そして俺は召喚士に

ふぃる

文字の大きさ
上 下
159 / 231

159話 戦力として②

しおりを挟む
 当日。場所はソウクロウの方から指定があった。
 これまで何度か来たソウクロウたち陰陽師の活動拠点、明穏寺院。表向きは普通の寺社としてるとの事で、林の中にぽつりとある立地の神秘さからその手の界隈では有名らしく、辺鄙へんぴな場所にも関わらず休日にはそれなりに人が来るのを見かけている。
 その裏、木々に阻まれ寺社がギリ見えなくなる場所。隠されるように、この広場はあった。


 最後に時間を確認した時点で、これまでの変化始まりの時間まで1時間切っていた。
 広場の隅にはソウクロウとハルル。…こっちから頼んでの事とはいえ、こうも注視されてるとやり辛いな。

 いつものようにウルフを顕現、そこに勝手にロロの意思が出力される。電源の入れられたロボットのように勝手に動き出し、バックステップで一歩引く。
 遠巻きながらも居るのを把握できない訳が無い場所にいるハルルに無反応なのは、俺の方が意識の優先度が高いのか、それとも満月が近いのが影響してるのか?
 なんだっていい、こうして俺に敵対心を向けてくれるだけでも十分。

「あまり時間は無い、始めろ。」
 ソウクロウの合図。言われるまでもなく先手を取り飛び掛かるロロを、咄嗟に作り出した長柄の斧で弾く。
 制圧、自分の方が上と認めさせる方法、考えはある。ハルルの時のように、物理的に上を取って押さえ付ける。
 その為に、この拮抗状態を破り接近する必要がある。スタミナで粘り勝つか、隙を見つけて叩き落とすか?
 2回、3回と同じように。前と違って地面以外の足場が無い分動きは単純、反撃を入れるのは簡単。
 4回、5回。思考にも余裕がでてきた。どう仕掛けようか。
 6回目、といこうとしたその時だった。瞬間的に感じ取った、何らかの気配。それはロロも同じようで、攻撃を中断する。

「…乱入者か。」
 とつぶやくソウクロウ。目配せを受けたハルルがそちらへと向かう。
 手際に呆気にとられるところに、今度はソウクロウがこちらに向けて。
「貴様は目的を遂行しろ。上利田はその為に──」
 …なんて言ってる間に、ロロはそっぽを向きハルルを追っていく。
「くっ、仕方ない…追うぞ。」


 ハルルを追ったロロを追い、木々の茂る場所へ。
 視界が悪い中、剣を振れる程度の隙間を陣取るハルル。その周囲に群がる気配の正体、なんだろう、黒いモヤモヤに包まれた蛇の群れ?
「あれは一体…?」
「小妖怪の一種だな。時折迷い込むのだ、恐れを成さぬ下位なる者が。
 だが数が多い。手は尽くすが時間がかかる。」

 黒蛇の何匹かハルルに飛び掛かる。振るわれる剣が、軌跡に残る風が、襲い掛かるそれを霧散させる。
 しかし全ては討てていない。被弾にこそ至っていないのは流石ではあるが、場所の狭さもあってかなりギリギリ。
 とか思った矢先だった。死角からの突撃がハルルの腕に噛み付く。
 瞬間、そこに電撃。ハルルの術だろう。だけど自傷はしないなんて都合のいい話は無く、軽い火傷の跡。
 間を開けず黒蛇の追撃、数匹の塊が飛び掛かる。

 だけどそこに乱入者。身を隠していたであろうロロが黒蛇に不意打ち、その牙が一団を捉える。
 それを見て反撃を中断したハルルがこちらに気付く。
「ユートさん! どうして!?」
「悪い、ロロがそっち行っちゃってそれで。
 大丈夫か?」
「…正直、多数の相手は苦手です。
 でも、そういうのって挑んでこそでしょう?」
 自分との手合わせでは見せなかった、挑戦者の眼差しだ。
 けどみるからに苦戦。わずかな傷でも、蛇型という事は毒やそれを模した呪いがあるかもしれない。
 その状態で数の暴力の長期戦は、好ましいものではないだろう。

 優先度なんて考えるまでもない。加勢の為に駆け出す。
 だが不意打ちの痛みでよろけ、近くの木に手をつく。黒蛇の攻撃ではない、呪いのものだ。
 想定より大分早い。呪いを受けた部位由来だろう、左手の先から全身に広がってく痛み。
 立っているのがやっとな程のまま、自分のものではない何かが垣間見える。
 これは、ロロの思考…?

 …そうか、分かった。
 怒ってるんだな、お気に入りを傷つけられて。
 その想いを、ロロを、わざわざ否定する必要もない、か。
 俺だって「大事な人」の中にハルルがいるのは確かだ。
 だから、一緒に戦おう、ロロ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~

雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。 新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。 助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。 彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。 『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。 女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。 この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。 だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。 ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。 噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。 その資金源も目的もわからない。 不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。 その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。 だが、ジルドランは人間。娘は魔族。 血が繋がっていないことは明白。 いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮
ファンタジー
妻に先立たれた 後藤 丈二(56)は、その年代に有りがちな、家事が全く出来ない中年男性。 独り身になって1年ほど経つ頃、不摂生で自分も亡くなってしまう。 が、気付けば『切り番当選者』などと言われ、半ば押しつけられる様に、別の世界で第二の人生を歩む事に。 再び妻に巡り合う為に、家族や仲間を増やしつつ、異世界で旅をしながら幸せを求める…………話のはず。 独自世界のゆるふわ設定です。 誤字脱字は再掲載時にチェックしていますけど、出てくるかもしれません、すみません。 毎日0時にアップしていきます。 タグに情報入れすぎで、逆に検索に引っかからないパターンなのでは?と思いつつ、ガッツリ書き込んでます。 よろしくお願いします。 ※この話は小説家になろうさんでアップした話を掲載しております。 ※なろうさんでは最後までアップしていますけど、こちらではハッピーエンド迄しか掲載しない予定です。

処理中です...