そして俺は召喚士に

ふぃる

文字の大きさ
上 下
163 / 231

163話 今の戦場②

しおりを挟む
 ナナノハと共に向かう、町から外れた林の奥。
 今日の日替わりボスレイドに近場が選ばれていた。その情報を見るのも、最早2ヶ月振りだ。
「なんか懐かしいな、この感じ。」
 日替わりボスレイドという名前を聞くのも、こうして道無き場所へと向かうのも、呪いを受けてからは無縁だった事だ。
「そう言っていられるのも今の内だと思います。
 あと、一応既に怪異記録の密集地なので、油断はしないよう。」
 言われるまでもなく、聴覚のように意識せずとも周囲の魔力状態は感じ取っている。強制的に。
 反応と言えるほどの存在は見当たらないが、湿度が高い時に似た重々しさ。辺り一帯の魔力が高いのを感じる。

「俺も前より戦えるようになってると思うけど、本当に手伝いはいらないのか?」
「はい、今日は見学回と思ってください。
 理由は2つあります。」
 ナナノハが指で「1」を示し、言葉を続ける。
「ひとつは、ボクの中での決め事。ボクの戦闘能力を、実際に見て知っておいてほしい。
 大規模破壊から擬態・暗殺も容易な能力なので、その面での疑念を持ってほしくない、全てとはいかずとも知った上で信頼してほしい。ボクなりの誠意と信頼の証というやつです。」
 続けて指で「2」を示し。
「もうひとつは、実戦的な話。この2ヶ月で情勢も大きく動いたので。
 一度現状を見て、その上で戦線復帰するかを判断するのを勧めます。」


 そして現地到着。
 ナナノハに言われなくても分かる。不自然に何かが通った後のようななぎ倒された木、感覚に意識を向けるとその先にある巨大な反応。
 川の流れる穏やかな音が、その異様さを際立出せている。
「ここで待っていてください。こちら側に居ると守れる自信も、巻き込まない自信もないので。」
 そう言い、川からいくつか飛び出している石を渡り、向こう側へと跳んでいく。


 以前にも見たように、ナナノハが片手を川に浸す。周囲の水がナナノハの支配下に入り、形を取って氷結し、4機の氷のバリスタを作り出す。
 林の中へと向かっていった痕跡の延長線上、反応のある場所へと氷の矢を曲射で撃ち込む。
 命中したのだろう、その先にある反応が立ち上がり、姿を現す。

 現れたのは木の丈を余裕で超える大熊。高さ15m?20m?距離が離れてるのもあって、目算があまり働かない。
 そこにもう1陣の氷の矢。けど、まるで効いてるようには見えない。
 それでも注意がナナノハに向き、道中の木を踏み倒しながらじわじわとにじり寄る。
 それを見て、ナナノハが数歩下がる。撤退の構えではない、屈み再び川に片手を浸す。直後、ナナノハの姿から色が抜け透明に。単なる水となって川に流れ込む。
 すると、その地点より下流が逆流し、水が集まっていく。
 それがいくつもの柱のように立ち上り、氷の頭蓋を被った多頭の巨大な蛇のような姿になる。

 大熊の体躯任せの剛腕の薙ぎが、5本になった水蛇の首の内3本を弾き水しぶきへと帰す。
 しかし残る2本が大熊の両腕を捕らえ、落ちた頭蓋もそれを目印に新たな首が映えてくる。それどころか追加で1本、合わせて4本の首が追撃にかかる。

 予想を超える規模の増大だった。魔界に滞在した時の事を思い出すほどの。特撮映画でもみてるかのような。
 正直、仮に自分があの場に参戦したとして、果たして戦力になれるのだろうか?

 戦況は常にナナノハが有利な展開だった。
 ナナノハの拘束力は、首1本や2本で大熊を押さえ付けられる程ではない。捕らえたそばから剛力で振り払われる。
 けど、ナナノハを負かす弱点になるものが、傍から見てても分からない。勝利条件の分からないまま、大熊からの攻めに出れていない。
 そして時間が長引くほど、川の水を取り込み続けてるナナノハに有利になっていく。
 8本まで増えた首が、大熊を囲う。2本の首の拘束を逃れ下がった先は、また別の首だった。
 拘束から逃れた先での拘束、万全でない体勢でのそれは、形勢を動かすのに十分だった。

 絡み合う首が溶け合い大きな水の塊となり、氷結し。
 残り1本の首、その鼻先に作られた大きな氷の棘を、避ける事は叶わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...