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8. 情報収集は誰からするかが問題です

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 屋敷に戻ってきたシュゼットは、執事のマシューに出迎えられた。


「お嬢様、お帰りなさいませ。お疲れになったでしょう? 試験は如何でしたか?」
「ただいま、マシュー。試験はバッチリよ! 合格したわ。さすがに少しだけ疲れたけど。ところでお父様達は?」

 筆記用具やらその他諸々の入った鞄を手渡す。受け取ったマシューは姿勢を正したまま答えた。

「まだお帰りにはなっていません。陛下と晩餐を頂くことになったと伝言が参りました。遅くなるかと思いますので、シュゼット様は夕食をお一人で摂って頂くことになります」



 王宮に、帰任の挨拶に行ったから引き留められたということか。

(朝早くから、大変なことだわ・・・お疲れ様です)

「お寂しいでしょうから、今夜はシュゼット様のお好きなデザートをお出しするように致しましょう。何が宜しいですか?」
「うーん。そうね……」(そうだわ!)
「じゃあ、余り甘くないお菓子が良いわ。お願いできるかしら?」

 普段は余り表情を変えないマシューの目が大きく開いた。

「甘くないお菓子ですか?」
「そう。できるかしら? 無理なら良いのだけど」

 コテンと小首を傾げてマシューを見上げる。

「調理長に言ってみます。シュゼット様の特別のリクエストですから、頑張るでしょう」



「シュゼット様、お茶をご用意致しました」

 マリがお茶を運んできた。
 シュゼットはすでに着替えて、自室で寛いでいる。数冊の辞典のような本と冊子がテーブルの上に置かれ、貴族年鑑のカレル侯爵家の頁ページが開かれていた。

「何かお判りになりましたか?」
「ううん。学院の情報までは判りっこないわね。やっぱり、学院内の事は学生に聞かないと駄目ね。しょうがないわ。余り会いたくはないけど、に情報提供をお願いしましょうか……」

?」
「王立学院に隣国から留学しているよ」
「それって……もしかして?」
「そう。隣国の外交大使の息子。セドリックよ。彼は1年前にこっちに来ているから、情報を持っているはず」
「でも、あの方、お嬢様をライバル視していましたよね? それに結構なだったと記憶していますけど」

 テレジア学院で同じクラスだったセドリック・シン・マルカイト。
 隣国の外交大使のマルカイト公爵家の嫡男で、シュゼットに何かと張り合ってきた面倒臭い奴なのだ。

 学力優秀者の在籍するSクラスで、常にベスト3にいたセドリックは、成績で競っていたシュゼットにライバル心を燃やしていたようで、試験の度に『今度こそは負けない』とか、『次は勝つ!』やら、『次回は頑張りたまえ』だの、変な上から目線の言葉も言っていた。

「でもね。良いところ(疑)もあるのよ(多分)? 私が風邪で授業を休んだ時に……」

『全く、鬼の霍乱かくらんとはよく言ったものだ! 準備不足の相手に勝っても嬉しくも無い。これを見せてやるから試験に備えたまえ!』 とか言って、わざわざ熱で伏しているシュゼットの枕元に、休んだ分の授業のノートを持ってきたのだ。

「まあ、そのノートのお陰で、彼より順位は上だったけど」

 相当悔しかったのだろう。それから休んだ3日分と同じ日数分、ランチを一緒に食べる羽目になった。(でも、奢ってくれたけど)

「……お嬢様。それ、色々違うと思いますけど? まあ、今は何も言いませんけど……」
「とにかく、彼は私との再戦を望んでいるから。編入するまでの間に一度会っておきたいわ」


 1年前、赴任が決まった時、『アウェーで勝ってこそ真の勝利だ。君が本国に戻って来るのを楽しみにしている。帰国するときには連絡してくれ。それまでに、僕は学院を掌握しているはずだ!』 と言っていた。

「何を目指しているのか判らない宣言を聞かせてくれたけど。まあ、帰国した連絡をして情報を聞き出しましょう。マリ、手紙を書くからマルカイト家に出して貰ってちょうだい」


 サラサラとその場で手紙をしたためる。



― セドリック様   帰ってきましたの。    シュゼット-



「えっ? この文章で良いのですか?」



「ええ。十分よ。きっと明日の放課後にも来るわ。マシューに言ってすぐに届けるようにお願いしてちょうだいな」



 マリは受け取るとすぐに退出した。



 さて、1年ぶりに会うセドリックはどうなっているだろうか?



 それに、彼と一緒に留学しているはずのも。




 とにかく、編入までの1週間を有意義に過ごさなければならない。屋敷に籠っていては話にならないので、これぞという社交の場に少し出ておきたいのだが……マシューに調べて貰っていた社交の催し一覧を上から順に見ていく。



(これだわ!)


 今度の土曜日の夜。場所は王立歌劇場。若者にも人気のある演目だ。

「さて、そろそろ夕食ですわね。デザートはできたかしら?」

 そう呟くと、シュゼットはにっこりと天使のような微笑みを浮かべた。












 その頃、王宮の食堂ホール。

 陛下と王妃、グリーンフィールド公爵夫妻の4人でテーブルを囲んでいる。



「はあっ!? シュゼットが? フェリックス殿下の!?」



 グリーンフィールド公爵は、今年一番の大きな声で聞き返した。

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