そして俺は召喚士に

ふぃる

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8話 実地調査③

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 そこには、小さな石造りの祠があった。
「これは…?」
「祠…神様の住家だよ。」

「神様の…そんな大層なものが、どうしてこんなところに?」
 その古びた祠を観察しながら、ハルルが聞く。
「日本の考え方のひとつだけど、八百万の神がいるって言われるからね。」
「ヤオヨロズ?」
「字で書くと800万…だけど意味合いとしては『数えきれないくらいたくさん』。どこにでも神様はいる、って考え方だよ。
 だからここも、昔は普通に人が通るような場所だったんじゃないかな。」

 その向こうで、さっきの火の玉がふらふらと浮いている。
「じゃあこの方がその神様…そもそも同じに見えてるのでしょうか? 私には青い炎に見えてますが。」
 ハルルがぐいっと寄って観察しようとする。
 けど、火の玉が逃げるように祠の裏へ。
 その時の空中を跳ねるような動きが、小動物のように見えた。
「今回は俺にも同じように見えてるな。青い火の玉だ。」
 だけど自分を避けるような様子は無く、手を差し伸べても逃げたりしない。
「…私、嫌われてるのでしょうか?」
「というよりは怖がられてるんじゃない? ここにとってハルルは異質そのものだろうし。」
 思い返せば霧もこの場を隠し、その後逃げていたような?
 …いや、だとしたら何故祠に着いた? ただ逃げる先がここだっただけ?
 あるいは逆に──
「では、下手に刺激してしまう前に去った方がいいのでしょうか?」
「…いわゆる『よくあるパターン』が魔法的には現実になるんだよな?」
「そうですね、順当な存在であれば。」
「じゃあ、俺達は『ここに連れて来られた』んじゃないかな。」
 形の無い青い主が、祠の上でアピールしている。
 根拠に自信がまだ持てないが、思った事をそのまま。
「神様って、存在は信仰で成り立つから、こういう小さい神様は忘れられたら衰退しかないんだよ。
 だからたまたま領地に立ち入った自分達を呼び寄せたんじゃないかなって。」

「けど、連れて来られたからって、何をすればいいのでしょうか…?」
「そうだな…ちょっと待ってて。」
 再びスマホで情報検索、祠、参拝、作法。いくらかの情報を纏める。
「えーと『悪神の可能性もあるからお参りはしない方がいい』らしいけど…お前は違うよな?
 特に決まった形式は無いから、合掌が無難だって。」
「そんな曖昧な儀式なのですか?」
「儀式というか…これもよく言われる事だけど、祈りは行動より心。『作法を守ろうと思う事』が大事なんだよ。」
「なるほど、魔術に似通る所がありますね。詠唱の使い手から、そういった話を聞いた事があります。」

 祠に向かって手を合わせ、ハルルもそれを見て真似る。
 恐る恐るながらも、火の玉がハルルの周りで踊る。
「どうやら、歓迎されたようですね。」

 霧が晴れ、火の玉も姿を消す。
 ハルルはまだ調べたいと言うが、自分にはもう何の変哲もない林にしか見えなくなっていた。
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