そして俺は召喚士に

ふぃる

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92話 真夜中の会合①

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 年の末日、夜の屋外。
 暖冬ながらも、指先に寒さが染みてくる。

 大通りから少し外れた場所、学校近くの神社だ。
 「ついでの事」もあり、ここで待ち合わせだ。
 最近は年越しだからって何か意識する事も無かったけど、いざこうして「それっぽい事」をしてみると、これはこれで案外悪くない雰囲気。

 街灯は入り口付近だけ照らし、奥の方は闇に溶けてよく見えない。
 それでも怖さは感じない。むしろ安心感すらある。
 ここに住む「怪異」を、既に知ってるからだろう。


「こんなとこに居ても、なんも面白くねーぞ。」
 思考に浮かぶや否や、本人の登場。
 青白く光る霊狐、この神社の神の使いだ。
「待ち合わせだから別にそれは構わないんだけど。
 …とはいえ、年越しで何かやったりはしないんだ?」
「前は甘酒酌み交わしたりして談笑の場になってたんだがなぁ。
 年々人が減って、身内だけで盛り上がるようになっていって、今頃もっと快適な所で楽しんでるんだろうよ。」
 そう言いながら、目線はどこか遠くを見ていた。

 ついでとはいえ折角こうして来たんだ、指先の感覚で財布から小銭を選別する。
 そうして取った500円玉を、わずかな光を頼りに賽銭箱へ。
「うおっ、なんか音重くなかったか今!? お前何を!?」
 自分には違いは分からないが、音の聞き分けか妖力的な感知か、反応の早さにむしろこちらも一瞬びびる。
「何って、願い事だよ、折角なんだし。」
「なんだよ、また『魔法が使えるようにー』とか言うのか?」
 半笑いのその返答はバカにしてるというより、薄れゆく神社への関心への自嘲に聞こえた。
 心霊スポットは人々の思念から強大になると聞いた、その逆もあるとしたら……。
「そうだな、『もっとうまく使えるように』、だけどな。
 …何かが起こってるのは分かってる。その結果どう動くとしても、何が起こるかは知っておきたい。それができるくらいには、魔術で自衛できるくらいになりたい。」
「それでいいんだな?」
「追加したくなったらまた来るよ。」
「なんだ、ちゃんと欲張りじゃん。」
 そう言い、狐が鳥居の上に乗る。

「久し振りの上客だ、とっておきのをやってやる。
 一度外に出てみな。」
 何やら手立てがあるらしい、言われた通りに来た道を戻る。
 鳥居の上で、狐が何度か跳び跳ねる。次第に鳥居が不思議な光を纏い、輝いていく。
「いいぜ。こっちに来てみな、鳥居を通ってな。」
 そう言い、狐が向こう側へと降りる。
 ちょっと緊張する、けど誘われるままに鳥居をくぐる。

 違和感と、奇妙に見えるその風景。
 暗かったはず、でも見える。奥の社の輪郭が。
「さぁ、こっちだ。自分の形をしっかりイメージしながら歩くんだ。」
 事前に聞いていたならば、意味が分からぬ事だろう。
 だけど今ならよく分かる。形失うこの世界。
 魔術になぞらえイメージしてみる。奥へと歩く、自分の姿。
 失せた感覚戻って来、賽銭箱の前に立つ。
「ここは一体…?」
常世とこよとか幽世かくりよと呼ばれる場所、お前達の現世うつしよとは、実体と霊体が逆の世界だ。」
 少しずつだがこの場所に慣れ、意識に余裕。見えた狐は実体のよう。純白の毛が、夜風になびく。
「さぁ、今一度言葉にするんだ。お前の願いを。」
 一呼吸、気持ちを静め、意を決す。
「…俺は、戦えるだけの力が欲しい。
 事の成り行きまで関わって、結末を見届けられるだけの力を。」
「それだけでいいのか? もし終焉を目の当たりにしたら、それだけで納得できるのか?」
「それは……。」
 イメージが、やたら綺麗に脳裏に浮かぶ。
 力尽き倒れ地に伏すハルルの姿、後ろで見てる自分の姿。
「…せめて、俺も抗いたい。そんでできる事なら、打ち勝つ為の戦力になりたい。
 それだけの力が欲しい…!」
 流れるように、自然と出てきたその言葉。
 無意識に、奥に隠した願い事。
「いいね、その魂の声に、ちょっとした力添えをしてやろう!」
 上方の、鈴より落ちる一滴ひとしずく
 触れた途端に粒子となって、自分を包み、またたいている。
「答えの鍵は『名を与えよ』だ。
 さ、自分の形を失う前に、こっちだ。」
 再び狐が鳥居に登る。意図汲む暇は無いらしい。
 朱色あけいろに輝く鳥居を抜けた先は、いつもと変わらない風景だった。
 鳥居の上の狐は青白く輝き、満足げな様子で伏している。


 丁度、ショウヤ達3人が向かってくるのを遠くに見かける。

 今のところ、あの光で何かが変わった感じはしていない。
 けど、あの空間の影響なのか、言葉として引き出された、無意識に閉じ込めていた自分の願い。
 漠然としていた道筋に、ひとつの目標地点ができた。
 それが見えただけでも、なんだかすっきりした。

「おう。何かあったのか?」
 というショウヤの問い。
「いや、ちょっと変わった体験をしただけだ。」
「なんだよもう、そんな勿体ぶりやがって。」
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