病弱聖女は生を勝ち取る

代永 並木

文字の大きさ
上 下
35 / 42
最終章

病弱聖女とメイドは魔物が待つ頂上に向かう

しおりを挟む
 戦って進むがどんどん魔物の数が多くなる
 倒せなくは無いが魔物を倒すのは目的じゃない

「想定以上に数が多い」

 移動の邪魔になるから多少なら倒す予定だった
 しかし、量が増えたとなると話は別
 魔力消費が多くなる、それは身体に負荷が掛かるから極力避けたい

「これは引きましょう」

 魔物を剣で引き裂きながらエルリカが提案してくる

「そうだね」

 魔法で視界を遮って引いて岩陰に隠れる
 魔物の数が多いと魔力の消費が多い
 戦うと時間も取られて良い事がない

「あの数は不味いですね。隠れて様子を見ましょう」
「そうだね……コホゴホッ……」

 咳を少しした後、血を吐く

 ……今来るの……最悪

 隠れているとは言え音を出すとバレかねない
 口元を抑える

「アナスタシア様、大丈夫ですか?」

 エルリカは血に気付く
 小声で話しかけてくる

「大丈夫、倒れる程じゃない。ただ今は戦えないかな」
「そうですね」

 エルリカは魔物避けの道具を使う
 戦闘中などの興奮状態の時に使っても効果は薄い
 潜んで魔物が立ち去るのを待つ
 30分程度経った頃周囲の魔物が探すのを諦めたのか居なくなる

「居なくなりました。少し休みましょう」
「少し落ち着いてきたから大丈夫、進もう」
「戦闘は避けましょう」
「そうだね」

 慎重に進んでいく
 エルリカが近くに居る孤立している魔物を不意打ちで仕留める
 手馴れた動きで暗殺をしている

「進みましょう」

 道中エルリカが何度か木に登って周りの確認を行う
 私はその間、下で警戒する
 基本的に遠くを見る為、付近の魔物を見落とす可能性がある、そうでなくとも警戒するに越した事はない

「遠くに魔物が居ます。遠回りします」
「了解」

 魔物と接敵しないように移動する
 予定よりは時間かかっているが順調に進んでいると後方から大きな音がして軽い揺れが起きる

 ……な、何!?

 後ろを振り向く、特に何も見えない
 音はかなり後ろからする、木々が視界を遮る為、この場所では目視は出来ない程の距離なんだろう

「今のは……」
「魔物では無さそうです。誰か来たのでしょうか」
「誰か?」
「恐らく冒険者かと、普通に魔物を狩りに来たかそれとも私達と目的が同じか」
「それは不味い」

 先にエルダーグリフォンを倒されると素材が入手出来ない
 交渉出来ればいいが今私は特にこれと言って交渉に使える物も無い
 先に戦闘して倒す必要がある

「人が居るなら急ごう」

 定期的に後方で木々が吹き飛ばされている光景を目撃する
 木々の隙間から見える異常な光景

 ……何が来てるの??

 人の行動では無い、魔物だと言われた方が納得出来る

「あれ人かな?」
「……人では無いかもしれませんね。魔物でしょうか。かと言ってあれほどの事が出来る魔物はそうそう居ませんが……」
「他のところに生息している魔物が来る事って?」
「稀にならありますがそもそも方角的この山に強い魔物が来る事はほぼ無いですね」

 後方は国側、来るとして東や西からだが調べた限りは危険度Aはアンティリギアくらいしか居ない
 ただあの魔物は縄張りの外に出る事は基本無いと書いてあった

 ……アンティリギアは違うよね。なら別の魔物? うーん

「アナスタシア様、すみません見逃してました」
「このくらいなら問題無い」

 目の前に魔物が居た
 後方からする音で接近に気付けなかったようだ
 数は2体、なら問題無い
 光の剣で刺し貫いて倒す

 夜になり魔物避けの道具を使って休む
 夜になっても偶に音がするが夜深くなると静かになる

「音止みましたね」
「そうだね、近付いてきてるよね?」
「間違いなく」
「なら頂上目指してるのかな?」
「その可能性は充分にあるかと」

 食事を取って交代で眠りにつく
 早朝になり私達は移動を開始する
 今は3日目、明日着く予定
 頂上に近づく事に魔物の種類が代わり強くなってくる
 中には図鑑で見た危険度Bの魔物も居る
 戦わずに向かっていく

 順調に進んでいると地面が揺れる
 大きな揺れ、後方からでは無い
 山が揺れている

「な、何!?」
「地震です! 伏せてください」

 エルリカが私に覆い被さるように伏せる
 立っていた魔物達は体勢が保てずにその場に座り込む
 1分ほど揺れてその後何事も無かったかのように止まる

「今のは?」
「地震です。稀に起きる大地が揺れる現象です」
「大地魔法?」
「それが大地魔法では無いらしいです。規模も一定では無く揺れる場所もバラバラ、ただこの揺れは30年ほど前の記録に残ってた物と同等かも知れません」
「大きいって事?」
「はい」
「30年前と同じって……神様は私が嫌いなのかな」

 原因不明の病の急激な進行
 病は聖女の魔法では完治出来ず現状薬も無い
 そしてほぼ最後のチャンスのこの旅の途中で30年前と同等の大きな地震
 運が悪いで済むのかと思う程に最悪だ

「地震は再度起きる可能性があります。どうしますか?」 
「今更止まれない。寧ろ今の揺れで魔物が戸惑ってる今が進むチャンス」
「わかりました」

 私達は戸惑っている魔物を無視して頂上目指して進んでいく
 今日で頂上の近くまで行く予定、少しの遅れは余裕を作っているので問題無いがせめて討伐前までは予定通りに行きたい
 討伐は思い通りに行くとは思えないから作った余裕
 真っ直ぐ登る、数時間歩き続ける
 遭遇した魔物を倒して進んでいく

 ……もうすぐ

 調べた地形ではこの先に大きな岩がある
 わかり易い目安になる岩が
 そこで今日は休憩を取る
 先程の揺れで崩れていなければいいが

「そろそろ見えるはず」

 木々を抜ける
 そして前を見る
 地図で見た岩がそこにはあった
 岩があったから目的地だと分かったが安堵はしなかった
 何故ならその大きな岩が不安定になっていた
 揺れている、こちら側に倒れそうになっている

 ……あの揺れのせいか

 地震のせいだとすぐに理解する
 あれほどの揺れだ、岩が倒れるくらい有り得るだろう
 問題はこの岩が倒れれば倒れる方向に居る私達は潰されるという事

「アナスタシア様回避を!」

 ……間に合わない

 回避は間に合わない、今から反応して動いても安全地帯までは間に合わない

「光よ聖女の名を持って命じる」

 一か八かの魔法詠唱
 攻撃して破壊する、そうすれば潰される事は無くなる
 早く詠唱をする
 ギリギリ潰れる前に発動出来れば……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...