そして俺は召喚士に

ふぃる

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170話 確認と決断

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 数日経った、満月の日の夜。
 もしかしたら人狼の呪いは完全に解けたかも、なんて希望的観測もしたが、やはり先月と同じように強制変化は訪れた。

 全身の痛みを伴うのは相変わらずだが、思考は平静を保っている。
 これまでは正気を失っていたり、目の前に戦闘があったりで、他の事に気を回す余裕は無かった。
 だから、こうして落ち着いて「この状態」を体験するのは初めてだ。

 じんわりとした痛みはまだ残っているが、身体を動かして痛むという事は無い。
 まず目に映ったのは、灰色と白の毛に覆われ、武器に使えそうなほど鋭い爪を携えた両手。立ち上がる時に、足の爪がフローリングに当たり音を立てる。
 服に違和感があると思ったら、そうか尻尾か。下からのゴムの圧迫がきつくて、ちょっと痛い。確かキリとか自分で服に尻尾穴作ってるって言ってたっけ。けど、月に1回の為に用意するのは面倒かな……。
 外の雑草が風で揺れる音がやけに気になる。反射的に無意識に、そっちに向けて耳を動かしてるのを感じる。
 同時に、魔力の感知もロロと感覚共有してる時と同等。考えれば考える程、「狩り」に特化した身体能力。普段は使えないのが惜しいほどに。


 不意に響く、ベランダ側からのガラスのノック音。びくっとしながらそっちを見ると、自分より小柄な人狼が小さく手を振っている。
 誰だ、と最初は警戒したが、面影には見覚えあり。以前聞いた話から解答に至るまで、時間は要さなかった。
「ナナノハか? どうしたんだ?」
「満月の夜なので、一応安否の確認をと。
 体調など、お変わりないですか?」
「変わりないというか、変わりすぎたというか……とにかく大丈夫。
 てか俺としては、むしろそっちの姿の方が気になるんだけど。」
 頭身の低い人狼姿は、まるでマスコットのようだ。
「向こうに居た頃にも人狼の方を見かける事があったので、折角ならと。」
「どういう折角だよ。
 ていうかここで話すのもなんだし、中おいでよ。」
 もうとっくに暗い時間とはいえ、真夏の外気は暑かった。


「必要とあらば拘束を、とは言われましたが、不要のようですね。」
 エアコンがうなりを上げる中、先に切り出したのはナナノハだった。
「助かるけど言い方よ。
 ま、見ての通り問題ないよ。見た目はこれだから、外出はできないってくらいで。」
 話していてふと思った。集団意識が怪異としての強さに影響するなら、今の姿を晒して噂になれば、地力が上がるのでは?
 …いや、やめておこう。別の要素が混じる事でロロが制御できるか分からないし、何よりロロは嫌がるだろう。
「ボクとしては、多少異形な方が親近感ありますけどね。」
「…それはフォローでいいのか…?」

「それともう一つ。
 戦線復帰の話、どうしましょう?」
 いつだったかも聞いた問い。答えはもう決まっていた。
「やるよ。前に言ってた『掃討』ってやつ?
 集団戦なら俺も、戦力になれると思う。」
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