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第二部 マスター、私は少し寂しいです

最低な人 前編

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 一体、何故教えてくれなかったのか。何故、何度も会っているというのに一度も言ってくれなかったのか。そして、何故この二人は生きているのか。

「……尾行していたのか」
「………」

 この状況に、怜央さん——いや、父さんはそう言い、母さんと思わしき人は何も言わなかった。

 私の両親は、私がまだ幼い頃に外国の出張先に向かう途中で事故に会い、命を落とした。飛行機の墜落による死亡だったので骨も残ってはいなかったらしい。
 だが、どういう訳か姿は変わっているが生きている。一体どう言った方法で生き延びたのか。そして、何故この世界にいるのか。

「何で、生きてたんなら、一言言ってくれてもよかったじゃない!」
「…………」
、一体どういう気持ちで今まで生きてきたのか。どういう扱いを受けてきたのか」
「……それは」
「お前達がいなくて、どんなに辛い幼児期を過したか!」
「……すまない」

 父さんは顔を俯かせて謝る。だが、それでも私の怒りは治まらない。

「何でそんな態々隠す必要があるんだよ! パッと言えば済むことじゃない!」

 思ったことを素直に言う。今の私には、この二人に対しては怒りの感情しかない。

「そんな自分の子供を勝手に大丈夫だとか決めつけるなんて、そんなの親を名乗る資格なんて、ないんだよ!」

 そう言うと私は走って外に出て行った。こんな親を名乗る最低な人達と一緒になんていたくない。

海底からほぼ壊滅に近い状態の電波の道に入り、飛行機のデータにアクセスしたあの空港まで戻ってきた。
 兎に角、今はマスターの家に帰ろう。


* * * * * * * * * * * *


 特徴的な話し方の変化や声の高さから、あの男は私の父親と似ていると思っていた。もしかしたら、父親本人ではないかとも期待していた。
 それと同時に、父親ならばいつか私を昔のように呼んでくれるはずと思っていた。

「——決めつけてるのは、私の方もじゃないか」

 そうやって期待したりしていたのも勝手な決めつけの一つだ。何が最低な親だ。私の方こそよっぽど最低ではないか。

「……あれ、ここ、何処?」

 ぼーとしながら歩いていると見知らぬ場所に来た。
 いや、何処か見覚えのある場所だ。

「この光景……」

 データの世界でも人間界の面影というのはある。例えば、渋谷のスクランブル交差点なら空色や地面の色、建物の形が違っても大体物の大きさや配置は人間界のものと同じだ。人間界のデータを元に出来ている世界なのだから当たり前だ。

 そして、今私がいる場所は——

「冬田市……」

 冬田市——つまり、私が生まれ育った場所だ。それに、今私が立っているこの場所は大神切刃が住んでいた家の前だ。
 何故こんな所に来てしまったのか。

「………」

 私はゆっくりと歩き、自分が住んでいた家に向かう。
 私の家は二階建ての一軒家で、父さんと母さんの二人と生活していた。この家のローンは既に払い終えていたので私が一人で暮らしていた時にローンを払わなくてもよかった。

 扉は人間界とは違ってコンピューターにアクセスしてパスワードを入力して入るというような感じだったので、この家に入るためのパスワードを入力して家の中に入った。
 パスワードは「0621」——私の誕生日の六月二十一日から来ている。

「これは……」

 中は色々なものがあった。それこそ、私の幼児期にあった物や私がまだ生まれていない頃からある物などなど……。
 私は奥へと進み、一階の自分の部屋に向かう。
 そして、自分の部屋の扉を開いて中に入る。

「……こんなのあったっけ?」

 私の部屋の中にはパソコンやゲーム機に加え、今ではあるはずのない子供向けの電車のおもちゃや絵本がある。パソコンやゲーム機などの今現在あるもの以外全て売り払ってもデータとしては残っている、ということなのだろうか。

「この写真は……」

 私の目に入ったのは、絵本が入ってある本棚の上に置いてあった写真だ。その写真には、子供の頃の私と父さんが一緒にこの部屋で遊んでいた時の光景が写っている。
 とても幸せそうな笑顔だ。

「こんな笑顔……出来たんだ」

 自分自身こんな笑顔が出来たことに驚いた。父さんと母さんがいなくなってからは笑うということすら忘れていた。

 ——そんな時に笑ったのがマスターといた時だっけ。

 私は自分の部屋から出て階段を登って二階のリビングに向かった。
 二階には父さんと母さんがいなくなってからしばらく行っていないので、人間界ではホコリや荷物で溢れている。ガスに関しては元栓を切っているので火事の心配はなかった。
 そんなリビングは、この世界では私が幼児期の頃と全く変わっていなかった。

「また写真……」

 部屋の壁に掛けられている写真が目に入った。写真には、この家をバックに父さんと母さんと私が笑顔で写っていた。
 この写真は確か、父さんと母さんが事故に遭う前日に撮影したものだ。

 ——その次の日から、私の人生は歪み始めた。

「やっぱりここにいたか」
「——っ!?」

 写真を見ていると背後から父さんの声が聞こえた。

「どうしてここに、てな顔をしているな」
「どうしてここに……」
「ここに来る。それが俺にとっての習慣だからだ。見つけたのは偶然だ」
「そう……」
  
 父さんもきっと、私と同じようなことを思っているはず。そう思いたい。

「………」
「………」
「……母さんは?」

 長い無言空間を破り、私は父さんに質問する。
 ずっと気になっていた。何故、いつもいつも父さん一人で行動していて母さんは一緒に行動しないのか。
 母さんの生存は確認している。何か行動出来ない理由でもあるのだろうか。

「連れて来ていない。いや、連れて行けないんだ」
「どういうこと?」
「母さんは……今、足がない」
「……え?」
「そのことを含めて、俺と母さんに起こったことを全て話そう」

 そして父さんは、今まで私に隠してきた理由と父さん達に何が起こったのかを話し始めた。
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