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189話 試運転
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後日、いつもの河原。
新しい事を実践で試す前に、ハルルとの手合わせだ。
ハルルが振るうのはこれまでと同じ、愛用の剣に鞘を付けたままのもの。対するこちらはハルバード…ではなく、ナナノハの管理する中から借りた棍。
魔界の遠征組用にいくらか武器を多めに持ち込んでいて、その中で刃が無く、握り心地がハルバードに近い物を選択。流石に実力が上がってきてる実感がある中で、刃を振るうのには躊躇があった。
この間幽世で試した事を、現世でどれくらい使えるかの試運転も兼ねて。
召喚術の応用で人狼の時の姿を着ぐるみのように纏っての戦闘。相変わらず満月時と比べると劣るし、幽世の時より魔力の消耗が激しいが、それでも何らかの作用で普段よりはよっぽど動ける。
いっそ任意で満月時の状態にできないかとは考えたが、どうにも満月の日以外は違和感のひとつすら感じ取れないくらいに呪いは潜伏している。制御の為に切り分けた都合、ロロにも満月のルールは超えられないとの事だった。
怪物じみた相手では実感が薄かったが、対人となるとやはり使い慣れた長物は大きく状況に影響する。
接近しリーチの先端にハルルを捕らえるや否や、先制の一振り。受け流されてさらに潜り込まれるが、跳躍で頭上を越えながら背後に一撃。しかしそれをハルルは弾き、反動ですれ違い距離を取る。
ハルルの牽制の風弾、それを腕でかき消す。魔力の毛皮が他の魔力を弾くようで、多少の魔法攻撃なら無効化できる。
「その風貌、伊達ではないようですね。」
そう言いハルルが一気に踏み込む。
迎撃の猶予は無い、棍で受けつつ数歩分の距離を飛びのく。
接地、即反転。射程差有利を狙っての一振り。しかし何度も打ち合い間合いは把握されてる。リーチの先端を狙った一撃は、最低限のバックステップにより空を切る。
ハルルも同じように切り返し、懐に潜り込まれる。ハルルの剣の間合いは避けたかったが、今はブレーキで精いっぱい。棍を横に、ハルルの剣を受け止める。
「それで召喚の狼は?」
一時の静止の間に、ハルルが短く問う。
「ハルルとは戦わない、そういう信条だとさ。」
「なるほど。」
かかる圧が不意に解け、違う角度への衝撃。体勢を崩すまいと踏ん張ろうとしたところに、更に追撃。
気付けば地に膝を付き、鞘の剣先がまっすぐこちらに向けられていた。
「まだ武器にハンデある状態で、これなんだよな……。」
明確な決着、武器を収めたハルルの手を借り立ち上がる。
術の維持がしんどくなり、纏っていた体毛が滑り落ち、魔力の粒子となって消え去っていく。
「むしろ、ユートさんは私相手に頑張ってる方だと思いますよ。これでも、かつて騎士として重用された剣術を、一通りの継承は受けてますし。
仮に私たちの世界で活動したら、冒険者として名を揚げられるだけの実力はあるかと。」
そうか、普段の軽いテンションで失念してたけど、ハルルってエリートを自称できるくらいなんだっけ。
「ただ…最初にお会いした時と大分雰囲気が変わりましたね。」
「…みんなそう思ってるっぽい。」
思い返す、ショウヤとの温度差。更に思い返すと、キリも何か引っかかる様子が一瞬見えてた気がする。
「もちろん実力付いたのは喜ばしい事…ですが、教えを授ける対象と思ってた人がいつの間にか迫って来てると思うと思う所はありますし、視点が違えば近しい別の想いもあるかもしれませんね。」
新しい事を実践で試す前に、ハルルとの手合わせだ。
ハルルが振るうのはこれまでと同じ、愛用の剣に鞘を付けたままのもの。対するこちらはハルバード…ではなく、ナナノハの管理する中から借りた棍。
魔界の遠征組用にいくらか武器を多めに持ち込んでいて、その中で刃が無く、握り心地がハルバードに近い物を選択。流石に実力が上がってきてる実感がある中で、刃を振るうのには躊躇があった。
この間幽世で試した事を、現世でどれくらい使えるかの試運転も兼ねて。
召喚術の応用で人狼の時の姿を着ぐるみのように纏っての戦闘。相変わらず満月時と比べると劣るし、幽世の時より魔力の消耗が激しいが、それでも何らかの作用で普段よりはよっぽど動ける。
いっそ任意で満月時の状態にできないかとは考えたが、どうにも満月の日以外は違和感のひとつすら感じ取れないくらいに呪いは潜伏している。制御の為に切り分けた都合、ロロにも満月のルールは超えられないとの事だった。
怪物じみた相手では実感が薄かったが、対人となるとやはり使い慣れた長物は大きく状況に影響する。
接近しリーチの先端にハルルを捕らえるや否や、先制の一振り。受け流されてさらに潜り込まれるが、跳躍で頭上を越えながら背後に一撃。しかしそれをハルルは弾き、反動ですれ違い距離を取る。
ハルルの牽制の風弾、それを腕でかき消す。魔力の毛皮が他の魔力を弾くようで、多少の魔法攻撃なら無効化できる。
「その風貌、伊達ではないようですね。」
そう言いハルルが一気に踏み込む。
迎撃の猶予は無い、棍で受けつつ数歩分の距離を飛びのく。
接地、即反転。射程差有利を狙っての一振り。しかし何度も打ち合い間合いは把握されてる。リーチの先端を狙った一撃は、最低限のバックステップにより空を切る。
ハルルも同じように切り返し、懐に潜り込まれる。ハルルの剣の間合いは避けたかったが、今はブレーキで精いっぱい。棍を横に、ハルルの剣を受け止める。
「それで召喚の狼は?」
一時の静止の間に、ハルルが短く問う。
「ハルルとは戦わない、そういう信条だとさ。」
「なるほど。」
かかる圧が不意に解け、違う角度への衝撃。体勢を崩すまいと踏ん張ろうとしたところに、更に追撃。
気付けば地に膝を付き、鞘の剣先がまっすぐこちらに向けられていた。
「まだ武器にハンデある状態で、これなんだよな……。」
明確な決着、武器を収めたハルルの手を借り立ち上がる。
術の維持がしんどくなり、纏っていた体毛が滑り落ち、魔力の粒子となって消え去っていく。
「むしろ、ユートさんは私相手に頑張ってる方だと思いますよ。これでも、かつて騎士として重用された剣術を、一通りの継承は受けてますし。
仮に私たちの世界で活動したら、冒険者として名を揚げられるだけの実力はあるかと。」
そうか、普段の軽いテンションで失念してたけど、ハルルってエリートを自称できるくらいなんだっけ。
「ただ…最初にお会いした時と大分雰囲気が変わりましたね。」
「…みんなそう思ってるっぽい。」
思い返す、ショウヤとの温度差。更に思い返すと、キリも何か引っかかる様子が一瞬見えてた気がする。
「もちろん実力付いたのは喜ばしい事…ですが、教えを授ける対象と思ってた人がいつの間にか迫って来てると思うと思う所はありますし、視点が違えば近しい別の想いもあるかもしれませんね。」
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