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1話 新しい日常①
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電車を降り、改札を出て。
大荷物を脇に、しばらく座りっぱなしでなまった身体を、ぐぐっと伸びをしてほぐす。
開けた空、程よく涼しい春風が吹き抜ける。
見渡す駅前には、数件の飲食店を含む建物がいくらか点在している。
しかしそれ以上に空き地が多く、管理の甘い雑草が散らかっている。
さらに遠方を見渡せば、緑茂る山まである。
田園があるような田舎ではないが、郊外と言えるほど足りてるわけでもない。
そんな僻地が、高校受験を軽んじた自分の流れ着いた場所だった。
近場の高校に悉く落ち。
どうにか受かっていたのが、滑り止めで受けていた1校だった。
都会の実家から電車で約2時間、流石に毎日のように往復する訳にはいかない。という事で、近くのアパートで、これから一人暮らしだ。
一応地図と外観写真はスマホにローカル保存してきたが、別に電波が届かない事も無く、その心配は杞憂に終わった。
8世帯サイズの所の、やっすいワンルームだ。
こんなロケーションで不安もある反面、かつてない自由度への期待でモチベを保たせている。
運よくすぐ着たバスに乗り、ここから20分程。
改めて経路を確認。バスを降りてコンビニを目印に小道に入って……が近い道。大通りを複数経由すれば、道はシンプルだが遠回り。
折角だから風景も見たいし、なによりまずは確実に到着したい。後者のルートにしよう。
アナウンスが目的地「早庭町」の名を告げ、車内のボタンを押す。
大きな川を渡り、少し進んだ所で停車。降りて地図と照らし合わせ、方向を確認する。
川と逆方向へ行き、次に交差する大通りを左に、を2回。道の対岸にガソリンスタンドが見えたら、その次の小道を入れば到着。
流石に道に迷う事は無いだろう。
バスが去る音が、静けさの中に響く。すれ違いのトラックの音を最後に、圧倒的な静寂に包まれる。
見渡す限り人気がほとんど無い。歩行人も、車両も、どっちとも。
それだけに、眼前の困りげな女の人が、余計に目立つ。
深めに帽子をかぶり、その背の向こうでは長い銀色の髪が、神秘的な輝きとともに揺らいでいる。こんな所に外国人だろうか?
不思議がりながら見とれてしまったところに、その人がこちらに気付き、小走りで寄ってくる。
帽子で陰る中で、桃色にきらめく目が印象的だった。
「スミマセン。バステーとは、どこでスか?」
何かの幻想かと疑いかけたところだったが我に返り、咄嗟の答えを返す。
「それなら、あそこのベンチがある所ですよ。」
「アリガトゴザイマス!」
笑顔ののち、その人がバス停へと駆けていく。
丁度その時、不意の風に煽られ、その人の帽子が飛ばされる。
それを拾う横顔、その耳はいわゆるエルフのようにとがってるように見えた。
大荷物を脇に、しばらく座りっぱなしでなまった身体を、ぐぐっと伸びをしてほぐす。
開けた空、程よく涼しい春風が吹き抜ける。
見渡す駅前には、数件の飲食店を含む建物がいくらか点在している。
しかしそれ以上に空き地が多く、管理の甘い雑草が散らかっている。
さらに遠方を見渡せば、緑茂る山まである。
田園があるような田舎ではないが、郊外と言えるほど足りてるわけでもない。
そんな僻地が、高校受験を軽んじた自分の流れ着いた場所だった。
近場の高校に悉く落ち。
どうにか受かっていたのが、滑り止めで受けていた1校だった。
都会の実家から電車で約2時間、流石に毎日のように往復する訳にはいかない。という事で、近くのアパートで、これから一人暮らしだ。
一応地図と外観写真はスマホにローカル保存してきたが、別に電波が届かない事も無く、その心配は杞憂に終わった。
8世帯サイズの所の、やっすいワンルームだ。
こんなロケーションで不安もある反面、かつてない自由度への期待でモチベを保たせている。
運よくすぐ着たバスに乗り、ここから20分程。
改めて経路を確認。バスを降りてコンビニを目印に小道に入って……が近い道。大通りを複数経由すれば、道はシンプルだが遠回り。
折角だから風景も見たいし、なによりまずは確実に到着したい。後者のルートにしよう。
アナウンスが目的地「早庭町」の名を告げ、車内のボタンを押す。
大きな川を渡り、少し進んだ所で停車。降りて地図と照らし合わせ、方向を確認する。
川と逆方向へ行き、次に交差する大通りを左に、を2回。道の対岸にガソリンスタンドが見えたら、その次の小道を入れば到着。
流石に道に迷う事は無いだろう。
バスが去る音が、静けさの中に響く。すれ違いのトラックの音を最後に、圧倒的な静寂に包まれる。
見渡す限り人気がほとんど無い。歩行人も、車両も、どっちとも。
それだけに、眼前の困りげな女の人が、余計に目立つ。
深めに帽子をかぶり、その背の向こうでは長い銀色の髪が、神秘的な輝きとともに揺らいでいる。こんな所に外国人だろうか?
不思議がりながら見とれてしまったところに、その人がこちらに気付き、小走りで寄ってくる。
帽子で陰る中で、桃色にきらめく目が印象的だった。
「スミマセン。バステーとは、どこでスか?」
何かの幻想かと疑いかけたところだったが我に返り、咄嗟の答えを返す。
「それなら、あそこのベンチがある所ですよ。」
「アリガトゴザイマス!」
笑顔ののち、その人がバス停へと駆けていく。
丁度その時、不意の風に煽られ、その人の帽子が飛ばされる。
それを拾う横顔、その耳はいわゆるエルフのようにとがってるように見えた。
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