そして俺は召喚士に

ふぃる

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79話 明るみ⑦

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 力なく垂れた蔦が、切った所から導火線のように霧状に消えていく。
 結構無茶をしたと思ったのに、前ほどの疲労感は無い。

「動きに迷いが無いな。いい経験をしたと見える。」
「まぁ…な。」
 背後からのソウクロウの声に、必要最低限の返答。
 確かにあれは「いい経験」だった。
 行動の指標を見つけるには、十分すぎるほどに。

「しかしその地図の、確かゲームであると言っていたな?
 本当に娯楽として作られたものなのだろうか…?
 ……それとも単なる偶発作用か?」
 傘を片付ける傍ら、ソウクロウが言う。
「いや、怪しさは俺も感じる。
 張ってたって場所、警戒区域とか言ってたよな。その場所、このアプリの期間限定イベントで注目される場所だったんだ。」
「故にその場所にいた、と?」
「あぁ。
 で、知ってるとは思うけど、大事おおごとになっていた。
 …他の場所がどうだったかは知らないから、『そこだけが』かどうかは分からないけども。」
「確かに、あの夜に活発化した場所は、他にも多数あった。が、最も激しかったのはあの場所だった。
 …そのゲーム、確か霊的な場所を奪い合う、のだったか?」
「そうだけど、それがなにかあるのか?」
「このような現象は大衆の存在認知、そして根幹的な畏怖。
 例えばこの『くくり蔦』で言えば、誰かが遭難し野生動物か霊的干渉か、原因は何にせよ負傷したという事実。
 それに無い話も拡張され、恐れられる事で霊的な力を蓄える。そして踏み入った者への実害も増す。
 そしてそれが恐れる話としてさらに広まる。その繰り返しの果てだ。」
「じゃあ、このアプリで注目度が上がるのって…?」
「そうだ、いびつな形だが霊的な力が集まる要因になりうる。」
 憶測でしかなかったものが、確信へと変わっていく。
 このアプリが話題に上がり始めて、まだそんなに経ってはいない。
 その影響が出るというのなら、まだまだこれから。

「だからひとつ頼みがある。
 その…力を貸してほしい。」
 こちらからの提案。珍しく、ソウクロウの驚きの表情。
 だが、数秒後にはいつもの底の見えない笑みに。
「…ほう? まさか貴様から提案するとはな。
 ならば聞かせてみよ、貴様の展望を。」
 知ってる所で、知らない事が起ころうとしている。
 ならば自衛するとまでは行かずとも、せめて事の把握くらいはしておきたい。
 けど、その為には……。
「それを決める為にも、今はただ同意が欲しい。
 …無茶な事言ってるとは思うけどさ。」
「いいだろう。その話、乗ってやる。
 ただし、あまりにも不条理な要件であったなら、撤回して降りる。
 それでよいな?」
「あぁ、助かるよ。」
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