そして俺は召喚士に

ふぃる

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152話 試行錯誤⑥

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 不意に、ウルフの接続が切られる感覚。だけどウルフが消失した訳ではなく、まだそこにいる。
 独立して動き襲い掛かってくるウルフを、咄嗟に長柄の斧を作り出し、柄で防御。
 こんなファーストコンタクトにはなったが、確かに「自分でない何か」がウルフに宿っていた。

 柄に噛み付くウルフを押し返す。弾いた体躯は空中で身をひねり、爪の音を僅かに響かせフローリング上に軽やかに着地する。
 思惑は通った。次のプランを考える為、一旦ウルフを戻す。

 …戻せない。拒否された? 例えるなら回線切れのような感覚。
 ウルフは消滅せず、少しの距離を空け、こちらに警戒の様子を見せている。
 術に慣れて、召喚の維持時間も伸びてきている。とはいえこちらの操作を受け付けない状態、それでいて維持の為の魔力が俺から取られているんだとしたら、それはまずい状況。
 それに、ここで暴れられると部屋が大変な事になってしまう。

 …けど、鎮圧するにもどうやって?
 自分のこの斧の戦闘スタイルは、ウルフを従える事を前提としたもの。小回りを要する事をウルフに任せ、それで足りない威力を補う為の斧。
 つまりウルフがこちらにいない今、斧だけでの戦闘なんて、不完全もいいとこだ。加えてリーチと威力と防御の為の長い柄も、部屋という狭さの中では裏目でしかない。

 なんて考えてる間に、ウルフの跳躍。
 策を練る猶予なんて無い、斧の刃を逆にして振るう。
 手荒な手段にはなってしまうが、とにかく暴れさせたくはない。刃の背面がウルフを捉える。
 けど手応えが無い。斧を足場とし、ウルフが更に上へと跳躍する。
 とはいえそこまで高さに余裕は無い天井、進行を邪魔する位置に置くように、斧を振る。
 再びウルフが斧を足場に反転跳躍、少し離れた所に着地する。位置取りが丁度いい、ウルフの背後にキッチンそして玄関側。
 とりあえず目的のひとつ、部屋荒らしは阻止できそうだ。

 だけどそれはそれで余計に狭い場所、こっちの武器には不利。
 せめてもとエンパイアハントで使ってるものと同じように、長さ普通の斧に。この短さに、懐かしさを感じる。
 こちらから詰め寄ると、警戒して寧ろあちらが引いてくれる。
 けどそれだけで追い詰めるには至らない。途中で意を決したように、不意に踏み込んでくる。
 どうにか反応し、同じように斧の背で迎え撃つ。やはり手応えは無くウルフは壁蹴りのように跳ね、玄関のドアを足場に再び仕掛けてこようとする。

 けどそこで想定外の事。ドアを蹴ろうとしたウルフの足が、僅かなずり落ちの時にドアノブに引っかかる。
 壁蹴りは勢いを失い不発。不安定な体勢の空中から、着地と同時に飛びのく。
 その退路にあったはずの障壁は、先ほどの蹴りで開け放たれていた。

 …まってそれはそれでヤバい。逃げられたら捕縛が無理なんてもんじゃない。
 誰か頼ろうにもそんな余裕──

 …いや、既にそこにいた。物音から様子を身に来たのだろう、玄関脇までハルルが来ていた。
 ハルルの方が邪魔と判断したのだろう、ウルフがハルルの方に襲い掛かる。声をかける猶予なんて無いままに。

「えっと……これはどういう状況なのでしょうか?」
 だがそんな心配なんていらなかったらしい。
 事は一瞬、ウルフを地面に押さえ付ける形で制圧完了していた。
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