172 / 231
172話 最終調整②
しおりを挟む
「…クラフト一回分か。」
素材を抱え向かった先、猫獣人族のプレイヤー、キリのところ。通話を繋げ、街の中で待ち合わせ。
「一応言っておくが、高レベル装備は工程が難しいし、まだ実装直後で初動テンプレも定まりきってねぇ。金印成功率は良くて7割ってとこだ。」
金印、クラフトアイテムのグレードを示す通称だ。出来によってアイコンや名前に付く印から、金印・銀印・銅印と通称で呼ばれてる。
「失敗って言ってもロストする訳じゃないんだろ? なら出来は問わないよ。」
「…つってもプレッシャーかかんなぁ、もう。
とりあえずこんなとこでもなんだ、パーティリストからテレポートーチに跳べるから、そこ来な。」
言葉と共に表示されるパーティ勧誘通知。それを受け、言われた通りに場所を移す。
テレポートーチ、確かハウジングエリアに置ける、移動の着地マーカーだ。
ハウジングエリアはチュートリアルクエストで覗いただけだったが、広いエリア内に小分けされた土地があり、それをプレイヤーが買って好きに装飾できる要素だ。
外観を少し見て回るだけでも、シンプルな民家風の家やホイップクリームのようなメルヘンチックな家、砦のような家もあれば、機能家具の為だけと思われる家屋だけの家もあったりと、バリエーションに溢れすぎていた。
エリアも3種類、閑散とした村と街の住宅街と川沿いの集落風。
ロード時間の間に、キリならどこ選ぶんだろうと思いつつ。
着いた所はそのどこでもない、海岸だった。
「あれ、庭…?」
テレポートーチの設置…というか任意で物を置けるのは私有地である庭だけのはず。
…いや、確かセリフで説明されてたっけ。エリア丸ごと庭として自由にできる、土地代だけでかなり値が張る住宅が。
「庭ってゆーか、このエリア丸ごと私有地ってゆーか。
これでもブルジョワ寄りなもんなんで。」
屋台の店員風に配備された、マーケットだとかのNPCの前を通り過ぎ、木の板張りの海の家的な家へと入っていく。
中は中で、また大きく様相が違っていた。
コンパクトな外装とは裏腹に、石壁の地下基地のような間取り。下り階段へと繋がる廊下には、4つの小部屋がある。それぞれキッチンのような部屋、フラスコのある実験室、木材や織機のある部屋、炉のある部屋。それぞれクラフト職4種分という事だろう。
「ここが作業場か。」
「まぁな。作るだけなら携帯型作業台もあるけど、良いんだよ、専用作業台で作る時の演出が。
…ちょっと作業に集中するぞ。」
設置された炉に炎が灯り、鉱石素材が精製された金属板として台に置かれる。
キリのキャラが小さい体躯に分不相応な程に長いハンマーを構え、手早く叩いて形を整えていく。
ある程度形ができてきた所で、一旦手が止まる。調整の段階に入ったのだろう。
5秒ほどの思考の間ののち、叩く事数回。更に5秒程置いて、数回叩き。
それを繰り返し、金属の赤みが引いたところで、冷却水に移し。
成果を示す完成エフェクトは、無事金色の光を放っていた。
槍と斧の性質を併せ持つ新実装の武器、ハルバードが仕上がった。
「流石だな。」
「ま、シビアになったとはいえ基本は同じだから、こんなもんよ。
ただ、こっからは完全に確率お祈りの運ゲー、エンチャントだ。」
そう、装備の作成は2段階。ベースとなる武器自体の作成と、それに能力補正や特殊効果を付与するエンチャント。
武器の出来によってエンチャント・スロット数が増える、エンチャントの為に武器の出来が求められる。見学側としては、ここからがクラフトの本番と言っても過言ではない。
「効果は物理攻撃力でいいか?」
「あぁ、それで頼む。」
部屋を変え、フラスコの部屋。
絨毯として敷かれた魔法陣の中央にさっきのハルバードを置き、円周上に5箇所ある丸の中に魔石が置かれる。
「聞いたよ。例の呪い、解決できたんだって?」
赤い五芒星の魔法陣が地面に展開される傍ら、キリが聞く。
「まぁ、一応の解決、かな。」
「そうか。気がかりだったから、よかった。」
言葉の上では肯定的だが、言い方には何やら曇ったものを感じた。
「…なんかあったのか?」
「いや、ちょっとつられて思い出す事があっただけだ、なんでもない。」
輝きが増し、魔石それぞれが成功度の光を放つ。虹が3つ、金が2つだ。
「なんか随分当たってない?」
虹3枠だけでも十分なラインだというのに、残りも金2ときた。
「…ざっと相場で見て素材の15倍ってとこか。」
「やっぱ稼げんだな、クラフト職って。」
「いや、普段はかなり地道なもんだよ。ジンクスってやつ。
自分用とかフレ用に作るといいモンできんだけど、いざ稼ぎの為に量産ってなると、運が下振れたりでさ。」
取引申請を受け、あちらの渡す物枠に、今出来上がったハルバードが選ばれ表示される。
「だから、お前が使う為に作ったからこその一振りだ。遠慮なく使ってくれ。」
素材を抱え向かった先、猫獣人族のプレイヤー、キリのところ。通話を繋げ、街の中で待ち合わせ。
「一応言っておくが、高レベル装備は工程が難しいし、まだ実装直後で初動テンプレも定まりきってねぇ。金印成功率は良くて7割ってとこだ。」
金印、クラフトアイテムのグレードを示す通称だ。出来によってアイコンや名前に付く印から、金印・銀印・銅印と通称で呼ばれてる。
「失敗って言ってもロストする訳じゃないんだろ? なら出来は問わないよ。」
「…つってもプレッシャーかかんなぁ、もう。
とりあえずこんなとこでもなんだ、パーティリストからテレポートーチに跳べるから、そこ来な。」
言葉と共に表示されるパーティ勧誘通知。それを受け、言われた通りに場所を移す。
テレポートーチ、確かハウジングエリアに置ける、移動の着地マーカーだ。
ハウジングエリアはチュートリアルクエストで覗いただけだったが、広いエリア内に小分けされた土地があり、それをプレイヤーが買って好きに装飾できる要素だ。
外観を少し見て回るだけでも、シンプルな民家風の家やホイップクリームのようなメルヘンチックな家、砦のような家もあれば、機能家具の為だけと思われる家屋だけの家もあったりと、バリエーションに溢れすぎていた。
エリアも3種類、閑散とした村と街の住宅街と川沿いの集落風。
ロード時間の間に、キリならどこ選ぶんだろうと思いつつ。
着いた所はそのどこでもない、海岸だった。
「あれ、庭…?」
テレポートーチの設置…というか任意で物を置けるのは私有地である庭だけのはず。
…いや、確かセリフで説明されてたっけ。エリア丸ごと庭として自由にできる、土地代だけでかなり値が張る住宅が。
「庭ってゆーか、このエリア丸ごと私有地ってゆーか。
これでもブルジョワ寄りなもんなんで。」
屋台の店員風に配備された、マーケットだとかのNPCの前を通り過ぎ、木の板張りの海の家的な家へと入っていく。
中は中で、また大きく様相が違っていた。
コンパクトな外装とは裏腹に、石壁の地下基地のような間取り。下り階段へと繋がる廊下には、4つの小部屋がある。それぞれキッチンのような部屋、フラスコのある実験室、木材や織機のある部屋、炉のある部屋。それぞれクラフト職4種分という事だろう。
「ここが作業場か。」
「まぁな。作るだけなら携帯型作業台もあるけど、良いんだよ、専用作業台で作る時の演出が。
…ちょっと作業に集中するぞ。」
設置された炉に炎が灯り、鉱石素材が精製された金属板として台に置かれる。
キリのキャラが小さい体躯に分不相応な程に長いハンマーを構え、手早く叩いて形を整えていく。
ある程度形ができてきた所で、一旦手が止まる。調整の段階に入ったのだろう。
5秒ほどの思考の間ののち、叩く事数回。更に5秒程置いて、数回叩き。
それを繰り返し、金属の赤みが引いたところで、冷却水に移し。
成果を示す完成エフェクトは、無事金色の光を放っていた。
槍と斧の性質を併せ持つ新実装の武器、ハルバードが仕上がった。
「流石だな。」
「ま、シビアになったとはいえ基本は同じだから、こんなもんよ。
ただ、こっからは完全に確率お祈りの運ゲー、エンチャントだ。」
そう、装備の作成は2段階。ベースとなる武器自体の作成と、それに能力補正や特殊効果を付与するエンチャント。
武器の出来によってエンチャント・スロット数が増える、エンチャントの為に武器の出来が求められる。見学側としては、ここからがクラフトの本番と言っても過言ではない。
「効果は物理攻撃力でいいか?」
「あぁ、それで頼む。」
部屋を変え、フラスコの部屋。
絨毯として敷かれた魔法陣の中央にさっきのハルバードを置き、円周上に5箇所ある丸の中に魔石が置かれる。
「聞いたよ。例の呪い、解決できたんだって?」
赤い五芒星の魔法陣が地面に展開される傍ら、キリが聞く。
「まぁ、一応の解決、かな。」
「そうか。気がかりだったから、よかった。」
言葉の上では肯定的だが、言い方には何やら曇ったものを感じた。
「…なんかあったのか?」
「いや、ちょっとつられて思い出す事があっただけだ、なんでもない。」
輝きが増し、魔石それぞれが成功度の光を放つ。虹が3つ、金が2つだ。
「なんか随分当たってない?」
虹3枠だけでも十分なラインだというのに、残りも金2ときた。
「…ざっと相場で見て素材の15倍ってとこか。」
「やっぱ稼げんだな、クラフト職って。」
「いや、普段はかなり地道なもんだよ。ジンクスってやつ。
自分用とかフレ用に作るといいモンできんだけど、いざ稼ぎの為に量産ってなると、運が下振れたりでさ。」
取引申請を受け、あちらの渡す物枠に、今出来上がったハルバードが選ばれ表示される。
「だから、お前が使う為に作ったからこその一振りだ。遠慮なく使ってくれ。」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる