電脳世界で美少女はじめました

有栖 璃亜

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第一部 マスター、これからお世話になります

命懸けの住処探し 後編

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 俺は最初のコンピューターから脱出した後も別のコンピューターにアクセスを試みるも、どれもウイルスバスターという名の厳重なセキュリティが掛けられていた。

「何でどのコンピューターにもウイルスバスターがあるんだよ……」

 決して全てのコンピューターにウイルスバスターがしているなんて考えはしていないが、俺がアクセスしようとしたコンピューター全てにウイルスバスターがあった。
 ここまで来ると流石に自分の不運さにウンザリさせられるところだ。

「もし、次の所にもウイルスバスターがあったら第二手段にするか」

 ウイルスバスターを突破して無理やりアクセスする方法もあるが、数え切れないほどの警備員が出てくるんだから成功する可能性はかなり低い。
 だが、これが最後のチャンスだ。可能性は低くてもやるしかない。

「もうウイルスバスターでも何でもかかってこい!」

 そう意気込んでゲートを通り、コンピューターにアクセスする。

 ——さあ、来るなら来い!

 いつウイルスバスターの警備員が現れてもいいように身構えているのがアクセス音以外の音はしない。

 いや、奴らが来ないなんて油断はしてはならない。
 最後まで油断するな大神切刃。奴らはお前が油断した時に絶対に出てくるぞ。

 それから数分経過してもなお、奴らは現れない。
 もうすぐアクセスが完了するのに奴らが出現する時の音すら聞えない。
 そして、ついに念願のアクセスが完了した。

「よし……!」

 アクセスが成功したことにより目の前の扉が開く。
 俺は扉の奥に進むと後ろの方から扉が閉まる音が聞こえた。
 恐らく、再びセキュリティが掛けられたのだろう。

 しばらく進んでいると、急に足場がなくなりまるで、無重力空間のようになった。
 俺は無重力になった空間を水泳の泳ぐ感覚で進んで行く。

「ん? あれは……」

 俺は縦長で長方形型の少し大きな窓のようなものを見つけた。そして、その窓からは光が射し込んできている。

「ッ!!」

 俺はその窓を覗くとあまりの驚きに言葉が出なかった。
 俺が窓の外で見た物……それは……。

「えっと……君は誰?」

 今の俺の体よりも遥かに大きいの姿だった。

 まさか、データで出来た体が人間の体よりも遥かに小さいとは思わなかった。
 いや、冷静に考えてみればそうだ。この体でスマホやパソコンの画面に現れるとしたらその画面のサイズに合わせなければならない。
 スマホなどの携帯電話なら小さく、大型テレビやスクリーンだと大きくなる。
 そして、今目の前にいる少年は巨大に見えることから、俺が今いる場所はこの少年の携帯電話の中だろう。

「ねぇ、聞いてる?」
「あ、はい、すみません」

 俺がずっと黙って考え込んでいたせいか、さっきの質問を聞いていないかと思われたらしい。

 うーん、流石に本名で名乗りでるわけにもいかないし、そもそも今の姿で切刃という名前はおかしいだろう。
 ついでに言うと、この一人称と口調もだ。
 『個性的』で済ませてもいいが俺自身が気に入らない。


 ——いっちょ今の姿に合うように演じてみますか!


 俺は、いつもの男から女を演じることにした。
 今は下手かもしれないが、その辺は少しずつ練習していこう。
 それに、認めたくはないが俺はもう男じゃない……女だ!!

 ……自分で言っといてなんだが恥ずかしいな。

「よし……!」
「?」

 軽く意気込むと目の前にいる少年は首を傾げる。

 大丈夫だ、ただ演じるだけでいい。お前なら出来る、切刃……いや、今日から私は大神 霧乃おおがみ きりのだ!!
 
 ——捻りがないなこの名前……。

「私の名前は大神霧乃といいます。単刀直入に言いますと、私をここに住まわせてくれませんか?」

 自己評価は十点中八点というところか。
 ちゃんと話せはしたが、少々表情と話し方が固すぎた。

「え、あ、うん。別に変なことをしなければいいよ」
「あ、ありがとうございます!!」

 そう言って、私は目の前の少年に一礼をする。
 少年からの許可は得た。という事は、今日からここが俺の住処だ。
 ミッション完了、最低限の住処は確保した。

「よかった……一体どれだけの時間を掛けたか……」
「そうなの? それは大変だったね」

 ありがとう少年よ。君のお陰で大神霧乃は救われた。
 体感時間は軽く一日ぐらいなんだが、実際どうなんだろうか。

「えっと……」
「あ、僕の名前は藤原 大輝ふじわら たいきね」
「じゃあ、大輝さん。今日って何月何日の何時何分ですか?」

 確か、俺がこの世界に来る前の日付は、七月十六日の日曜日で午前二時くらいだった。
 俺がこっちに来てからかなり時間が経っているような気がする。
 ないとは思うが、半年経ってたなんてことはないよな?

「えっと……確か今日は、七月十六日の日曜日で時間は午前六時だよ」
「……それって本当ですか?」
「うん。僕が今嘘を言う意味なんてないでしょ?」
「確かにそうですね」

 ——どういうことだ?

 こっちではあれだけの時間が経ったのにも関わらず、大輝さんがいる世界(人間界でいいか)は、まだたったの四時間しか経っていない?

 もしかして、サイバネットワールドと人間界とでは時間の流れの速度が違うのか?
 だとすると、俺がサイバネットワールドで一日分の運動をしても人間界ではその六分の一しか運動していないことになるのか。

「あの、呼び方……」
「呼び方がどうかしましたか?」
「で、出来れば僕のことをって読んでほしいなー、なんて」

 なぜにマスター?
 確かに住処を提供してもらっている身だが、人間で言う賃貸マンションに住んでいることと同じだ。
 でも、そこまでの関係ではない筈だ。

「あの、やっぱり無理だよね……?」
「うっ……」

 大輝さんは俺を見てしょんぼりした顔で見つめてきた。
 そんな顔をされてしまったらNOなんて言うことなんてできないに決まっているじゃないか。

「わ、わかりました。マ、マスター」
「あ、ありがとう!!」

 大輝さんもといマスターはとても嬉しそうな顔をした。

(か、可愛い……)

 ふとそんなことを思ってしまうぐらいにマスターの嬉しそうな顔は可愛かった。
 そして、しばらくマスターの顔を見ているうちに……。

「ハッ!」
「ん?どうかしたの?」
「い、いえ」

 危ない危ない。男である俺が一人の少年の顔に夢中になってしまうとは……マスター恐るべし!
 マスターの顔だけで男の精神が演じている女の精神側に取り込まれそうになった。

 なんだかんだで、目的である住処探しはいい場所を見つけたが、今度は色々なことで忙しくなりそうだ。

 そして、マスター大輝さんの生活が今この瞬間に幕を開けた。
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