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序章 突然異世界に召喚されました

藤村悠牙は色々揃えたい

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 王城を出た俺は、特に行く場所もなくブラブラとしていた。
 街の様子は賑わっており、誰が見ても平和だと言えるだろう。とても魔王からの侵略を受けているとは思えない。

「まずは剣が欲しいよなー。戦うことは無いと思うが、念には念を入れて買っとくか」

 この世界の物価がどれくらいかはわからないが、あの騎士の人がかなりの大金だと言ったんだ。剣を一本買ったところで無くなりはしないだろう。

 そして俺は、度々街の人達に武器屋の場所を聞きながら歩き、ついに武器屋にたどり着く。
 武器屋に着くとすぐに中へと入り、中にある物とその値段を確認する。

「鉄の剣が銀貨五枚……銅の剣が銀貨一枚……そして俺が持つ金は……とりあえずいっぱいっと」

 正直、銀貨とか金貨で表記されても全くわからない。ただ、俺が持つこの巾着袋の中には金貨が沢山入っている。
 とりあえずわかる事として、恐らく金貨が一番この世界では価値が高い硬貨だということだ。それ以外はわからない。

 とりあえずは剣を探すことにする。どうせならば、安い剣を買ってストックするなんてことはせずに、一気に強くて長持ちする剣を買いたい。

「お、あれなんてどうだ?」

 俺が目を付けたのは、壁にかけられている独特な装飾とデザインのグリップにガード。そして装飾に合ったシンプルな刃。その見た目とデザインからは、男ならば一度は見てみたいと思う魔剣のような雰囲気を漂わせ、一言で言うならばかっこいい剣であった。
 値段も金貨十枚とそこそこすることから、かなり頑丈で長持ちするだろう。俺が求めていた剣の条件がバッチリ合っている。

「おっちゃん、あの剣を買いたい!」

 これしかないと思った俺は、考えるよりも先に買ってしまえと武器屋の店番をしているおっちゃんに話しかけた。

「ん、あの剣か。お前さん、本当にあれを買うのか?」
「別にいいだろ。それよりも、何か理由があって売れないとかか?」
「まあ、そうだな。あの剣は少し訳ありでな。それを聞いてから買うっていうのもいいんじゃないか?」
「……そうだな。それじゃ、その訳って?」

 訳ありと聞いて、俺はあの剣には精霊が付いているだとか剣そのものが生きているなんて可能性を考えた。
 しかし、どうもおっちゃんの表情から察するに、そうではなさそうだ。そもそも、使うこと自体に問題があるのかもしれない。

「あれは所謂ってやつなんだが……」

 まさかの魔剣のような剣じゃなくて魔剣だった。

「魔剣は使う者を選ぶ。選ばれれば、とてつもない力を発揮すると言われている。しかし選ばれなければ、切れ味は銅の剣程度の最弱武器へと成り下がる。それでも買うか?」
「あーはいはい。そういうのは別に問題じゃないんで。それで、買ってもいいか?」
「……お前さん、転売する気じゃないだろうな?」
「まさか。こんなかっこいい剣を転売するなんて、そいつはじゃないね。使えなかったら飾っておくだけだ」
「……そうか。なら、金貨十枚を払ってくれ」
「了解」

 俺は巾着袋から金貨を十枚取り出して店番のおっちゃんに手渡す。すると、おっちゃんは壁にかけていた魔剣を手に取り、専用の鞘に入れると手渡してきた。
 魔剣を受け取った時、実物の剣というのは案外重いものだと実感を持つことができた。

「ありがとな、おっちゃん」

 適当にお礼を言うと、俺は魔剣を鞘に付いている斜めがけ用の皮ベルトを使って背負い、武器屋を出た。

 武器屋を出て次に向かったのは服屋。理由は、今着ている学生服がどうもこの世界では目立ってしまうからだ。俺は目立つということは苦手だ。

「いらっしゃーい」

 服屋に入ると、やる気がないのかかなり適当な「いらっしゃーい」が飛んできた。
 服屋の店員は武器やと違って数人いる。しかも、その全てが女性だ。一瞬女性服専用の店にでも入ってしまったのかと思ってしまった。

 それから適当に服を選び、試着をしてサイズが合った物を購入して店で着替えた後に店を出た。購入した服はスーツのような服で、一番しっくりくる例えはカフェのマスターがよく着ているような服だ。ちなみにイメージカラーは赤茶色だ。

 これはこれで目立たないのかと言われれば、これがなんと意外と目立たない。何故なのかというと、恐らくはこの街の店の店員が同じような服を着ているからだ。服屋の途中で見た雑貨屋の男店員など、結構こういう服を着ている人がいた。

「さてと、後は住処だな」 

 どうやらこの世界には冒険者ギルドなんてものがあるらしいが、そんなことよりも滞在するための家の方が大事だ。そして何より、俺は冒険者になるつもりはない。戦いはかっこいいが面倒なので嫌いだ。

 俺は自分が住む家を探すために、この街の不動産屋に向かった。人に道を訪ねながらの移動はきつい。
 そして、誰もが気になっているであろう何故別世界だと言うのに言葉が通じるのかについては、はっきり言って全くわからない。というか、わかっていたらこんな疑問は持っていない。

 街の人達に教えてもらった通りに進み、ついに不動産屋に着きさっさと中に入る。

「あのー、ここって不動産屋ライトって名前の店であってるかー?」

 ──返事はない。留守なのだろうか?

 留守なのに鍵が開いているのは少し妙だが、そんなことは気にせずここでゆっくり待つとしよう。丁度カウンターに椅子があるし、とりあえずはそこに座っておこう。


 ──…………………………。

「いや遅いわ!」

 遅すぎるぞ店員! あれから何時間待ったと思ってんだ! あと一分で待ち時間二時間という前代未聞の記録を更新しちまうじゃねぇか!

 あれからかなりの時間待っていたが、店員は未だに来ない。一体どれだけ待たせる気なのだろうか。
 確か、この不動産屋についての話を聞いている時に一人の女性住民が言ってたか。ここの店の評判は店員が原因で低いんだとか。でも、それ以外は完璧な店な分勿体ない気もすると。
 そして、その原因となっている店員は何と客を待たせるらしい。ほんの数分かと思っていたが、まさかここまで待たせられるとは思わなかった。

「ん、おぉー、客かー。久しぶりだー」

 待ちくたびれて居眠りしかけていた所に、店の奥からダンディーな声質を持つ男が出てきた。

「遅せぇよ。一体何してたんだ?」
「いやぁー、バイトの奴にセメントの塗り方を教えていたら時間がかかってなー。それに、最近どうも客が少ないからどうせ来てないだろうと思ってたから、ついつい向こうの方に集中しちまってた。申し訳ない」
「客少ないのは完全に客を待たせる行動が原因だよな!? ていうか、指導に専念するならせめてここの鍵は閉めてけよ!」
「まあまあ。それで、今日は何用で?」
「ここの店の名前知ってるか!? 『不動産屋』だ馬鹿野郎! 不動産屋に来てする事なんて一つだろ?」
「お茶出して話してお終い」
「よしもうお前この店閉めろ」

 少ししょうもないやり取りをした後に「冗談だってぇ~」なんて軽く返答し、苛立ちから一度こいつを殴ってやろうかと思ってしまった。しかし、ここで殴るのは良くない。殴ってしまえば、下手すると今日の夜は野宿になってしまう。

「それで、ご要望は何?」
「そうだな……どうしようか……」
「発言する前に内容を考えておきなさいって学校の先生から教わらなかったのか?」
「お前いちいち腹立つな。とりあえず、室内で店を開けるくらいの家が望ましい」

 今更だが、俺は冒険者稼業をしない代わりに何か商売をしようと思っている。いくら大金を貰ったとしてもいつかはなくなる。その前に収入源を確保しておかないと、家なし飲まず食わずで餓死という未来が待っている。
 ちなみに何を商売にするかは決めていない。

「玄関を広めにするか、玄関の先の居間を広めにするか」
「玄関の方で頼む。そうだな、この辺にある店のような感じの家ならば満足だ」
「なるほど。それならばいい物件が一つだけ残っている。言葉で説明するのはめんどくさいから実際に見に行くぞ」
「……まあ、見た方がいいか」

 正直こういう自分の家を決めるというのはやったことがない。いつも引越しをする時には親が手続きをしていた。だから、実際に話を聞くよりも実際に見た方が俺にとっては理解しやすい。
 まあ、そもそも平面図とか間取り図とかは名称しか知らないので話自体理解できないと思う。

 ──LDK? 何だそれ?

 それから俺は不動産屋を出て、その話に出た物件がある場所に向かう店員について行った。

 あれ、この店員あの店の鍵閉めてたっけ?
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