そして俺は召喚士に

ふぃる

文字の大きさ
上 下
8 / 231

8話 実地調査③

しおりを挟む
 そこには、小さな石造りの祠があった。
「これは…?」
「祠…神様の住家だよ。」

「神様の…そんな大層なものが、どうしてこんなところに?」
 その古びた祠を観察しながら、ハルルが聞く。
「日本の考え方のひとつだけど、八百万の神がいるって言われるからね。」
「ヤオヨロズ?」
「字で書くと800万…だけど意味合いとしては『数えきれないくらいたくさん』。どこにでも神様はいる、って考え方だよ。
 だからここも、昔は普通に人が通るような場所だったんじゃないかな。」

 その向こうで、さっきの火の玉がふらふらと浮いている。
「じゃあこの方がその神様…そもそも同じに見えてるのでしょうか? 私には青い炎に見えてますが。」
 ハルルがぐいっと寄って観察しようとする。
 けど、火の玉が逃げるように祠の裏へ。
 その時の空中を跳ねるような動きが、小動物のように見えた。
「今回は俺にも同じように見えてるな。青い火の玉だ。」
 だけど自分を避けるような様子は無く、手を差し伸べても逃げたりしない。
「…私、嫌われてるのでしょうか?」
「というよりは怖がられてるんじゃない? ここにとってハルルは異質そのものだろうし。」
 思い返せば霧もこの場を隠し、その後逃げていたような?
 …いや、だとしたら何故祠に着いた? ただ逃げる先がここだっただけ?
 あるいは逆に──
「では、下手に刺激してしまう前に去った方がいいのでしょうか?」
「…いわゆる『よくあるパターン』が魔法的には現実になるんだよな?」
「そうですね、順当な存在であれば。」
「じゃあ、俺達は『ここに連れて来られた』んじゃないかな。」
 形の無い青い主が、祠の上でアピールしている。
 根拠に自信がまだ持てないが、思った事をそのまま。
「神様って、存在は信仰で成り立つから、こういう小さい神様は忘れられたら衰退しかないんだよ。
 だからたまたま領地に立ち入った自分達を呼び寄せたんじゃないかなって。」

「けど、連れて来られたからって、何をすればいいのでしょうか…?」
「そうだな…ちょっと待ってて。」
 再びスマホで情報検索、祠、参拝、作法。いくらかの情報を纏める。
「えーと『悪神の可能性もあるからお参りはしない方がいい』らしいけど…お前は違うよな?
 特に決まった形式は無いから、合掌が無難だって。」
「そんな曖昧な儀式なのですか?」
「儀式というか…これもよく言われる事だけど、祈りは行動より心。『作法を守ろうと思う事』が大事なんだよ。」
「なるほど、魔術に似通る所がありますね。詠唱の使い手から、そういった話を聞いた事があります。」

 祠に向かって手を合わせ、ハルルもそれを見て真似る。
 恐る恐るながらも、火の玉がハルルの周りで踊る。
「どうやら、歓迎されたようですね。」

 霧が晴れ、火の玉も姿を消す。
 ハルルはまだ調べたいと言うが、自分にはもう何の変哲もない林にしか見えなくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...