真水のスライム

イル

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レミレニア編

100話 水底

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 翌日、再び3人で待ち合わせ。
 場所はエンの方から希望があり、魔力濃度の低い近場の森。人が少ない場所の方がやりやすいとの事だ。

「…精神魔術なんてなるべく使いたくないから、今回は特別だからね?」
「はい。でも、じぶんの事くらいは知りたいので。
 おねがいします。」

 事のきっかけは、ラディとの会話の中でのちょっとした思い付きだった。
 エンの精神魔術の中で、それぞれの過去の記憶に触れる事ができた。
 なら、ラディの過去も探る事ができるのではないか、と。

「じゃあ…行くね。」
 エンの青い目が煌き、それと同色の光を手の間に溜める。
 静かに広がるその球体が、3人を包み込む。


 浮かぶ映像は、ディエルの時よりもくっきりと見えた。
 深く広い、紺色の空間。そこに点在する、ラディ目線の思い出。
 この数日でのハルドレーンさんとの猛特訓の事、魔法道具屋で戦力補強した時の事。そして、銀鞭戦で初めて自分で仕留めた時の事。
 同時にその時のラディの感情。悔恨、期待、歓喜。
 奥の方に進む程に数は減っていき、やがて周囲に何も無い空間がただただ広がる。
 空間は暗くなっていき、見通しが悪くなっていき。
 その最奥に何かが見えた気がして──


「うおっとと。」
 不意に、はじけるように元の景色に戻る。
 どうにか転ばず済んだが、まだ浮遊感が残ってる。
「ちょっとだけ見えた。私の力量じゃ、それが限界点。
 詳しい事は、何も……。」
「どんな小さい情報でもいいので、おねがいします。」
 良くないと思うような内容だったのだろう、淀みながらエンが答える。

「どっかの屋内、壁の感じからして中型施設かな。そこに捕らえられていた…というよりは、逃げるという意思すら無かった?
 徒人かエルフの人がいて、顔までは見えなかったけど、その時の呼び名まではどうにか分かった。」
 呼び名…最初に名前を聞いた時の事を思い出す。ラディ自身が記憶から引き出した、僅かな手掛かり。
「なんと、呼ばれてたのでしょうか?」
「…『フラッディ』。洪水を意味する言葉ね。」
「こうずい?」
「水に関する災害の1つ。最悪の場合、街が丸ごと流されるほどの河川の氾濫。
 危険性のある所では専門の対策員も置かれる程のね。」
 今でこそその被害は聞かないが、伝承の中ではよく聞く災害だ。中には水術で意図的に氾濫させて武器にした、なんて話もあるくらいに。

「それ以外は記憶に残ってない…というより、覚えるという意思も無かった、といった感じね。だから、これが最初にかなり近い記憶だと思う。
 …ごめん。これくらいしか分からなくて。」
「いえ、何も分からない状態だったので。すこしの事でも助かります。」
「ただ…どういう理由であれ、災害の名で呼ぶなんてきっと碌でもない奴よ。
 これ以上の深入りは嫌な予感もするし、一応私からは『やめた方がいい』とだけ添えておく。
 それでも、謎を追い求める?」
 ラディの様子には探求したいという意思が見える。
 しかしこちらを気にし、様子をうかがってくる。
「セイルさんは、よろしいでしょうか……?」
「なにもフィールドワークだけが『冒険』じゃない。
 街を回ればラディの過去に繋がる話に出会えるかもしれない。その『部屋』に思いがけず行く事があるかもしれない。
 だから、目的の一つとして手伝うよ。ラディの過去探し。」
「なるほど、冒険者のさが、ってやつね。
 分かった。私も情報気にしてはみるね。偶然便りにはなっちゃうけど。」
「はい、ありがとうございます!」

 最初はふわっとしてた「歴史に名を残す」目的はおそらく一度達し、目指すイメージは分かってきた。
 そこにラディの事の目的が加わり、静かに新たな冒険に高揚してきた。
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