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第二部 マスター、私は少し寂しいです
擬似的な触れ合い 前編
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風景が変わって一番初めに目に入ったのは、大きな石レンガ造りの噴水だった。それに、周りを見渡すと今までにゲーム画面でしか見た事のない建物やNPCがあった。
「MMOゲームって初めて入るけど、予想以上のインパクト……」
このモンスターファンタジーというゲームにはモニターに接続してプレイするかVRゴーグルを装着してプレイするという二つのプレイスタイルがある。
そんなゲームに私は、まるでこの世界に転移してきた人間のように自分の思うように体を動かせる。
「お、ちゃんとエルフ耳」
『モンスターファンタジーにようこそ!』
「うわっ!?」
誰もいないというのに突然聞こえた声に驚き、一人何も無いところで腰を抜かす。人に見られていないかと心配になったが、何故か周りには人がいない。
まあ、腰を抜かしたところを見られなくてよかった。
『まずはチュートリアルです。必要ですか?』
「勿論お願いします」
『…………』
「ってあれ、動かない?」
おかしい。こういうのって自分が返事をして会話が進むタイプじゃないのか?
「えっと……必要です。お願いします。いる──」
取り敢えず色々な返事の仕方をしてみる。いつかは反応するだろう。
「じゃあ次は……はい」
『了解しました』
「お、反応反応」
「はい」という返事で反応したということは、これ以降の選択肢は「はい」か「いいえ」でいいということだ。
それもそうだ。このゲームにはまずNPCと直接会話するというシステムはない。全てコントローラーによって選ぶ選択肢にしか反応しないようになっている。今の様に。
プレイヤーの間ではゲーム内のボイスチャットシステムで会話ができるらしいので、私とのコミュニケーションを取ることに関しては問題はないだろう。
『──以上です。それでは、モンスターファンタジーを楽しんでください!』
チュートリアルの声がそう言うと、私の目の前にサーバー選択画面が現れた。
──なるほど、人がいないのはそれが理由か。
モンスターファンタジーのサーバーは合計で二十個あり、その内の『初心者歓迎』と書かれたサーバーを選択した。恐らく、マスターはこのサーバーに入ってくると予想しているだろうという私の推測からこのサーバーを選んだ。
え、何で一つのサーバーから入ったのに別サーバーを選べるのか?
その答えは簡単で、プレイヤーがサーバーから別のサーバーに移動できるように私も別のサーバーへと行けるからだ。
そしてサーバーを選択すると、一瞬にして人が周りに現れた。どれも自由気ままに動いていることからプレイヤーであろう。
「これは珍しい。種族ごとにスポーン地点が分けられない系のゲームか……」
ということは、マスターとは合流しやすいだろう。
一体マスターがどんな種族と見た目をしているかはわからないが、プレイヤー名を見れば何とかわかるだろう。多分。
………ん、名前? 今思えば名前については特に考えずに付けたな。何だっけ……。
「そうだそうだ。こういう時にこそチュートリアルの知識だ」
確かチュートリアルでは「スタートボタンを押すとステータスが開きます」って言っていた。こういうゲームには大抵ステータスに名前が載っているはずだ。
さてさて、ステータスを開けて……、
「って、スタートボタン押せないじゃん」
そう、今思えばスタートボタン何て押せるわけない。それに、チュートリアルであった「攻撃方法は各種のボタンによって変化します」と言っていたがボタンなんて押せない。
あれ、これ詰んでない?
「待て、こういう時こそ異世界転生系の話で得た知識で何とかするんだ」
私は異世界転生系の話で偶にあるステータス呼び出しを思い出す。これで出なければお手上げだ。
「まず、『ステータス』」
………しかし何も起こらなかった!
流石にこれはないと思っていた。これでできたら逆に驚いてた。
それならばと、今度は指をスライドして出すという方法を試す。こういう場合は大抵人差し指を使う。
「フィンガーコントローラー発動! コマンドを入力、上、右、左、下にスライド!」
……しかし何も起こらなか──
「まだまだぁ、逆の指で上、右、左、下!」
何と、ステータス画面が出てきた!
やはり最強なのはフィンガーコントローラーであった。
まあ勿論そんなことはなく、偶然左の人差し指で下から上にスライドする動作がこの世界のステータスを開くモーションと一致したからだ。これは運がいいと言うかはやけくそだ。
「えっと名前が……」
そこに書かれていた私の名前は『アマデウス』であった。それを見た瞬間、自分が凄く恥ずかしくなった。
このアマデウスという名前の由来だが、ラテン語で「神に愛されし者」という意味がある。当時両親がいなかった私はこの言葉に憧れ、昔からゲーム内で使っていた名前だ。ちなみに今でも使っている。
何が恥ずかしいのかって言うと、マスターに知られてしまうからだ。
このゲームでは課金すれば名前を変えられるが、勿論そんなことに課金なんてしない。つまり、この昔の自分にとっては第二の名前である『アマデウス』を知られたくはないのだ。
「いや、そもそもこんな人数の中でマスターと遭遇するはずがない。見つかる前にここを移動」
「もう見つけてるよ」
「うわーっ!?」
急に死角から声をかけられ、完全にビビってしまった。というか、死角からの声かけはダメだろホラゲーじゃないんだからさ。
声をかけられた方に振り向くと──
「えっと、霧乃さんでいいんだよね?」
「……姿違いすぎません?」
「人のこと言えないよね?」
そこにはまるで悪魔のようなメイキングがされたオーガ──マスターがいた。
「MMOゲームって初めて入るけど、予想以上のインパクト……」
このモンスターファンタジーというゲームにはモニターに接続してプレイするかVRゴーグルを装着してプレイするという二つのプレイスタイルがある。
そんなゲームに私は、まるでこの世界に転移してきた人間のように自分の思うように体を動かせる。
「お、ちゃんとエルフ耳」
『モンスターファンタジーにようこそ!』
「うわっ!?」
誰もいないというのに突然聞こえた声に驚き、一人何も無いところで腰を抜かす。人に見られていないかと心配になったが、何故か周りには人がいない。
まあ、腰を抜かしたところを見られなくてよかった。
『まずはチュートリアルです。必要ですか?』
「勿論お願いします」
『…………』
「ってあれ、動かない?」
おかしい。こういうのって自分が返事をして会話が進むタイプじゃないのか?
「えっと……必要です。お願いします。いる──」
取り敢えず色々な返事の仕方をしてみる。いつかは反応するだろう。
「じゃあ次は……はい」
『了解しました』
「お、反応反応」
「はい」という返事で反応したということは、これ以降の選択肢は「はい」か「いいえ」でいいということだ。
それもそうだ。このゲームにはまずNPCと直接会話するというシステムはない。全てコントローラーによって選ぶ選択肢にしか反応しないようになっている。今の様に。
プレイヤーの間ではゲーム内のボイスチャットシステムで会話ができるらしいので、私とのコミュニケーションを取ることに関しては問題はないだろう。
『──以上です。それでは、モンスターファンタジーを楽しんでください!』
チュートリアルの声がそう言うと、私の目の前にサーバー選択画面が現れた。
──なるほど、人がいないのはそれが理由か。
モンスターファンタジーのサーバーは合計で二十個あり、その内の『初心者歓迎』と書かれたサーバーを選択した。恐らく、マスターはこのサーバーに入ってくると予想しているだろうという私の推測からこのサーバーを選んだ。
え、何で一つのサーバーから入ったのに別サーバーを選べるのか?
その答えは簡単で、プレイヤーがサーバーから別のサーバーに移動できるように私も別のサーバーへと行けるからだ。
そしてサーバーを選択すると、一瞬にして人が周りに現れた。どれも自由気ままに動いていることからプレイヤーであろう。
「これは珍しい。種族ごとにスポーン地点が分けられない系のゲームか……」
ということは、マスターとは合流しやすいだろう。
一体マスターがどんな種族と見た目をしているかはわからないが、プレイヤー名を見れば何とかわかるだろう。多分。
………ん、名前? 今思えば名前については特に考えずに付けたな。何だっけ……。
「そうだそうだ。こういう時にこそチュートリアルの知識だ」
確かチュートリアルでは「スタートボタンを押すとステータスが開きます」って言っていた。こういうゲームには大抵ステータスに名前が載っているはずだ。
さてさて、ステータスを開けて……、
「って、スタートボタン押せないじゃん」
そう、今思えばスタートボタン何て押せるわけない。それに、チュートリアルであった「攻撃方法は各種のボタンによって変化します」と言っていたがボタンなんて押せない。
あれ、これ詰んでない?
「待て、こういう時こそ異世界転生系の話で得た知識で何とかするんだ」
私は異世界転生系の話で偶にあるステータス呼び出しを思い出す。これで出なければお手上げだ。
「まず、『ステータス』」
………しかし何も起こらなかった!
流石にこれはないと思っていた。これでできたら逆に驚いてた。
それならばと、今度は指をスライドして出すという方法を試す。こういう場合は大抵人差し指を使う。
「フィンガーコントローラー発動! コマンドを入力、上、右、左、下にスライド!」
……しかし何も起こらなか──
「まだまだぁ、逆の指で上、右、左、下!」
何と、ステータス画面が出てきた!
やはり最強なのはフィンガーコントローラーであった。
まあ勿論そんなことはなく、偶然左の人差し指で下から上にスライドする動作がこの世界のステータスを開くモーションと一致したからだ。これは運がいいと言うかはやけくそだ。
「えっと名前が……」
そこに書かれていた私の名前は『アマデウス』であった。それを見た瞬間、自分が凄く恥ずかしくなった。
このアマデウスという名前の由来だが、ラテン語で「神に愛されし者」という意味がある。当時両親がいなかった私はこの言葉に憧れ、昔からゲーム内で使っていた名前だ。ちなみに今でも使っている。
何が恥ずかしいのかって言うと、マスターに知られてしまうからだ。
このゲームでは課金すれば名前を変えられるが、勿論そんなことに課金なんてしない。つまり、この昔の自分にとっては第二の名前である『アマデウス』を知られたくはないのだ。
「いや、そもそもこんな人数の中でマスターと遭遇するはずがない。見つかる前にここを移動」
「もう見つけてるよ」
「うわーっ!?」
急に死角から声をかけられ、完全にビビってしまった。というか、死角からの声かけはダメだろホラゲーじゃないんだからさ。
声をかけられた方に振り向くと──
「えっと、霧乃さんでいいんだよね?」
「……姿違いすぎません?」
「人のこと言えないよね?」
そこにはまるで悪魔のようなメイキングがされたオーガ──マスターがいた。
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