そして俺は召喚士に

ふぃる

文字の大きさ
上 下
31 / 231

31話 救援③

しおりを挟む
 数日後、キリは無事回復したようで。
 それなりに人望はある故か心配してた人は多く、でもそれぞれと深くはないようで軽い挨拶に忙しそうで。
 中々話すタイミングが無いまま時間は過ぎ。
 ともあれ無事なら良かった。そう傍観で通そうと決め込んだ昼休みにスマホの通知は来た。

 飯を済ませた後、そのメッセージにあった場所、この時間には人通りの無い駐輪所前へ。
 ちょっと予定時間から遅れてキリが来る。
「…悪いな、呼び出す形になっちまって。」
「いや、どうせ暇してただろうし別に。」
「やっぱ世話になったし、中途半端にはしたくなくてさ。返すもんもあるし。
 …助かった、ありがと。」
 実際自分が動いたのは初日だけだったが、ハルルとの仲介として役に立てたのならよかった。

「ところで、ハルルとはどうだったんだ?」
「それなんだけどさ……。」
 キリの方としても溜め込んでた話のようで、身を乗り出しながら続ける。
「エルフは予想外すぎてなんていうか、こう…!」
 言葉を選びすぎて、何も言えない状態のようだ。
 そして結局諦め、切り替える。
「……まぁ悪い奴じゃないってのは分かった。」
「何かあったのか?」
「いや、うちの個人的な問題だ。気にしないでくれ。」
 誤魔化すように、立て替えてた分を手渡される。
 そう言われると余計に気になるが、深入りはやめておこう。


「で、まぁ、なんだ、貸し作ってそれっきりってのも悪いし。」
 何か礼になるような事とか、ないか?」
 別にそういうつもりは無かったが、気持ちは分からんでもない。
 ならばとずっと前から、ほんのり気になってた事を。
「じゃあ、尻尾触ってみていいか?
 …あ、嫌ならいいんだけど。」
 キリの慌てた反応を見て、こちらも慌てて言葉を足す。
 でもこんな豊かなもふもふを見たら触ってみたくなってしまう。それを解消しなければ、今後も気になり続けてしまうだろう。
「いや、慣れない事だから戸惑っただけだ。
 …別にいいぞ。」
 ベンチの上で揺れ動いた尻尾が、指先に当たる。こちらも手を寄せ、その内に触れる。
 より一層ふわふわな被毛に、その中の芯の部分。触れた時にびくっと揺れ、先端の方の毛が手首あたりまで包み込む。
 普通の動物なら嫌がるような場所を触らせてもらってる。自分で頼んどいてだが、妙な背徳感。
「こうして人間に紛れて暮らしてるからさ、違和感が出ないよう自分自身でも人間って思いこむようにしてるし、ばれた事なかったから周りからも人間として扱われてきたんだ。
 だからこうして化狸として扱われる事は無くて、なんか妙な感じ。」
「そっか。そういう扱いして、なんかごめん。」
「別にいーよ、無暗に人に話したりしなけりゃ。
 あと…一応、女子のお尻の延長線上だぞ?」
「え、あ、ごめん!」
 確かに、と思い、慌てて手を放す。
「いーんだよ、こっちは気にしてないし。」
 からかわれてるな、これ。
「がっつり休んだらなんか吹っ切れたっていうかさ、思考リセットされた感じ。
 無自覚の内に、隠す事に疲れてたんだろうな。」
 すっきりして、自然な様子。
 やっとキリの事を、ちゃんと知れた気がした。

「あーそういやさ、今ふと思い出したんだけど。」
 改まり、キリが言葉を続ける。
「魔法を使えるようになりたい、そんな感じの事言ってたよな?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~

雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。 新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。 助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。 彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。 『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。 女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。 この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。 だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。 ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。 噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。 その資金源も目的もわからない。 不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。 その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。 だが、ジルドランは人間。娘は魔族。 血が繋がっていないことは明白。 いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...