お母様は、昨日の事があるので無理はしないでね。と優しくキスをしてくれます。マシューは、昨日セドリック様に送って頂いたことに対して、体調不良ならば仕方が無いとしつつも、男性にはどなたであってもお気を付けください! と念押しをされました。そうですね。そう言われると思っていました。

 笑顔で、マリと一緒に馬車に乗り込みます。行って参ります。と小窓から手を振り、さっきの続きを話しましょう。二人キリですから遠慮はいりませんわ。

「ですからね、彼女の弱点は何を置いてもヤツフェリックス殿下ですから。ヤツフェリックス殿下に一番近いロイ様とオーランド様と直接情報交換ができる位になって、彼女の居場所を頂いちゃいましょう。ってどう?」

 多分、物凄く黒い笑顔だったと思います。

「ここに悪役令嬢がいますよー!! 天使の皮を被ってますよー!!」

 マリが芝居がかった声で叫びました。まあ、さっきは鬼でしたけど、今度は悪役令嬢なのね? でも、ローナ様と私だったらどちらが悪役令嬢なのでしょう? 今の状況はどちらもヒロインとは言い難いですけど?

「私が悪役令嬢ならば、ローナ様がヒロインかしら?」
「そうですねぇ、お嬢様にその気を起こさせたローナ様も相当ですからね。ヒロイン枠としては、良いと思いますわ。それに、その作戦なら相当堪こたえるでしょうね。でも、お嬢様? ひとつ心配があります」
「心配? 何かしら?」

 マリがきりっとした表情で、私の顔を指差しました。ちょっと、マリサン失礼ではなくって?

「お嬢様? その作戦、成功したら、絶対婚約者に選ばれると思いますよ? だって美貌の賢い、振る舞いも申し分のない完璧令嬢で、その上側近にも評判の良い婚約者候補なんですから?」


「あ・・・」

 腕組みをしたマリが困ったよう首を捻りました。さて、ローナ様への仕返しには良い案でしたが、最終的に困った方向に行きそう……。

「でも、今はこの作戦でいきましょう。ローナ様お一人への作戦ですし、まだ候補者も公にされていない段階ですから。何とかする時間はあと2年ありますからね。それよりも、お嬢様?」

 はい? 何でしょう? と小首を傾げて正面を見ます。

「今日、ハート先生にお菓子をお渡しするのですか? というかお会いになるのですか?」

 マリの目が座っています。ちょっと怖いですわよ?

「そうよ。昨日お水を持たせて頂いたでしょう? 尤も、飲んだのは貴方ですけど」

 そうですわ。お水は結局マリが一気飲みしましたけどね。

「ちっ!!」

 舌打ちしましたわよ。

「お嬢様! いいですか? ハート先生とお会いするときには、絶対、ぜーったい! どなたかと一緒にお会いするようにして下さい! そうですわ、エーリック殿下とご一緒が良いです! 約束して下さいますか!?」

 なに? なんで? でも、マリの必死の形相に頷くしかありません。

「わ、判ったから。必ずエーリック殿下とご一緒するわ(出来る限りですけど)」

 鼻息も荒いマリは、どうもハート先生に怒っているような? 何かされたのでしょうか?



「マリ? 貴方、ハート先生と何かあったの? まさか---告白!?」
「そんな事! あるワケ無いじゃないですか!!!!」


 盛大に怒られました。マリさん、コワイデス。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お妃候補は正直しんどい

きゃる
恋愛
大陸中央に位置する大国ヴェルデ。その皇太子のお妃選びに、候補の一人として小国王女のクリスタが招かれた。「何だか面接に来たみたい」。そう思った瞬間、彼女は前世を思い出してしまう。 転生前の彼女は、家とオフトゥン(お布団)をこよなく愛する大学生だった。就職活動をしていたけれど、面接が大の苦手。 『たった今思い出したばかりだし、自分は地味で上がり症。とてもじゃないけど無理なので、早くおうちに帰りたい』 ところが、なぜか気に入られてしまって――

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

踊れば楽し。

紫月花おり
ファンタジー
【前世は妖!シリアス、ギャグ、バトル、なんとなくブロマンスで、たまにお食事やもふもふも!?なんでもありな和風ファンタジー!!?】  俺は常識人かつ現実主義(自称)な高校生なのに、前世が妖怪の「鬼」らしい!?  だがもちろん前世の記憶はないし、命を狙われるハメになった俺の元に現れたのは──かつての仲間…キャラの濃い妖怪たち!!? ーーー*ーーー*ーーー  ある日の放課後──帰宅中に謎の化け物に命を狙われた高校2年生・高瀬宗一郎は、天狗・彼方に助けられた。  そして宗一郎は、自分が鬼・紅牙の生まれ変わりであり、その紅牙は妖の世界『幻妖界』や鬼の宝である『鬼哭』を盗んだ大罪人として命を狙われていると知る。  前世の記憶も心当たりもない、妖怪の存在すら信じていなかった宗一郎だが、平凡な日常が一変し命を狙われ続けながらも、かつての仲間であるキャラの濃い妖たちと共に紅牙の記憶を取り戻すことを決意せざるをえなくなってしまった……!?  迫り来る現実に混乱する宗一郎に、彼方は笑顔で言った。 「事実は変わらない。……せっかくなら楽しんだほうが良くない?」  そして宗一郎は紅牙の転生理由とその思いを、仲間たちの思いを、真実を知ることになっていく── ※カクヨム、小説家になろう にも同名義同タイトル小説を先行掲載 ※以前エブリスタで作者が書いていた同名小説(未完)を元に加筆改変をしています

やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~

岡暁舟
恋愛
 名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...